第116話 きっと、友達になれるよ
リーヴの言う『誰も知らない男の子』を探す為、4人は今居る星の街に出た。これと言った特徴は無いがそこそこに発展しており、通行人は結構多い。ので、クオンは道行く人に触れない為にリーヴの肩に引っ付いている。
「当ても無く歩いていますが…見つかりそうですか?リーちゃん」
「うーん……流石に、そんなすぐは見つから…」
その時、リーヴは記憶の中の彼と全く同じ姿の少年を見つけた。案外あっさり見つかったのでリーヴは一瞬見逃しそうになるが、すぐに他の3人に伝える。
「あ…いたよ…!あの、ちょっと赤いのが入ってる黒髪の子!」
「あの子ですか…分かりました!追いましょう!」
「歩くの速いねあの子…!」
アルシェンが音頭を取り、3人はその少年を追いかける。事は順調に進んでいくかと思われたが、ここで問題が起こった。それは、少年が曲がり角を曲がった時に起こった。先頭を走るリーヴ以外の3人が、突然足を止めたのである。
「…?みんな、どうしたの?」
「いえ、その…」
「私達は…何故こんなに急いで移動していたのでしょうか?」
「…え?」
「確かに…別にリーヴの言う『あの子』って人を見つけた訳でも無いのにね」
「え…みんな、まさか忘れちゃった、の?」
「何をですか?」
「えぇ…」
リーヴが困惑していると、そんなリーヴの後ろを記憶の中の姿と同じ見た目の少年が通った。
「あ…ほらいたよ…!あの、ちょっと赤いのが入ってる黒髪の子!」
「あの子ですか…分かりました!追いましょう!」
「歩くの速いねあの子…!」
アルシェンが音頭を取り、3人はその少年を追いかける。事は順調に進んでいくかと思われたが、ここでまたも問題が起こった。それは、少年が曲がり角を曲がった時に起こった。先頭を走るリーヴ以外の3人が、再び突然足を止めたのである。
「あれ……わたし達、どうして…」
どうやら、今回も自分達が何を追いかけているのかを忘れてしまっているようだ。この後も、これと似たような事が数回続いた。そして、やがてリーヴはある事を理解する。
(…今やっとわかった。多分…あの子を視界から外すと、『あの子に関する記憶が消えちゃう』んだ。何の能力かはわからないけど…だから今まで、誰もあの子の事をしらなかったんだ)
リーヴらしからぬ名推理だが、問題は何も解決していない。少年に関する記憶が消えてしまうなら、むしろ問題は難しくなっているようにさえ感じられる。
「うーん、中々見つかりませんね…」
「この星に居るとは限りませんし、焦らずに探しましょう」
(いるよ…いるよこの星に。しかももう何回も会ってるよ…)
リーヴが困り果てていると、不意に見知らぬ少年が全員の後ろから話しかけて来た。
「やぁ、何かお困りかい?」
「わっ…ビックリした…!」
セラが肩を跳ねさせながら振り返る。それに合わせて、他の3人も少年の方を向く。両袖と背面に2本の赤い縦線の入った黒いパーカーと、左肩に赤黒い肩掛けを身につけており、赤いメッシュの入った黒髪を携えた少年だった。
「リーちゃん、この人ですか?聞いた話とかなり近しい見た目ですが…」
「うん…この人、だよ。あの、ね。わたし達、あなたのことを探してたの」
「僕を…?ハハッ。どうして?」
「えっと……この辺だと話せない、から。街の外まできてくれない?」
「うん。構わないよ」
唐突に目的の少年に出会ったリーヴ達は、少し戸惑いながらも少年と共に街の外へ向かった。辿り着いたのは、遠方に街が見えるものの、周りには何も無い荒野だった。
「…で、僕に何の用だい?」
「うん……まず、あなたは何者なの?」
「ああ、そうだね。まずは自己紹介からか。僕の名は……」
ここで少年は一瞬だけ言葉を詰まらせた。しかし、それは本当に一瞬だった。
「…僕の名は『オブリビオン』だ。名前にしては長めだけど、どうか覚えていてくれ」
少年、改めオブリビオンは、親しみやすく屈託の無い笑顔で自己紹介する。
「それで、次の質問は?名前を聞く為に僕を探していた訳じゃないよね?」
「うん。えっと…」
リーヴは急激に心拍が加速するのを感じた。それに連れて、何も話していないのに後ろの3人も緊張してくる。
「あなた…フェイズの時も、静寂の時も…他にも色んなところにいた、よね。教えてほしい…あなたはどんな存在なの?なんで、フェイズや静寂を創り出したの?それに、どうしてあなたの事、だれも覚えてないの?」
リーヴが拙いながらも喋りきった瞬間、周囲の雰囲気が変わった。微かだが魔力の奔流が溢れ出で、リーヴ達を張り詰めた空気が包んでいる。その異様な空気感はオブリビオンが放っているものだったが、そう長くは続かずに、彼はすぐ元の笑顔に戻って話し出す。
「…バレちゃったか。まぁ隠す事でも無い…言うよ。実は、僕は『未知』の概念種なんだ。僕を視界から外すと、残念な事に僕に関する全ての記憶が消去されてしまう…だから、誰も僕の事を覚えていられないのさ」
オブリビオンの暴露した情報は、偶然にもリーヴの推理と全く同じであった。リーヴは内心で自分を褒めるが、同時にある違和感に気づく。
(…あれ?じゃあ、なんでわたしはこの子のこと、覚えていられるの…?)
