第130話 命と光と死と彩虹
豆知識
この世界で言語、文化、食料や動物などが共有されているのは、アルヴィースがその役目の都合上「いちいち勉強するの面倒くせぇ」っつって統一したからです
他星の文化も容赦なく改変するクズ。あながちノーノゥも間違った事言ってないな
ある日の事。夜ご飯を食べ終わった頃、突然リーヴが言い放った。
「ね、日の出見ようよ」
そもそも夢界ハウスから出る時は、入った位置に戻ってくる。今回の旅団は『景色が良い』との理由で、海の見える崖の上で家に入っていた。日の出を見るにはうってつけの場所だろう。
「日の出ですか…構いませんが、どうしてですか?」
「なんか、綺麗らしいから。ノーノゥがいってた」
「いいじゃん、見ようよ」
「賛成です!明日は早起きですね!」
「では、もう寝ましょうか」
「うん。おやすみ」
そして、4人はいつもより早めに部屋に帰って眠りについた。寝ている者を起こせるように、2人で1つの布団を使う事にしたそうだ。クオンも、リーヴに手袋さえしていれば他人に触れて大丈夫になったので、快くアルシェンと添い寝していた。
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翌朝。リーヴはまだ暗い中で目を覚ました。
「ん…」
隣にセラは居ない。リーヴより先に目が覚めたらしい。
「セラ…」
リーヴはまだ眠たそうに目を擦りながら、水を一口だけ飲んで外に出る。すると、目の前の崖に腰掛けるセラがリーヴの方を振り向いた。
「あ、リーヴ。起きたんだ」
「うん。おはよ、セラ」
リーヴもその隣にやってきて、セラと肩を寄せ合って座る。
数分程、静かな時間が流れて行った。微かな波の音や微風の音が心地良い時間だった。その静寂を優しく破るように、リーヴがゆっくり口を開く。
「…ね、セラ」
「…なに?」
「わたし…ね。思うんだ」
『ぽそぽそ』と話すリーヴの声は、やはりまだ眠そうだ。
「わたしは目を覚ました時…本当に、なにもなかった。服も、意思も、目的も…名前も、全部」
「…だね。何だか懐かしいよね。あたしと君が会ってからもうそんなに……って、この話何回するんだろう…」
「ふふ…でもわたしは、色んなもの、もらったよね」
「そうだね…本当に、色んな場所に行ったからね」
リーヴは過去を懐かしむような笑みを浮かべながら、依然としてぽそぽそと語り続ける。
「パラノイアには、あの便利な袋をもらった。寒い星のおじいちゃんには、野宿用のテントをもらった。エルミスには、みんなでわいわいする事の楽しさを教えてもらった、ね」
「わぁ…よく覚えてるね。言われるまで思い出せなかったよ」
「クオンとアルシェンには、いつも守ってもらってるし。フォルティには、覚悟と、セラ達のありがたさを教えてもらった…」
リーヴは足をパタパタさせながら次々に言葉を並べていく。
「サンサーラには命を助けてもらったし、タナトスには『当たり前が幸せ』であって『幸せは当たり前じゃない』ってことを教えてもらった」
「…思えばあたし達、星だけじゃなくて色んな人にも会ってきたよね」
「流離には夢の中で助けてもらったし、幻には今のお家をもらったし、ノーノゥは、わたしの友達になってくれた…」
思い出せる全てを話した時、リーヴは一旦大きく息を吐いた。
「そして……ふふ。わたしは…」
「あなたに、名前をもらった」
「リーヴ…」
(その事も…ちゃんと覚えてくれてたんだ)
セラは感動と嬉しさに打ち震えている。涙が出そうになるが、話の途中なので頑張って留める。
「全部全部…絶対忘れない。わたしの大事な…宝物、だよ」
「…そっか」
微笑むリーヴに向かって、セラも何かを話し始める。
「…あたしも…1つ、思うんだ」
「なに?」
「この旅も…きっと永遠じゃない。あたしの命みたいに…いつか、終わりが来る…んだと思う」
「…うん」
「もし…」
「ん?」
「えっと…馬鹿げてる話だけど……もしこの世界が《誰かに作られたもの》で…あたしのこの言葉も、君も他の皆も…全部、作り物だったとしても…さ」
セラは荒唐無稽な話をしている自覚があるのか、少し恥ずかしそうに語る。
「今の…この幸せだけは、作り物なんかじゃないって、あたしは胸を張って言えるんだ。だから、その…あたし達は今を生きようよ。今、確かに手の中にある命と幸せを…精一杯楽しもうよ。これからも、4人で、ずっと…」
「セラ…」
「あ…ごめん、格好つけ過ぎた…よね?」
「ううん。すごく、そう思う」
そして、2人はまた沈黙の中に身を投じた。
それから数分後、水平線が徐々に光を帯びてきた。
「…あたし、2人呼んでくるよ」
丁度セラが立ち上がったその時、後ろから誰かがセラの背中に飛びついた。
「セラちゃん!」
「わっ…!あ、アルシェン…」
「ふぁ…すみません、少し寝坊してしまいました」
「おはよ、2人とも」
「あ、ほら見てください!丁度日の出ですよ!」
アルシェンが指差した先では、丁度太陽が昇って来ていた。光を帯びていた水平線はセラにも負けない程に強く輝いており、僅かに周囲に残る夜の気配はクオンのように淑やかで、4人を包む微風はアルシェンのように暖かく、かつ心地の良い風だった。
「綺麗…」
「絶景…ですね」
「早起きした甲斐がありましたね…!」
リーヴは景色に感動するあまり、言葉を発する事を忘れていた。やがて我に帰った時、リーヴはただ一言。他の3人にだけ聞こえる声量で呟いた。
「…うん。これからもずっと、ずっと…みんなで旅をしよう、ね」
それは、クオンとアルシェンからすれば些か唐突な発言だった。しかし、2人は一瞬顔を見合わせた後にリーヴに向かって微笑みをみせる。
3人の返答は記さない。記さずとも分かっている筈だ。ずっと彼女らと共に居たリーヴも、ここまで彼女らの旅路を見守ってきた君達も。
これにて第1章完結です
まだまだこの物語は続くので、引き続き彼女らの旅路を見守ってあげてください




