第120話 彼女の正体は
「覚悟はある、よ。セラだって、自分の過去をちゃんと受け止めてた。わたしも、がんばらなきゃいけない」
リーヴは決然とした表情で言う。しかし、彼女の心の内を見透かしたアルヴィースは右手をリーヴの方に向け、優しくリーヴに問いかける。
「いいや。まだ1つ迷いがあるだろ?それを解消してからでも遅くないよ」
「…」
リーヴには心当たりがあった。両隣に座っているセラ、クオン、アルシェンの顔をそれぞれ見てから、控えめに言う。
「その……みんな」
リーヴの声は震えている。
「えっと…わたしの正体がなんだったとしても……これまで通り…な、仲良く…して、くれる…?」
リーヴは今になってセラの気持ちが分かった気がした。アルヴィースが『人生最大の驚き』などと言ったせいで、リーヴも内心少し怖くなっていたのだ。自分の正体が割れた事で、今までの関係が無くなってしまう事が。無論、アルヴィースにその気は全く無かったが。
リーヴの問いに対する、セラ達の答えは…
「…当たり前だよ。言ってたでしょ?今までも、これからも、ずっと一緒だって」
「はい。あなたは私の事を身をもって助けてくれた、命の恩人ですから。私が…いえ、私達があなたを嫌う事などあり得ません」
「どんな人だって関係ないですよ!わたし、リーちゃんの事大好きですから!」
「みんな……ふふ。ありがとう、ね」
リーヴは安堵したのか、自然とその頬が緩む。
(やれやれ眩しいねぇ……僕にもこんな仲間が居たら…いや、居るには居るか。ただ…僕がもう何も感じられないだけで、ね)
「アルヴィースも、ありがとう。覚悟、きまった、よ」
「お、そうかい。じゃあ話すよ。まず結論から言うと君の正体は…」
リーヴだけでなく、セラ達も一緒に生唾を飲み込む。
「さっきの話に出て来た、アイオーンの生まれ変わりさ」
「………へ?」
リーヴはそれを最後に、しばらく言葉を発さなかった。セラ達もそうだ。そして数十秒ほどかけてようやく情報を処理した時、奇しくもリーヴ、セラ、アルシェンの3人が同時に叫んだ。
「「「ええええええええええええ!!?」」」
「これは……確かに人生最大の驚きですね」
「そりゃ驚くよな…真月の対になる存在だし」
話した張本人のアルヴィースでさえ苦笑いである。
「ど…どういう、こと?わたしが…真月に勝てるくらい強い存在の生まれ変わり…?」
「リーヴすっごい貧弱なのに…」
「リーちゃんは5分運動したら筋肉痛で動けなくなるくらいに貧弱なのに…」
「両手を使わなければ野菜を切れないリーヴさんが…」
「むぅ。ひどい言われよう」
頬を膨らませるリーヴに、アルヴィースはゆっくりと事を説明する。
「まぁ順番に話してくよ。まず、神の命の輪廻って知ってる?」
「うん。神とか概念種は、死ぬと長い年月をかけて、記憶と人格が別だけど、同じ権能を持つ神として生まれ変わる。でしょ?」
「そうそう。で、本来なら君も『アイオーン』として生まれ変わる筈だったんだけど…訳あって出来なかったと」
「ふしぎ…どうして?」
リーヴが右手の人差し指を軽く顎に添えて聞くと、アルヴィースは答えづらそうに言葉を詰まらせてから答える。
「あの命の輪廻さぁ……作ったの僕なんだよね」
「……ええええ」
「いちいちその反応してたら話が進まないだろうが」
リーヴ達がまたも驚いて叫ぼうとした時、アルヴィースが台パンと共に制止する。
「はぁ…で、輪廻の仕組みを作った理由は長いから省くけど、とにかくあの仕組みは僕が作ったもので、元々は違ったんだよ」
「それはわかった…けど、どうしてそれが、わたしの生まれ変わる事に繋がる、の?」
「さっき話したろ?『アイオーンは聖穢大戦の後に力を使い果たして死んだ』ってさ。聖穢大戦から今日まで大体何年経ってる?」
「…たしか、3000年以上は経ってるよ、ね」
「そう。つまりアイオーンが…転生の軌道、とでも呼べばいいかな。それに乗っている最中に僕が輪廻を作り変えちゃったから、本来普通に『アイオーン』以外の何かに転生する筈だった彼が無理矢理魂の形を捻じ曲げられてしまった。で、その結果生まれたのが君って訳さ。言い方悪いけど、君はこの世界の不具合みたいな存在なんだよ」
アルヴィースの口調は淡々としている。彼にとっては既に分かりきっている事を説明しているのだから、当然ではあるだろう。
「なるほど…大体わかった、よ。でも…」
「ん?まだ何か気になる?」
「うん。わたし、時々異能とは違うよくわからない力が発動するの。あれ、なに?」
すると、アルヴィースは『あっ』とでも言うような顔をした。何かを伝え忘れていたのだろうか。
「そうそう。1個言い忘れてたよ。『結局君は何に転生したのか』をね」
