第128話 僕が唯一出来る事
「わたしは絶対…あなたのこと、忘れないから」
消えていくノーノゥの身体を最後まで抱きしめながら、リーヴは呟いた。それを見届けたアルヴィースはリーヴに近寄ってきたかと思えば、突然深く頭を下げた。
「…ありがとう。最後の一時…君の腕の中に居た時、ノーノゥの中に『幸福』が生まれてた。僕じゃ絶対…死に際にあんな感情を抱かせる事は出来なかったよ」
「…ねぇ、アルヴィース」
顔を上げて振り向いたリーヴは、真面目な面持ちになっている。彼女は『とある予想』が頭の中に浮かんだのだ。ある種の、哀しき予想が。
「もしかして…その……ノーノゥが、視界から外れちゃった…ってことは…」
リーヴはアルヴィースの背後に立っているセラ達3人に目を向ける。
「…うん。彼女らはもう…ノーノゥの事を忘れてるだろうね」
「そんな…」
「やるせ無いのは分かるよ…何か言いたい事があるなら、僕に言ってくれ。全ての元凶は…僕だからね」
自嘲気味に言うアルヴィースだったが、リーヴが彼の予想していた言葉を発する事はなかった。代わりに、こんな忠告のような事を言った。
「…絶対」
「ん?」
「絶対…ノーノゥのこと、忘れちゃだめだよ。起きたことは、もう仕方ないから。あなたはノーノゥのこと…絶対、絶対忘れないでね。わたしも忘れないから…あの子を覚えていられるのは…もうわたし達しかいないんだから」
「…分かった。肝に銘じておくよ」
と、その時。アルヴィースは何かを思いついたようだ。リーヴに背を向けて何かし始めたかと思えば、10秒ほど後に『よし』とだけ呟いた。
「なに、したの?」
「強いて言えば…僕に唯一出来る事さ」
「アルヴィース、に?」
「…近いうちに分かる筈だよ。何日か後の昼とかに、1人でこの近くの街に出てみな」
そして、アルヴィースは空間に黒い裂け目を作る。
「…帰る、の?」
「ああ…本当、君達には助けられたよ。何か用があるならいつでも呼んでくれ。出来る限り…力になるよ」
そう言い残して、アルヴィースは案外あっさりと帰っていった。彼はあまり別れに時間をかけるタイプではないのだろう。
リーヴは気持ちを切り替えて、セラ達の元に戻る。
「リーヴ、何話してたの?」
「ううん。ちょっとした、世間話」
「帰りましょうか。長い間戦って疲れましたし」
「でも…わたし達は誰と戦っていたんでしょうか?リーちゃんがすごく頑張ってたって事は覚えてるんですが…」
「あたしも覚えてない…不思議だね」
リーヴは表情では微笑みながら、複雑な内心のまま家に帰った。




