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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第111話 悪夢を斬り払う赫刀

豆知識

現の本気モードの姿はクオンの過去編で言った「異形化」です。多分どっかで言ってますが、一部の神、概念種は強化された権能ではなく異形化自体を制御する事も出来ます。こっちは権能の制御さえ出来れば割と誰でも出来ます。異形化は権能もより強力に扱えますし、見た目が怖い(またはきもい)以外にデメリットがあんまり無いです。

夢界に入った事によって本領を発揮出来るようになった現は、背中から生やした触手や鋭利に変容した両腕が特徴的な異形となって流離達に襲いかかる。


「溢れ出でよ、我が眷属よ…!」


現は宙に浮いたまま身体を丸めると、現の身体が分裂して凶夢の破片が出現した。


「人数差は埋まったな」

「流離、どうする?あたしと流離が現と戦って、幻とリーヴはクオンに守ってもらうのは?」

「…いや、いい。お前もリーヴを守れ」

「え?でも…相手は概念種だよ?1人で大丈夫なの…?」

「ああ。これでも実力には自信がある。それに、お前はそっちの方が戦いに集中出来るだろう?」


流離は意外にも他人の事をよく見ていた。セラが戦闘中ずっとリーヴを気にかけていた事も、流離にはお見通しだったらしい。


「…うん。でも、危なくなったら呼んでね?」

「分かってる」


そして、セラはクオンと共に破片の群れを相手取り、流離と現は一騎討ちする事となった。


「1人でいいのか?」

「同じ話をさせるな。【奴ら】も飽きるだろう」


流離は現と打ち合いながら意味深な事を言う。


「奴ら…?何を言っているんだ」

「…知らなくていい。お前などには到底理解も受け入れる事も出来ぬ程に、残酷な現実だからな」


その時、流離の動きを横目で見ていたセラはある事に気がついた。


(流離の刀の使い方…なんだろう、上手く言えないけど…あたしと違う気がする)


セラの剣術には特に『剣術』と呼ぶ程決まった型がある訳ではないが、その動作の中には剣の峰やセラ自身による打撃が含まれている。それはセラの剣術が『相手の制圧』や『勝利』を目的にしているからだ。一方で、流離の剣術は的確に相手の重要部分を狙っている。肩、肘、膝、首などの破壊されると大きなダメージの入る部位だけを狙って刀を振っているのだ。


(流離の剣術はあたしと違う…『人を殺す為の剣術』だ。今更だけど…やっぱり流離とあたし達じゃ、生きてきた世界が違うのかな)


セラがそんな事を考えながら破片の相手をしている時、流離と現は先程の会話の続きをしていた。


「これは面白い…悪夢の権化たる俺が受け入れられない程の残酷さだと?そんな物が…ある訳無いだろう!」

「チッ…」


現の攻撃は変則的で、流石の流離と言えど徐々に擦り傷が増えていく。


「るー君!」


幻の手当てを終え、セラ達の援護をしていたアルシェンが隙を見て流離を回復する。


「その呼び方は気に食わんが…感謝する」

「1人で充分じゃなかったのか?」


アルシェンという厄介な敵の存在に気付いた現は、アルシェンに向かって手をかざす。すると…


「え…?」


僅かな痛みすら無しに、黒色の棘がアルシェンの心臓を貫いた。当のアルシェンも何をよく分からないまま、杖を落としてうつ伏せに倒れ込む。


「アルシェン…!」


リーヴは驚いてアルシェンに駆け寄り、幻と共に容体を確認する。


「…大丈夫、死んではいないわ」

「じゃあ、どうして起きないの?寝てるの?」

「当たらずとも遠からずね…『夢死』状態…とでも呼ぼうかしら。現実の彼女の命に別条は無いけれど、夢界では死んでいると見做されるわ」

「…はやく、治してあげてほしい…けど、できる…?」

「安心してちょうだい、私なら治せるわ」


幻はリーヴと一緒にアルシェンを離れた場所まで運び、夢死状態の治療を始めた。一方、支援役を消した現は機嫌良さそうに流離を挑発する。


「補助輪が無くなったな?少しは余裕が削れてきたんじゃないか?」

「…よく喋るな」


流離は打ち合っていた現の右腕を弾いて刀を斜めに振り抜き、血で形成した無数の斬撃と共に現の触手を斬り刻む。が、何度も言ったように夢界は現の領域だ。斬られた触手はすぐに再生し、現本人も特に気にしてもいない様子だった。