「おお…そういえば、しらない」
「もう勿体ぶらずに言うけど、君は言うなれば『無』の概念種になったんだ」
「無?」
「そう。っていうかちょっと話ズレるんだけどさ。前から思ってたんだけど、真月とかアイオーンとかの規格外の強さを持つ奴らが他の有象無象と同じ『概念種』って分類されるの納得いかないんだよね。だから、僕は新しい分類を作ってみたんだ。その名も『根源種』、真月とかの次元が違う強さを持った概念種を指す言葉で、リーヴもこれに含まれるよ」
「わたしが…真月と同列?」
「うん。そりゃ正しくない転生をしたとはいえ、君だってアイオーンの生まれ変わりだし」
「…!もしかしてあたしの病気を治したのも、浮月で真月の攻撃を消滅させたのも、全部リーヴの『無』の権能って事?」
「そうだよ。無意識下で使ってたんだろうね。この子はよっぽど君達の事が好きらしい」
「うん。みんなのこと、大好きだよ」
「『無』ってのは本来存在しないものだから、君はさしずめ『存在しない筈の存在』なんだよね。『無を体現する』とか、不具合である君以外に出来ないからさ」
「わたし、すごいんだ。ふふん」
リーヴは得意気に胸を逸らす。
「じゃあ、私の死の権能が効かないのも…」
「リーヴの権能のおかげだね。根源種は皆常時発動の能力みたいなのを持ってるんだ。リーヴの場合は『全ての状態異常と魔力による干渉無効』って言えばいいかな?だから君はノーノゥの事も覚えていられるんだよ」
「リーちゃん、すごいです!」
アルシェンは子供のようにはしゃいでいる。
「これは余談なんだけど…実は、最初の方は君の中にもアイオーンの権能が少しだけ残ってたんだよ」
「え?そう、なの?」
「うん。まぁ本当に少しだったから、すぐに消えちゃっただろうけど。君さ、目覚めた時に何か作ったろ?覚えてる?」
リーヴは目を閉じて昔の事を思い出す。不思議だ。まだ1年も経っていないのに、目覚めたあの日がとても昔の事に感じる。そして、リーヴは答えに辿り着いた。
「…もしかしてこの服…!」
「正解。その服を作った時に、君の中のアイオーンの権能は完全に消滅したんだよ」
「えぇ、そんなところで…」
セラは微妙そうな反応をしているが、アルヴィースがそれを否定する。
「いや、そうでもないよ。君達、この前真月に殺されかけただろ?」
「そうだよ。なんなら、わたしは殺された」
「あれって真月がアイオーンを目の敵にしてるから起こった事なんだけど…2回目の戦闘の時、真月が突然戦意を無くしてどっか行ったのは覚えてる?」
「うん。ふしぎ、だった」
「あれは君が『無』の権能を使ったから、君がアイオーンとは違う存在だと理解した事に由来するんだ。もし、君が目覚めた時、服を作らずにアイオーンの力を少しでも残していたら……君達の旅は浮月で終わってただろうね」
サラッと言い放つアルヴィースだったが、旅団の4人は戦慄していた。あの場で服を作って本当に良かった、とリーヴは心から思ったと言う。
「さて、長くなったけど他に何かある?」
もう誰も手を挙げる者は居ない。純粋に聞きたい事が無いのもあるが、今の話が全体的に衝撃的過ぎたのだ。
「あ、最後に1つ、いい?」
少し考えた後、リーヴが手を挙げる。
「わたしの神名って、なに?」
「ああ、そういや知らないのか。じゃあ教えてあげるよ。君の神名は…」
「『アルケー』。どこぞの言葉で、万物の根源だとか言う意味の言葉さ。知ってるかい?この世界が出来る前、そこは何も無い『無』の空間だったそうだ。言わば『無』は万物の原点…根源種である君に相応しい神名だろ?」
「アルケー……ふふ。かっこいい」
どうやら気に入ったようだ。
「もう質問は無いかい?それじゃあ今日は適当に休んで、明日から僕に協力してもらうよ」
「協力…どうやって?」
「ノーノゥとは戦闘になる可能性が高いからね。僕じゃなくて君達に戦ってもらいたいんだ」
「あなたは、何もしない、の?」
「出来ないんだよ。手加減って苦手でさ…僕が真面目に戦うと今居る星が壊れちゃうんだ。もちろん、ある程度の支援はするけどさ」
「そんなのあり、なの?」
「前世の君に言ってくれ」
その時、アルヴィースは何かに気がついた。
「…はぁ。休めないなぁ」
彼の目線の先には、家の出入り口があった。外で何かが起こったのだろう。リーヴ達は急いで家の中から出た。
今まで通りならここでリーヴの新プロフィールを載せているんですが、今回はもうちょっと待っててください
あと神であるリーヴが何故死んだ時に奈落に行ったのかとか、何で神なのに異能があるのかって話ですが、彼女はそもそも正規の方法で転生してないので色々とこの世界の法則が通じないんです