そんな疑念を抱きつつも、リーヴはオブリビオンに質問を続ける。
「あ、それと、ね。さっきもいったけど、あなたはどうして…」
『フェイズや静寂を創り出したのか』と問おうとした時、オブリビオンはその話を遮って話し始める。まるで、リーヴの言おうとしている事が分かっていたように。
「そんな事よりさ、僕は君に提案したいんだ」
「てい、あん?」
リーヴがきょとんとしている時、後ろで2人を見守るクオンは少し怪訝そうな顔をしていた。
(…?何故……リーヴさんから、薄い死の気配が…)
クオンは少しだけ警戒しながら、リーヴとオブリビオンの会話を見守り続ける。
「僕と君は…きっと、いい友達になれると思うんだ」
「え?」
「どういう訳かは分からないけど、君は僕を覚えていられるんだろう?誰からも忘れ去られる僕と、その僕を覚えていられる唯一の人間…相性抜群だとは思わないかい?」
「う、うん…」
リーヴはよく分からないまま、オブリビオンの話を否定出来ずに頷く。そのリーヴの心情が伝わっているのかは分からないが、オブリビオンはそっと右手をリーヴに差し出した。
「交友の証として…握手でもしないかい?」
「あ、うん…いいよ」
リーヴはまだモヤモヤしていたが、オブリビオンと仲良くなればいずれフェイズや静寂の事も聞けるだろうと思い、彼に向かって手を伸ばした。その時…
「…!リーヴさん離れてください!」
後ろからクオンが飛び出して、リーヴの服の裾を思いっきり引っ張った。
「クオン…!?」
「えっ…?く、クオン、どうした、の?」
「あれを…ご覧ください…」
突然身体を引っ張られたリーヴは当然、後ろで見ていたセラとアルシェンも驚いている。息を切らしながら、クオンはオブリビオンの方を指差す。そこにある物を見た瞬間、リーヴは絶句した。
「え……」
丁度、リーヴが握手の為に腕を差し出した場所の真下から、幾本もの刺々しい有刺鉄線が突き出して来ていた。もしクオンが飛び出して行かなければ、リーヴの右腕はあっけなく切断されていただろう。
「オブリビオン…どうしたの?」
「ハハハハハハ!まさかこうも簡単に騙されてくれるとはね…余程、育ちが良いと見える」
先程までの屈託無い笑顔から一転、オブリビオンは少年の面影を残しつつも邪悪そうな笑みを浮かべている。
「嘘…ついてた、の?」
「悪いね、その通りさ…君の前に姿を見せたのも計算通りだ。今日ここで、君達の旅は終わる」
あまりにも突然に敵意を露わにしてきたオブリビオン。魔力を解放したオブリビオンを見て、セラやアルシェンは臨戦態勢に入る。彼が何故リーヴ達を敵視するのか、何故フェイズや静寂という概念種を創り出したのか、創り出せたのか。色々と気になる事は多かったが、中でもリーヴが最も気になっていたのはこんな事だった。
(あの子…嘘ついてた、けど…なんだろう。『友達になろう』っていった時のあの子は……本心を話してた気がする)
何はともあれ、唐突ながらオブリビオンとの戦闘が始まる。




