第112話 黄泉路を廻りて賭けるは命
前回の使用技解説
幻
・泡沫の桃幻郷
→幻の大技にして主力の領域魔法。夢界の一部を切り取って現実に移動させ、範囲内の者にバフまたはデバフを与える。領域内の全ての味方に継続回復&攻撃力バフ&状態異常耐性を配る。本来ならデバフ運用も出来るが、それには悪夢の権能が必要。夢界の中なら自由に範囲、対象が選べる
「さて…邪魔は消した。次はお前達だ…!」
苦戦しながらも流離を撃破して機嫌が良くなった現が、腕の刃を光らせながらゆっくりと幻に近づいてくる。
「幻、さがって…!」
「あ、あなたも逃げなきゃダメよ!戦えないのでしょう?」
「うん!アルシェンお願い!」
「えぇ…や、やれるだけやってみますが…」
「ごめん冗談だから!早くにげよう!」
あんた結構余裕そうだな。
「どこへ行くんだ?3人で仲良くお散歩か?」
3人が走り出したすぐ後に、現が幻を狙って斬りかかる。セラやクオンは助けに行こうにも、現が呼び出した破片がまだ残っている為に行けない。
「幻!」
「きゃ…!」
覚悟を決めたリーヴが幻を守ろうとして、咄嗟に幻を突き飛ばした。幻に覆い被さるようにして転んだリーヴは、背中の激痛を覚悟して立ち上がる…が、何故か覚悟していた痛みは発生しなかった。
「…?どういう事だ」
「え…?現さんの腕が…!」
アルシェンが驚いたように呟く。彼女の視線の先には、地面に転がっている現の腕があった。しかし流離は死んだ筈だ。クオンもセラも取り込み中な今、誰がリーヴ達を助けたと言うのだろう。
「…俺だ」
その少し歪んだ声が響いた瞬間、戸惑う現の背後に赤黒く禍々しい焔が立ち上った。その焔からは微かに血のような匂いがして、丁度流離の刀と同じような色をしていた。
「全く…展開がワンパターンで芸が無いな、【綴り手】よ」
「まさか…お前死んだ筈じゃ…!」
「ああ、俺としても残念だ。また…死ねなかった」
焔の中から現れたのは、先程現に殺害された筈の流離だった。しかしその見た目は少々変化しており、黒一色だった髪は白色に染まり、右肩からは赤黒い片翼が生えている。それは、まさにリーヴが夢の中で一瞬だけ見た姿と同じだった。
「…良いだろう、何度でも…お前が言ったように、お前から死を懇願するまで!何度だって殺してやろう!」
威勢良く叫んだ現は、全身に魔力を集めて漆黒の波を流離に向かって放つ。さらに刺さると『夢死』状態になる棘も合わせて追撃を行う。一方の流離は一方も動かず、鞘に納めた刀に手をかけたまま俯いている。
「流離…!」
リーヴが心配そうに溢す。しかし、現の攻撃が全て直撃しても尚、流離は平然としている。
「何故だ…!お前の精神力が優れているからと言って、概念種の権能に抗える筈が…!」
「…抗う、か」
流離は俯いたまま不敵な笑みを浮かべる。
「…なら、俺はさしずめ『反逆』の概念種、と言ったところか」
「!?」
「ああいや、もちろん比喩だ。丁度良い機会だし、奴らも気になっているだろうから説明してやろう」
流離の言う『綴り手』や『奴ら』の意味は誰1人として理解していなかったが、今はそんな事を聞ける空気ではない。
「俺の2つ目の能力は…『任意の対象に反逆する力』だ。とどのつまり…意識をある程度強く持つ必要はあれど、俺に状態異常は効かん。それだけではない…人間や神に限らず、能力というのは解釈を広げた分だけ強く扱える…俺はこの力を得た日、全てに反逆する事を決めた。神、運命、理、真実……果てはそう、死にさえもな」
「えっと…つまり、流離も不死身ってこと?」
「ああ。反意が保つ限りな」
その絶望的な情報を聞いて、現は流石に狼狽する。
「馬鹿げている…反則だろう…!大体それほど強力な力、ただの人間が一体どうやって…!」
「……お前に知らせる義理は無い」
そして流離は刀を握る手に力を込め、鞘の中の刃部に赤黒い魔力を集中させる。
「さて…第2回戦だ」
流離は小さく呟くと、何と彼はこの状況で歌を詠み始めた。
「一博打 仄紅の 月の下 肴は佳景 賭けるは命」
流離は刀を力強く振り抜き、空間を斬り裂いた。現と流離の周囲に万華鏡のような模様が広がっていき、次の瞬間にはもう2人はそこに居なかった。
「流離…?」
「どこに行ったんでしょうか…」
「皆!怪我は無い?」
「あ、セラ。おつかれさま」
「あれだけの破片をもう片付けたの?すごい腕…流石極光の戦士ね」
幻は感心しているが、セラは穏やかに手を振って否定する。
「いや…なんか、現が消えたのと同じタイミングで破片も消えたんだよね…」
「そう…とにかく、無事でよかったわ」
そして、5人はどこに行ったか分からない流離の帰りを待つ事にした。
キャラクター解説
【不滅の反意、劫火の如く】流離・廻冥
種族 人間
所属 なし
異能 ①血を操る能力
②任意の対象に反逆する力
概要
異能②を用いて「己の死」に反逆し、強化されて蘇った流離の姿。基礎能力がアホみてえに向上しており、その上、例え潜在的にでも本人が現世に未練を抱き続ける限り死なない。というか死ねない。しかも復活の時は細胞単位で再生されているので老化も実質無い。そんな化け物が真正面から殺意を露わにしてくるのだから、前話で現が抱いた恐怖はとんでもないのだろう。




