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大宙の彷徨者  作者: Isel


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132/199

                 .

リーヴが攻撃の仕方も覚え、勝利まであと一息というところで、リーヴ達は奇妙な感覚に襲われた。


「…?何これ…なんか、変な感じ」


ポツポツと呟くリーヴはただ違和感を覚えているだけだった。しかし、『その名前』を呼ぼうとした時に違和感の正体が判明する。


「ノー◾️ゥ……え?」

(どういうこと…?ノ◾️ノゥの名前が呼べない…?)


リーヴが戸惑いのままにアルヴィースを見つめるが、彼もたった今状況を把握したようだ。しかも、どうやら把握した内容は決して良い物ではないらしい。


「…気づいたかい?僕らの記憶から……あの子の存在が消えていっている。多分、未だに名前を覚えているのは僕と君だけさ。他の3人はもう…名前すら思い出せないだろうね」

「な、なんで?」

「敗北を予期したせいか…あの子の『忘れられたくない』って感情が極限まで高まったんだ。今の彼は…誰よりも『未知』に近い存在だよ」


皮肉な話である。彼の『忘れられたくない』という感情が高まった結果、強まる力が『未知』の権能なのだから。


「アルヴィース…!僕は許さないぞ…!愛せないなら、捨てるくらいなら、忘れ去るくらいなら!何故!どうして僕を生み出した!どうして僕を捨てた!答えろ!!アルヴィースッ!!!」


喉が引き裂けんばかりの悲痛な怒号と共に、ノー◾️ゥは姿を現した。特に外見に変化は見られないが、実際に彼と対峙しているリーヴ達には明らかに理解出来る変化があった。


「え……なんで?ノー◾️ゥの顔が…見えない…!」

「リーヴも?あたしも…何故かあの子の顔が見えないんだ。さっきまで戦ってた筈なのに名前も思い出せないし…」

「何が起きているのでしょうか…確かに視界には入れているというのに、頬より上が視界の外にあるような…」


もう誰も、彼を彼として認識出来る者は居ない。◾️◾️ノゥは忘れられ続けた悲しみと怒りから『ある結論』に辿り着いたのだ。それをアルヴィースも理解したようで、リーヴ達に伝達する。


「……あの子、忘れられようとしてる」

「え?」

「このままじゃ、この世界そのものからノ◾️◾️ゥが忘れられてしまうって事だよ…!親に捨てられるのがどれだけ辛いか…僕は理解してなかったんだ。一体どれほどの悲しみと怒りを抱けば、世界そのものに干渉出来るようになるんだ…!」

「流石に察しだけは良いじゃないか…そうさ。どうせ誰も…僕を覚えていてはくれない。皆僕を忘れてしまう。だったらいっそ!この世界から僕の存在を消し去ってしまえば良い!初めから…僕を存在しなかった事にすれば良い!それなら…もう忘れられなくて良いんだ!あんな思いをしなくて済むんだ!」


依然として顔は見えないが、◾️◾️◾️◾️の頬の辺りには涙のような筋が見える。


「そんな『戦わなければ負けは無い』みたいな理論、君自身は納得行くの?」

「黙れアルヴィース!!君に…君如きに!僕を理解出来て堪るものか!」


◾️◾️◾️◾️は掌に魔力を圧縮し始める。


「思い知れ…幾千年の痛哭を!」


圧縮した魔力を握り潰し、◾️◾️◾️◾️は自分すらも巻き込みそうな規模の爆発を起こす。


(だめ…!わたしじゃ受け止めきれない…!)


リーヴは自分の身を守るのが精一杯で、アルヴィースやセラには手が回らなかった。


「…心配しないでください、リーちゃん…でも、次は耐えられるか分からないです…!」


何とかアルシェンが貼ったバリアでセラ達を守ったが、アルシェンの台詞の直後にバリアはひび割れて砕け散った。


「みんな来て!近くにいれば守れるから…!」


リーヴはセラ達の方に駆け出すが、◾️◾️◾️◾️がそれを見逃す筈も無く、リーヴの全身を斬りつけて阻止する。


「リーヴ!」

「だい…じょうぶ、みんな逃げて…」


リーヴが這いずりながら精一杯の大声を出すが、◾️◾️◾️◾️の起こす魔力の暴風に阻まれてその声は届かない。その間にも、◾️◾️◾️◾️は再び魔力を掌に集め始めている。そして圧縮した魔力を今度は足元に移動させて、地面のリーヴ達に向かって思い切り踏みつける。


「消えろ…!僕と共に!忘却の彼方へ!!」


解き放たれた魔力は大きな渦を巻き、地面を、大気を抉るような大旋風を巻き起こした。竜巻の内部には嵐のように斬撃が発生しており、巻き込まれた他の仲間がどうなったのかを想像して、リーヴの顔が青ざめる。


「みんな…」


か細いリーヴの呟きに応える者は居らず、リーヴの絶望を加速させる。しかしただ1人。予想通りというべきか、未だ地面に膝を付かない者が居た。


「ああしんど……ま、この子達はよくやってくれた方だよ。僕のカスみたいな頼み事をさ…」

「…!アルヴィース!」

「君のお仲間は死んじゃいない…けど全員気を失ってるし、何も処置しなくて大丈夫って訳でもない。僕はこの子達の治療で一旦席を外すよ。それと…」

「…?」


アルヴィースは何かを頼もうとするが、一瞬言葉を詰まらせる。実のところ、彼は元々プライドの高い性格だ。しかし今は、今だけは、そんなドブに捨てる事すら躊躇うようなゴミを気にしている場合ではない。


「… リーヴ!頼みがある!さっきも言ったように、このままじゃ◾️◾️◾️◾️の存在は消えてしまう!この世界からあの子が忘れられてしまう!臆病で卑怯者の僕の代わりにどうか……どうか!あの子をあの子のまま死なせてやってくれ!『そこに居た者』じゃなくて…『ここに居る者』のまま!」

「……うん。分かった」


そのリーヴの目には、何か決然とした物が宿っていた。


「みんなの力になりたいって言ったのは、わたし。だから…『そういう』覚悟もできてる、よ」

「本当…恩に着るよ」


アルヴィースは3人を連れて別の場所に移動し、リーヴはもう一度◾️◾️◾️◾️に向き直る。彼女の決意は揺らがない。かつてとある青い星を救った、神であり人である、あの旅人のように。

戦いは遂に、最終局面を迎える。

【追憶の成れ果て】◾️◾️◾️◾️

種族 概念◾️

所属 ◾️◾️

権能 ◾️◾️◾️◾️

今回使用した技

「朽華・零落讃歌」

→掌に圧縮した魔力を握り潰して大爆発。凶月教の星でも使ってた


「朽華・滅尽業風」

→◾️◾️◾️◾️の大技。零落讃歌と同じ要領で圧縮した魔力を足元に移動させて踏みつけ、対象の周囲に赤黒い竜巻を起こす。竜巻の内部は斬撃が絶え間無く発生している為、巻き込まれれば「基本は」全身がズッタズタになる。

概要

「忘◾️られたくない」という◾️◾️◾️◾️の強い感情によ◾️て生◾️れた◾️◾️◾️◾️の新たな姿。幾◾️年もの旅路の果て、◾️が辿り着いた答◾️は「世界に忘れ◾️れる」事。

もう◾️も◾️を思い出す◾️は出来◾️い。◾️の◾️◾️が、◾️の◾️◾️が消◾️て◾️◾️

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