「全く面倒な…殺すのは簡単なんだがな」

「その余裕もいつまで保つだろうな!」


相手が概念種という事もあり、流石に一筋縄ではいかない。そう悟ったのは流離だけではなく幻も同じで、幻は両手を胸の前で合わせて魔力を貯め始める。


「大丈夫よ流離…あなたは1人じゃないわ!」


次の瞬間、幻を中心として周囲に白く輝く幻想的な領域が展開された。前線の流離に限らず、領域内に居るセラやクオンの傷が徐々に癒えていく。それだけでは無い。夢死状態に陥っていたアルシェンも目を覚まし、おまけにセラや流離の内に力が漲ってくる。


「すごい…!幻、こんな事出来たんだ…!」

「流石は概念種…支援の腕も一流ですね」


セラとクオンは破片を相手にしながら感心している。


「…ふっ」


流離は頼もしそうに短く笑い、再び現に向かっていく。


「俺は1人じゃないそうだが、お前はどうだろうな?その治癒能力でいつまで粘るか…見ものだな」

「無限だとしたらどうするつもりだ?」

「無限だとしたら…か」


その時、流離はどこか澱んだ、不気味な笑みを浮かべて現に告げる。


「…お前が自ら死を懇願するまで斬り刻んでやろう。幾百、幾千、幾万回であろうとな」


そして、その笑みを見た現は、決して短くは無いその生涯で1番の恐怖を感じた。目の前に居る敵が、明確に自分に対する敵意を、殺意を露わにしているのだ。当然だろう。


(何だこいつは…!今の顔は……人を殺した事が無ければ出来ない笑みだぞ…!ただの剣客じゃないのか…?いや…そうだ、まだ俺は奥の手を使っていない…!)


やや押され気味になっていた現は、突如として態勢を直して流離に手をかざす。すると、先程アルシェンを貫いたあの棘が流離の心臓を刺し貫いた。


「油断したか…だがこの程度…!」

(何故かは分からんが…やはりこの男、耐性がある!だがそれでいい…!耐性があるとはいえ、一瞬だけでも夢死状態にはなる…!そこを突けば俺の勝ちだ!)


流離がほんの一瞬、僅かな時間よろけたのを見逃さず、現は流離の背後に瞬間移動して…


「お望み通り、俺がお前の死になってやろう!」


流離の胴体を刺し、引き裂いた。


「…やるじゃ…ないか。概念種の名は…伊達ではない、か…」


流離は力無く倒れ込み、赤黒い魔力の粒子となって消えていった。それを見ていた幻は思わず叫ぶ。


「…!流離!」


幻の目に涙が浮かぶ。その胸の内に後悔の波濤が押し寄せてくる。


「ああ…私が、私が1人で現を対処出来なかったから…」

「幻…」


リーヴは幻の背中に手を添えて、泣きたい気持ちを我慢しながら幻を慰めている。

一方で、五感の鋭いセラは妙な違和感を覚えていた。


(…?何で…流離が死んだのに、血の匂いが消えないの…?あたしもクオンもそんな大怪我してないし、幻の怪我は治ってるし…)


そんな事を考えながら、セラは未だ多く残っている破片の群れを片付けていた。

ボスキャラ紹介

【凶夢の集塊】うつつ

種族 概念種

所属 なし

権能 「悪夢」

今回使用した技(と状態異常)

・「夢死」状態

→現が扱う状態異常。現実で死んだ事にはならないが、夢界では死んでいるのと同じになる。一応治せるが放っておくと夢界から出られなくなる


・右を向けばそこに居る

→凶夢の破片を召喚する


・一寸先に蔓延る黒棘

→対象を確定で夢死状態にする


・夢に生きて夢に死す

→現の大技。夢死状態の対象を即死させる。

概要

真月によって生み出された悪夢の概念種。基本的に他者を害する行動を取るがそこに大した理念は無く、真月同様に「そうしたいからする」のような感じで生きている。ただし決して純粋という訳ではなく、言ってしまえば「倒すべき悪」ではある。

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