第127話 決着、そして
リーヴの最大級の一撃がノーノゥに入り、周囲は大爆発や轟音、激しい光に包まれた。それらが収まった頃、衝撃波で吹き飛ばされたセラ達の目に写っていたのは勝ち誇る様子も無く佇むリーヴと、爆発によって隆起した岩に力無く背中を預けるノーノゥの姿。それと、たった今空から落ちてきたボロ雑巾のような姿のアルヴィースだった。
「…えっ何で?」
セラは一瞬何が起こったのか分からなかった。リーヴがノーノゥに魔法を放った筈なのに、何故アルヴィースがこうなったのだろうか。
「何でも何もさぁ…あの子手加減しなさ過ぎなんだよ。僕が居なきゃ君達どころか、この星自体が木っ端微塵だったよ?」
「なるほど…リーヴのアレの威力を抑えてたんだ」
「そう。ギリギリだったよ。仮にリーヴがこの世界に対する悪意を持って生まれてきていたら…もしかしたら僕でも解決出来ない、最悪の敵になってたかもね」
「…」
セラは今一度、リーヴがどういう存在なのかを理解した。
一方、リーヴは戦意を失って背後の岩にもたれ掛かるノーノゥを見つめていた。
「…」
「どう…したんだい。『僕を殺せ』…そう、頼まれたんだろう?」
「…うん」
「なら…早く殺せよ。どのみち…もう僕は虫の息さ。僕を長く苦しませるなんて事……善人の君には辛い事だと思うけど?」
「……うん」
リーヴは今にも泣き出しそうな、震えた声で返事をしている。
「…何を泣きそうになってるんだい。忘れた訳じゃないだろう…君のその傷は全て……僕が付けた物…だぞ」
「…できるじゃん」
「はぁ?」
リーヴの涙声に、ノーノゥは少し戸惑ったような表情を見せる。
「ちゃんとお話…できるじゃん。なんで…初めからそうしなかったの…?わたしには分かるよ…わたしのこと…『気が合う』っていってたの、あれ本心でしょ…?だったらなんで……ちゃんと言葉を交わせれば、こんな…悲しいことしなくて…よかったのに…」
「……君に」
ノーノゥは掠れた声で反論しようとするが、すぐにリーヴが遮る。
「わたしにはあなたの全てはわからないよ…きっと、誰かとお話するのだって…辛いんでしょ?でも……でも、『気が合う』って思ってたんなら…わたしが最後でもよかったじゃん…!」
リーヴは未だ、自分の気持ちを完璧に表現する事が出来ない。それにもどかしさを感じてはいたものの、記憶を読めるノーノゥにだけはしっかりと彼女の想いが伝わっていた。
「…どうして」
「え…?」
「どうして今更…君のような者が現れるんだ……もっと早く…君に出会えていたら……それなら…」
リーヴに釣られたのかは分からないが、ノーノゥも泣きそうな声になっている。最早指先1つすら動かせないノーノゥは、静かに一筋の涙を流している。リーヴはそんなノーノゥにそっと歩み寄り、優しく抱きしめた。
「ごめん…ね。あなたを…救えなくて」
リーヴが今抱いている物は、極めて純粋な哀れみ、そして慈愛だった。生まれて初めて感じた、或いはとても長い間感じていなかった人の温もり、心の温度を自覚して、ノーノゥの両目から涙が溢れ出る。
「ああ……もし…生まれ変われたら…多くの罪を纏った僕じゃない、何かに生まれ変われたら…君と…」
その先をノーノゥは言わなかった。しかし先程と同様に、リーヴにもノーノゥの気持ちは伝わっていた。
「…うん。なろう、友達」
やがて、ノーノゥの身体が緩やかに崩れ始めた。淡く光る魔力の粒子となって消えて行く自分の身体を見て、ノーノゥは死を自覚する。ノーノゥの中に、突如として焦燥が湧いて出る。
「嫌だ…やめてくれ…!やっと出会えたんだ……僕を覚えていられる人に…!」
例えノーノゥの権能が影響しないリーヴであっても、死した者の事はいつしか忘れてしまう。掠れた声を精一杯振り絞るノーノゥを、リーヴはまた強く抱きしめる。
「嫌だ…嫌だ…!僕を……忘れないで…」
その言葉を最後に、ノーノゥの身体は完全に消滅した。宙を舞う光を見つめて、リーヴは呟く。
「…忘れないよ。ずっと。もし生まれ変わって、また会えたら……友達、なろうね」
小話 〜ノーノゥ〜
元々戦いが好きではなかった彼が「皆殺し」とか言う程に好戦的になったのは、無意識のうちに「そうすれば迎えに来てもらえるかもしれない」と考えていたからです




