第122話 no know
小話 〜戦闘中の台詞〜
うちには戦闘中に何か叫んでるキャラ(ほぼセラちん)が居ますが、あれは単なる気合入れの意味だけでなく、特定の文言を叫んで感情を強め、火力を底上げする意図があります
ノーノゥの口から語られたのは、まさに『悲壮』と呼ぶに相応しい過去だった。
「これで分かっただろ?君達の味方面しているその男は…自分で生み出した存在すらも捨ててしまうような、薄情で人道を踏み外した屑なんだよ」
冷徹に告げるノーノゥを、アルヴィースは眉一つ動かさずに見つめている。
「アルヴィース…」
リーヴは『まだ信じられない』とでも言いたげに呟く。
一応擁護するならば、先程までの語り手はノーノゥだ。その為、この時点のリーヴ達はアルヴィースの苦悩を知らない。アルヴィースがそれを説明しようとしないのは、『言い訳はしない』という彼なりの犯した罪への向き合い方なのだろうか。
「さ、そろそろ無駄話はお終いだ。僕の1番の目的はアルヴィースなんだけど…その様子だと君達も邪魔になるらしいね。いいさ、来なよ…皆殺しだ!」
ノーノゥは背後に赤く輝く光輪を出現させて宙に浮き、指を軽く鳴らす。すると、なんとノーノゥの周囲に見覚えのある者達が姿を現した。
「えっ…あれって…!」
「フェイズ…!静寂も…!」
「現も居ますね…権能が歪んでいるとはいえ、『記憶』の概念種としての力は健在ですか…!」
「…まぁ、大方君達の記憶からアイツらのコピーを作り出したんだろうね。コピーはまとめて僕が相手するよ。君達はノーノゥを頼む」
「分かった…けど、いいの?」
「…僕が戦えばノーノゥを殺す事になる。これ以上僕のせいで、ノーノゥを苦しめる訳にはいかない。もちろん、その汚れ役を君達に押し付けた事も申し訳無く思ってるよ…埋め合わせはいつか…」
アルヴィースが長ったらしく陰気な台詞を並べ立てていると、静寂とフェイズがそれぞれ飛剣と黒い魔力弾を飛ばして来た。
「おっと…話は後か。任せたよ、旅団の皆。くれぐれもノーノゥから目を離さないようにね」
そして、アルヴィースはノーノゥが召喚した概念種のコピー達を連れてどこかへと消えた。
「来るよ皆!」
セラが武器を構えたのと同時に、ノーノゥは虚空をスワイプして黒い半透明の直方体を作り出し、クオンの全身を包む。
「これ…クオン!逃げて!」
リーヴがフェイズの能力を思い出して叫ぶと、クオンが飛び退いた直後に直方体の内側が地面ごと抉られた。
「チッ…勘の良い」
ノーノゥは追撃の手を緩めず、どこかで見たような黒い触手と飛剣を操ってクオンを追いかける。その途中、セラが割って入って触手と飛剣を破壊した。
「助かりました、セラさん、リーヴさん。どうやらあの方は…読み取った自他の記憶の中から能力をコピー出来るようですね」
見ると、ノーノゥの光輪に付いている幾つかの菱形の装飾が黒や銀色に染まっている。その様子を見て、アルシェンは推測する。
「菱形は全部で6つ…という事は、一度にコピー出来るのは6つまでなのでしょうか?」
「惜しいねおチビちゃん。6つまでなのは『ストック出来る能力』の数さ。記憶の源が近くに居れば、別にストックは必要無いからね」
アルシェンは『おチビちゃん』とあしらわれた事にちょっと苛立つ。彼女が何かを言い返そうとした時、その真横にアルヴィースが瞬間移動してきた。
「わっ…アル君?」
「もうおわった、の?結構、大変な相手だったと思う、けど…?」
リーヴが不思議そうに尋ねると、アルヴィースは先程の相手を嘲るような笑みを浮かべて答える。
「冗談。あの程度で僕を仕留めようなんて…甘過ぎるよ。ま、元からノーノゥはあれで僕を殺す気なんて無かったろうけどね」
時間を置いたおかげか、アルヴィースの動転は何とか治ったようだ。
「…わたし達、結構苦戦したんですけどね」
「次元が違う、ね」
