第119話 アルヴィース
今回、知る人ぞ知るアイツが台詞だけ出てきます
別に知らなくても問題ないのでご安心ください
「もし僕に協力してくれるんなら、見返りとして君達が知りたい事を何でも教えてあげよう。こう見えても僕は『全てを知る者』とか呼ばれたりしてるんだ。どうだい?」
アルヴィースはにこやかに提案する。裏は無さそうだが…
「…本当に何でも知ってるの?」
セラが『まだ少し信用出来ない』と言いたそうに聞く。
「勿論。さっきやって見せたろ?あ、でも…どうせ聞かれるのは公に出来ない事だろうから、どこか安全な場所でもあればいいんだけど…」
アルヴィースはわざとらしくリーヴに目配せしている。彼は『知っている』のだ。リーヴ達が『安全な場所』に心当たりがあるという事も。
「じゃあ、わたし達の家にいこう」
「よし、そうと決まれば…」
そこで、アルヴィースは言葉を止めた。何かを察知したのだろうか。
「…ごめん、1分くらい席を外すよ。上司が呼んでる」
そう言い残し、アルヴィースは空間に黒い穴を開けてどこかへと去って行った。
「…どこ、いったんだろ」
リーヴが不思議そうに呟くと、すぐに穴の向こうからアルヴィースとその『上司』と思しき人物が言い争う声が聞こえて来た。
「アンタは何日連続で仕事をサボる気だ?代わりに働く奴の気持ちも考えてみろ、どうせ『知ってる』だろう?」
「今回に限ってはしょうがないじゃんか。僕の尻拭いは僕がやらなきゃいけないの」
「アンタの仕事もアンタがやらなきゃいけないぞ」
「マジレスしてんじゃねぇよ堅物が…だから何年経っても彼女の1人も出来やしないんだよ」
「皆が皆アンタのように欲に弱いと思わない事だ。それすら分からないとは、『全てを知る者』が聞いて呆れるな」
「「ハハハハハハ」」
仲が良さそうなやり取りを聞いて、リーヴ達4人は自然と顔が緩む…が、その顔はすぐに引き攣る事となる。
「誰が煩悩塗れだカスが死ねぇぇぇぇぇ!」
「もう一度あの世に送られなければ気が済まないか!?」
そして次に聞こえて来たのは、恐らく2人が殴り合っているであろう音だった。ガラスが割れる音、家具の倒れる音など、とんでもない音が丁度1分程響き渡った後、頭から血を流して顔中にアザを作ったアルヴィースが戻ってきた。
「あ、アルヴィース…」
「上司にはガツンと言ってやったよ。さ、行こう」
(無理がある)
(無理があるなぁ)
(無理があります)
(無理がありますねぇ)
ともあれ、一行は夢界ハウスの中へ場所を移した。
ーーーーーーーーーー
夢界ハウス内。居間のテーブルに座ったアルヴィースを、旅団の4人が扇状に囲うようにして座っている。
「ふぅ…さて、気を取り直して…何か聞きたい事があるんだろ?答えるよ、何でもね」
アルヴィースが言うと、セラが真っ先に手を挙げる。
「じゃあ初めに…えっと…聖穢大戦は分かる?」
「うん。全部知ってるってば、確認はいらないよ」
「その…聖穢大戦って、結局どっちが勝ったの?」
「アイオーンだよ。まぁ、流石に相手が相手だから辛勝ではあったけどね。アイオーンは大戦の後に真月を封印して、壊れた星々を作り直した…ちなみに、そん時アイオーンに代わって世界を守る為に生まれたのが僕だったり」
「アイオーンに代わってってことは、アイオーン、もう死んじゃってるんだ」
「うん。力を使い果たしてね。神にはそれぞれの役目ってのがあるだろ?アイオーンや僕の『役目』が、世界を守るって事だったんだよ」
詳細に聞かれた事について答えるアルヴィース。どうやら『全てを知る者』の名は伊達ではないようだ。それを確認した後、今度はクオンが手を挙げた。
「次は私が…そもそも、何故聖穢大戦が起こったのですか?」
「ああそれね。真月って言うまでも無く自己中なクズだからさ。昔の真月はイラつく事がある度に適当な星を破壊してたんだよね。でそれがアイオーンの目に止まって、2人は対立、ドンパチ、世界半壊、って訳」
「なるほど…知ってはいましたが、やはりあの2人は次元の違う存在なのですね」
「ってか君10000歳超えてるんだし、聖穢大戦に関しちゃ何か知ってんじゃないの?」
「いえ、私の居た星は何も被害を受けませんでしたので。勿論、その戦いの存在自体は知っていましたが」
「ふーん。ま、宇宙って広いもんね」
「…」
アルヴィースが順調に皆の疑問に答えていく中、リーヴはある事が気になっていた。
「…なんで、全部しってるのに質問するの?」
確かに。
「会話にならないじゃんか。どんだけ強くたって、所詮は僕も《被造物》って事さ」
その時のアルヴィースの目からは、何かに対する厭悪が感じ取れた。その目つきはどこか流離と似ていた。彼も、流離と同じ《真実》を知っているのだろうか。いや、きっと知っているのだろう。
「…あっ」
その時、思い出したようにアルシェンが手を『ぽむ』と叩く。
「お、何かある?」
「今朝も話してたんですが、そこの子…リーちゃんの事です」
「わたし…?そういえば、話した、ね」
「単刀直入に聞きます。リーちゃんって何者なんですか?魂も透明で、何も分からないんです」
「…へぇ」
アルヴィースは少し怪しげな笑みを浮かべる。
「答えるのは一向に構わないけど、正直…君にとって、いや…君達にとって、人生で1番大きな驚きを経験するかもしれない。その覚悟があるかい?」
アルヴィースの言葉には謎の圧があった。先程の上司とのやり取りのせいで忘れていたが、彼とて神の1人なのだ。それも『全てを知る』神なのだ。
「…わたしはあるよ。せっかくきけるなら、ききたい。どんな過去も現実も、わたしは受け入れる…その準備はできてる、よ」
リーヴはセラの方を向きながらそう宣言した。恐らく、セラの過去が明かされた時の事を思い出していたのだろう。
「…ハハッ。良い顔だよ…」
アルヴィースのその乾いた笑い方は、当然と言うべきかノーノゥとそっくりであった。




