第126話 何も無くても
◾️◾️◾️◾️の猛攻によってリーヴとアルヴィース以外の全員が戦闘不能に陥り、そのアルヴィースも仲間の治療で戦線を離脱した。つまり、今戦えるのはリーヴだけという事になる。
「良いのかい?アルヴィースと別れて…」
「うん…わたしは決めた。みんなに任せっきりじゃなくて…わたしも戦うって」
リーヴの目には燦然と輝く決意が宿っていた。が、リーヴは内心焦っていた。いくら決意を固めようと、それだけで勝負は決まらない。リーヴに戦闘経験など皆無に等しく、先程力を扱うコツを掴んだばかりなのだから。
「面白い…付け焼き刃で僕に対抗する気か?」
◾️◾️◾️◾️はリーヴ相手に全力を出す必要は無いと判断したのか、最初に使っていた赤黒い斬撃でリーヴを痛めつけていく。
「うっ…」
何割かは消去で対応出来ているが、◾️◾️◾️◾️の言う通り所詮は付け焼き刃だ。リーヴの身体にはどんどん傷が増えていき、それに伴って流れる血の量も増えていく。
「あなたは……これでいい、の?」
「はぁ?」
「世界に……忘れられるなんて。そんなの……悲しいよ。それは……あなたが本当に叶えたかったこと、なの?」
リーヴは元来か細い声を、どうにか◾️◾️◾️◾️へ届けようとする。
「……それで良い訳ないだろう」
彼は震える声で答えた。
「だが……!だからどうしろと言うんだ!まさか君が僕を救えるとでも?誰も彼もを救える訳じゃないって事は、今までの旅じゃ学べなかったみたいだね!」
◾️◾️◾️◾️は更に攻撃を強める。リーヴも蚊の鳴くような声で呻き、苦痛に顔を歪めながら、それでも◾️◾️◾️◾️から目を離さない。
「…まだ倒れないか。記憶の中の君はここまで強くなかった筈だけど?」
◾️◾️◾️◾️は歪んだ声でリーヴに問う。
「はぁ……はぁ…ねぇ、◾️◾️◾️◾️」
リーヴは痛みを堪えながら口を開く。喋る度に全身に激痛が走る。彼女がこんな痛みを経験したのは真月と対峙した時以来だ。途切れ途切れながらも、リーヴはしっかりと自分の意思を伝えていく。
「あなた…は。さっき言ってた、よね。あなたにも、わたしにも、価値は無い…って」
「…それが?」
「わたしは、ね。それに、違うよって言いたい」
◾️◾️◾️◾️は一瞬息を詰まらせる。
「…黙れ」
「価値は無くない、よ。わたしにも、あなたにも」
「黙れ…!」
「それこそ、あなたが忘れてるだけ、だよ。きっとあなたも…誰かにとっての『価値のあるもの』だったんだよ」
「黙れ!」
リーヴはアルヴィースに託された事を思い出し、今まで消去し続けた魔力を全て1箇所に圧縮し始める。
「捨てられた物に価値なんて無いんだ…!価値が無いから捨てられたんだ!君もそうだ!僕は知っている…君には何も無いんだろう!?」
どこへ向かうかも分からない感情に身を任せ、◾️◾️◾️◾️は叫ぶ。対するリーヴの正面には銀色の魔力が渦を巻いており、神々しい光を放っている。
その時、リーヴの中にとあるイメージが湧いてきた。
(…なんだろう。ただ思うままにやってるだけなのに…勝てる、気がする)
彼女はいつもそうだ。自他問わず、大事な場面で行動を起こす時の理由は常に『やれる気がする』という漠然としたイメージだった。頼りない事この上無いが、彼女がそのイメージに従って判断を間違えた事は今まで一度も無い。きっと。きっと今回もそうなのだろう。
「…違うよ」
「何…!?」
リーヴは一旦深く息を吸い、想いをそのまま彼に伝える。
「価値の無い命も…何も持ってない人も…存在しないんだ。セラやクオンが、わたしに教えてくれた。あなたもそうなんだよ、ノーノゥ」
その瞬間、リーヴの正面で渦を巻く魔力の奔流が更に勢いを増した。
「やめろ…やめろやめろやめろ!!慰めも同情も…今更不要だ!思い出せアルケー!君は『無』だ!僕の同類だ!僕と同じ…生きている意味の無い存在なんだ!だから…僕と共に忘れられてくれ!もう……もう1人は嫌なんだよ!」
「聞いてノーノゥ!」
リーヴは大きく声を張る。それは彼の憤怒、憎悪、悲哀…全てを理解した上で発した言葉だった。
「わたしの前世が凄い神様でも、わたしの正体が無の神でも、今のわたしには関係ない。わたしは…私は『リーヴ』だから。例え何も無くたって…私はここに在るから」
その時のリーヴは、いつものようなふんわりとした口調ではなかった。『自分は此処に在る』という堅牢な意思を、『必ず勝つ』という確固たる意思を感じさせる口調だった。
一方、セラ達は治療が終わってすぐにリーヴの元に駆けつけた。
「リーヴ…!」
セラ達はリーヴから感じた事の無い規模の膨大な魔力を感じて戸惑う。
「皆離れといた方が良いよ。また治療するのは御免だ」
仲間達が後ろの方に到着したタイミングで、リーヴは小さく呟いた。
「終わりだよノーノゥ。……ごめんね」
リーヴは右の掌を上に向け、威厳すら感じさせる悠然さで天高く掲げる。そして放たれたのは、意外にも小さな銀色の雫だった。その雫は十字状の淡い光を放っており、ゆっくりと地面に落ちていく。あまりに美しいその光景に、セラやクオンはもちろん、◾️◾️◾️◾️ですら見惚れていた。
(…あれはまずい!)
途中でアルヴィースがどこかに消えたが、誰も気づいてはいなかった。
銀の雫が落ちていく最中、セラは不思議な体験をした。
(…すごい。何これ…音も、色も、匂いも…何もかもが消えてる。これが…リーヴの本来の力なの…?)
やがて雫は地面に触れ、凪いだ水面に一滴だけ水が落ちた時のような音が辺りに響いた。
そして次の瞬間には、眩さを極めた激しい光と地面の振動、それに見合う規模の大爆発と轟音が辺りに、否、星中に鳴り響いた。セラは驚きから叫び声を上げた筈なのだが、轟音のせいで聞こえない。
一方のリーヴは、その銀色の光の中で確かに耳にした言葉があった。
「どうして……今になって…」
それは歪みの消えた、純粋かつ悲哀に満ち溢れたノーノゥの声だった。
キャラクター解説
【大宙の彷徨者】リーヴ(神名 アルケー)
種族 根源種
所属 星間旅団
異能 星々の間を移動する力
権能 「無」
今回使用した技
・神の雫
→リーヴの大技。完無の勅令で貯めた魔力を全消費して放つとんでもねぇ馬鹿火力技。
概要
真月と同格の存在にして、星々を渡り歩く彷徨者。幾多の幸福に出会い、幾多の災難に見舞われ、時には彼岸すらも彷徨した。それら全てを乗り越えた先にて、彼女は確かに此処に在る。