今のところクオンにもセラにも負傷は無いので、アルシェンは暇を持て余している。と、その時。突然ノーノゥが攻撃の標的を変え、セラとクオンの間をすり抜けてアルヴィースの方へ飛んでいった。
「アルヴィースさん!」
「分かってるよ」
一筋の赤い矢を彷彿とさせながら、ノーノゥはアルヴィースに殴りかかる。アルヴィースはそれを難なく受け流すも、ノーノゥが攻撃を止める訳が無い。アルヴィースも背後に光輪を出して宙に浮き、親子の空中戦が始まった。2人はそれぞれ赤色と銀色の斬撃を撃ち合いながら、何か言い合っているようだ。
「…本当は分かってたさ。君の苦悩も、弾き出した結論も…!」
「…なら、どうしてあんな事したんだい?君が削除だの静寂だのを生み出したせいで、死人も出たんだよ?」
「僕の権能は君のそれほど万能じゃない…!分かっているのも『苦悩があった』という事実だけだ!君でさえ信頼していない権能が告げる情報だぞ!?そんな曖昧な物を信じて君を許すなんて…出来る訳が無い!」
「僕がやったのは確かに許されない事だ。でも…それは人の命を奪っていい理由じゃないでしょ」
「君こそ本当は分かっているだろう…!僕の行動は全て…君を誘い出す為の物だってさ!」
「…本当、悪ガキに育ったよ。僕のせいなんだけどね」
途切れ途切れの言い争いを地上で聞いているクオンは、空中戦の様子を見て呟く。
「あの速度では…私は手助け出来ません」
「あたしならいけるよ。クオンは休んでて!」
「要らないよ。座ってな」
アルヴィースのそんな声が聞こえたかと思えば、突如としてノーノゥが勢いよく地面に叩き落とされた。見上げると、アルヴィースの光輪の中央に『重力』の文字が刻まれている。土煙の中から立ち上がるノーノゥを見下ろしながら、アルヴィースが悠然と降りてくる。
「流石だよアルヴィース…己の生み落とした存在にも情けは掛けないってところかい?」
「…」
「まぁいい…こんなものはまだ序の口だ。準備運動も済んだ事だし、そろそろ本番と行こうか」
ノーノゥは再び宙に浮かび上がると、何やら赤黒い魔力を纏い始める。先程の台詞通り、そろそろ本気を出し始めるのだろう。
「やれやれ…何で最初から本気を出さないかね」
呆れたように呟くアルヴィースは、ふとリーヴの心の声が気に止まった。
(ノーノゥは間違いなく、今までの相手の中で1番強い…わたしにも、なにかやれることがあれば…)
「…あるよ」
「え?…あ、そっか。聞こえてるんだ」
「言っただろ?君は『無』の根源種…真月と同格レベルの存在なんだ。イメージが湧かないだけで、君はもう充分戦力になれるんだよ」
確かに、リーヴが今まで無意識下で権能を発動させた時は全て、頭の中に妙に鮮明なイメージが湧いていた。
「…でも、わたしは戦ったことなんて」
「なら教えてやるよ。ノーノゥを練習台にするのは気が引けるけど…実戦で経験を積まなきゃね。これからも…旅を続けたいんだろ?この4人でさ」
「それは……うん。続けたい。この先何年もずっと…みんなと一緒にいたい…!」
決然と宣言するリーヴを見て、アルヴィースは微笑みながら告げる。
「じゃあ決まりだね。まずは前線の2人の援護から初め…」
アルヴィースが言い終わるより先に、ノーノゥが幾つもの赤い光線を放って後衛に居る3人を狙った。
「危なかったです…ちょっと気が緩んでました」
間一髪、アルシェンがバリアを張って防いでいた。
「ありがとう、助かった、よ」
「やるじゃん君。実のところ…僕が手を出せない以上、この戦いに勝つんならリーヴは結構重要になってくるんだ。悪いけどこの子が力の使い方を覚えるまで、ちょっと守ってくれない?」
「はい!分かりました!頑張ってくださいね、リーちゃん!」
どんな存在が相手であろうと明るく振る舞うアルシェンは、味方の士気を知らぬうちに高めている。無論、それに気づいているのはアルヴィースだけだったが。
今回出て来た技
ノーノゥ
「紅環・神意顕現」
→ノーノゥの基本技。背後に赤い光輪を出し、能力コピーが使用可能になる。




