幕間 逆徒は彼岸の夢を見る
1年程前。まだ流離と幻が出会ったばかりの頃の話。木陰で眠る流離の側に、幻影として幻が姿を見せた。
「…こんな時でも刀を離さないのね」
幻は眠る流離の頭に手をかざす。彼女は流離の夢を覗こうと思っていた。それが彼女が今まで取ってきた他者を知る術であり、幻の趣味でもあったからだ。
「…夢を包む泡の色からして良い夢を見ているらしいけれど……どうしてかしら、この風景は…」
幻の脳内には『良い夢』としては些か理解し難い映像が流れ込んできた。子供が2人も入れば狭いと感じそうな粗末な部屋の中に、子供が6人ほど押し込まれている。薄汚れた服を着た子供達は、一切れのパンを食べながら談笑している。
「これは…?これが流離にとっての『良い夢』なの?一体どういう…」
そして少し考え込んだ後、幻はとある悲しき結論に辿り着いた。
「……ああ。そうなのね。これが…あなたの知っている最上の幸せなのね?」
その断片的な映像だけでは流離の過去は分からなかったが、少なくともまともな人生を歩んできた訳では無いという事は理解出来た。そして幻は涙を流して、触れられない流離の頭に手を添えて呟く。
「私が…あなたの救いになれると良いのだけれど」
そんな、幻しか知らない夜。




