第12話 みんな、がんばったよ
リーヴが実験室で大冒険をしている時、その外ではパラノイアとセラが『削除』の概念種と化したフェイズと交戦していた。
「まだリーヴは戻って来ないのか…!」
「さっき凄い音してたし…怪我してないかな」
セラがそんな心配をしていると、実験室のドアが小さな音を立てて開いた。
「リーヴ…!資料は見つかったのか?」
「うん……淵族は…光に弱い…らしいよ」
「…何故そんなに疲れている?」
「わたし…あんなに運動したことないから…」
「実験室でどう運動すると言うんだ」
『光に弱い』という文言を聞いて、セラは何かを閃く。
「光……そうか、あたしの出番だね…!」
「う…ん。がんばっ…て」
ふらふらとした足取りで廊下に出て来るリーヴを、パラノイアが優しく受け止める。
「パラノイア、リーヴを連れて遠くに離れて」
「分かった……って、どれだけの火力を出すつもりだ」
「あたし…今まで全力を出した事が無かったから。どれほどの威力になるのか分からなくて…」
「…なるほどな。頼んだぞ」
パラノイアはリーヴを背負って廊下の奥へと走っていく。
「まっ…て、パラノイア」
「何だ?」
「ここの…研究員の人たちは、どうするの?」
「…多分大丈夫だろう。いつもは建物中を多くの人間が巡回しているが、さっきから誰の姿も見かけないからな。大方逃げたんだろう」
「なら…だいじょうぶだ…ね…」
リーヴはそれだけ言い残して、電池の切れた玩具のように眠り始めた。
「…体力無さ過ぎるな」
パラノイアの姿が見えなくなった頃、セラは大きく息を吸って気合いを入れる。
「…よし」
「【来い】【来い】【こちら側へ】」
セラの光輪の輝きが増し、双剣は刃部に光を纏う。
「一歩も…退くもんか!」
その時、一瞬だけセラの銀色の長髪が金色に変化した。だがその変化に本人は気づいておらず、髪の色もすぐに元に戻った。セラはフェイズに急接近して、光を纏った事で少し大きくなった双剣でフェイズの身体を斬りまくる。
「【削除済み】」
フェイズは両手に黒い魔力を集めている。が、セラはそれを見逃さず、片方の剣をフェイズの胸に突き刺
す。
「【削除】【削除】」
そして、フェイズが一瞬怯んだのを確認してから、セラは天井をもう片方の剣で突き破って上空に飛び上がる。その直後、セラの正面に背後の光輪と同じ模様をした大きな魔法陣が現れた。
「終わらせる…!」
セラはその魔法陣から、フェイズ目掛けて特大の光芒を放つ。その威力は凄まじく、研究所周辺の大地が揺れ動くほどだった。
「…ん」
既に研究所の外に出たパラノイアの背中で、リーヴは轟音を聞いて目を覚ました。その時、ぼんやりとした意識の中で、パラノイアの呟きが聞こえた。
「あの魔力と光輪……やはりルミエイラの…」
(るみ…?なに…?)
リーヴは不思議に思いはしたが、眠気に勝てずにまた寝てしまった。
次に目を覚ました時、リーヴの目の前には半壊した研究所とセラとパラノイアの姿があった。
「起きたか」
「おはよう、リーヴ」
「お…はよう、セラ」
リーヴはまだ眠たい目を擦りながら2人に向かって手を振る。
「フェイズ…は?」
「もう居なくなったよ。光に弱いっていうのは本当だったみたい。ありがとね、リーヴ」
「ふふん」
リーヴは嬉しそうに胸を張る。その時、リーヴは何かが気になっていた事を思い出した。
「あ、そうだ。パラノイア」
「何だ」
「聖賢学会の目的って、結局なんだったの?」
パラノイアは少し複雑そうな顔をしたが、やがて短く息を吐く。
「…まぁ良いだろう。一段落ついたしな」
そして、パラノイアは腕を組みながら話し始める。
「聖賢学会の目的は…『人為的に異能力者を創り出す事』だ」
「異能力者を創り出すって…そんな事出来るの?」
不思議そうに尋ねるセラに対して、パラノイアは冷静に返答する。
「出来なかったから俺や数多の被験体が怪物になったんだろう?」
「あ…確かに」
「揃いも揃って馬鹿な連中だ。異能に憧れるあまり、自分達の最大の長所である思考を捨てるとはな。全く…『聖賢』の名が聞いて呆れる」
パラノイアは少し嘲るような口調で話す。その様子を見て、リーヴは先程から予想していた事を確認してみる。
「ねぇ、パラノイア」
「今度は何だ」
「パラノイアってもしかして…フェイズの手記にあった『親友』?」
「…そうだ。俺は元々、聖賢学会に所属していた1人の学者だった。俺自身、異能に対する憧れが全く無かった訳じゃないが…そんな物が無くても生きていけると考えていた」
「じゃあ、どうしてここに来たの?」
「…あの被験体達の多くは同意を得て連れて来られた訳じゃない。俺もその1人だ。奴らは自分が一分一秒でも早く異能力者になりたいからと、手段を選ばずに研究を続けていたんだ」
その気分の悪くなるような話に、セラは顔を歪める。
「そんな……あんまりだよ」
悲しそうに呟くセラを見ながら、パラノイアは少し優しげな口調で声をかける。
「良いんだ、過ぎた事はもう変えられない。だからこそ、あの事件の真相を知る者として…フェイズの親友として、俺にはフェイズの痕跡を守る義務がある」
「…そっか」
「パラノイアは、これからどうするの?」
「お前達は運良く出会わなかったようだが、ここにはかつて被験体だった淵族も多数居る。俺はそいつらとここで暮らしていくさ」
「わかった……じゃあ、そろそろお別れだね」
「もう行くのか?」
「わたしは、そのつもり。セラは?」
「それでいいよ。長居し過ぎても、研究所の人達に見つかっちゃうしね」
「そうか…なら、早く行った方が良い」
「うん。ばいばい、パラノイア」
「ああ、何かあったら呼んでくれ。出来る限り力にらなろう」
「呼ぶ…?」
「リーヴは星の間を渡る力を持ってるんだろう?そういう能力って『一度行った星には自由に行き来出来る』とかいうのがあると思ってたんだが…」
リーヴは『たしかに』と思い、試しにセラと出会ったあの砂漠の星の光景を思い浮かべる。
「…うん、出来そう」
「なら良かった。お前達の旅が上手くいく事を願っているぞ」
そう言い残して、パラノイアは研究所の中へ戻っていった。
「…あたし達が次の星に行きやすいように、気を遣ってくれたのかな」
「見た目はこわいけど、優しい人だったね」
「リーヴ、もう能力は使えるんだよね?」
「うん、1日経ってるから」
「じゃあ行こっか、次の星に」
「ふふ…今度は、どんな場所かな」
2人は虹色の穴の中に入っていき、次の星へと旅立った。




