第11話 およそ8畳の大冒険
戦えないリーヴが戦えないなりに頑張る回です
(セラも、パラノイアも、がんばってる。わたしも…がんばらなきゃ)
そう意気込んで実験室に戻ったリーヴ。そんな彼女が最初に思った事は…
「…『しりょう』って、なんだろう」
そこからか。
「たぶん、ここにたくさん散らばってる紙の事だよね」
認識がふわふわし過ぎている気がするが、何はともあれ正解だ。
「…たくさんある。どれを見ればいいんだろう」
それは手当たり次第に探していくしかないだろう。
「よし、まずは端っこの棚から見てみよう」
リーヴは入り口から見て右奥にある木製の戸棚の前に立つ。そして、1番下の引き出しから順番に開けていく。
「これは…瓶?中身は……うっ…にがい」
どうやらコーヒー豆だったようだ。というか何でもかんでも口に入れるのをやめろって言われてなかった
か?
「ふふ。『こうきしん』には勝てない、ね」
君が楽しいならそれで良いが。
「次は…あ、紙切れだ」
もしかしたら有用な情報が見つかるかもしれない。
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No.163
暇だ
被験体がいなくなってから、私は特にする事が無い
学会としても想定外だったようで、未だ『待機』以外の連絡が無い
あまりに暇なので、実験室の模様替えをしてみた
腕が攣った
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「…日記だ」
ただの日記だったようだ。と、その時、廊下から大きな音と共にパラノイアとセラの話し声が聞こえて来た。
「ごめん、パラノイア!髪焼けてない…?」
「…そろそろ後頭部が禿げそうだ」
「ごめん…!」
「…2人とも、がんばってるな」
リーヴは、また一段上の引き出しを開けた…その瞬間。
「うわっ…!」
背伸びのし過ぎでバランスを崩し、棚がリーヴに向かって倒れて来た。
「…いたい」
そうか。痛いか。
「…別のところさがそう」
今度は、戦闘前に3人で物色した机の上にある戸棚を漁る事にした。
「…んしょ」
リーヴは頑張って机に登り、真上を見上げる。
「…とどかない」
リーヴの身長では、手を精一杯伸ばしてもギリギリ扉に手が届かないのだ。フェイズは背が高かったのだろう。
「そうだ」
リーヴは手を『ぽん』と叩いて何かを閃く。
「せーの…えい」
そして、リーヴは戸棚の扉に向かってジャンプし、取手を掴む…が、扉が開くのと同時にリーヴの身体も
移動していく。そして重みに耐え切れなかった扉は…
「うわぁ」
『バキッ』と音を立てて外れ、リーヴは地面に転がった。てかリ◯ルナイトメアみたいな事してんな。
「ふふん。わたしは学習した。背中から落ちるといたくない」
高さと勢いの問題だと思うがな。
「ううん、それより戸棚の中身を…あうっ」
その瞬間、リーヴの頭頂部に先程外れた扉が落ちてくる。
「〜〜〜!!」
リーヴは声には出さなかったものの、その灰色の髪が生えた頭を抱えてしゃがんでいる。痛いのだろう。
「……いたくないもん」
と言う割には、リーヴの目には一粒の涙が浮かんでいる。
「…泣いてもないもん」
ていうか君これ聞こえてるのか?さっきから妙に会話が噛み合うんだが。どこぞの全てを知る者じゃあるまいし。
「あ、これ…」
リーヴは、またもや紙切れを発見した。どうやら先程落下した衝撃で戸棚から落ちて来たようだ。
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No.146
昨日の事だ
かつて被験体だった淵族が、とうとう檻を破って暴れ出した
だが問題は無い。既に対処法は確立された
奴らは光を嫌う習性がある。照明のある部屋には入って来ない上、試しに懐中電灯の光を当ててみたらその部位が淵気となって消えた
これが役に立つ日が来るとはあまり思えないが、とりあえず残しておこう
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「あの手記が正しかったら、今のフェイズは淵族…これなら…!」
その時のリーヴの脳内には頼れる自分の友達、セラの顔が浮かんでいた。
「ふふん。わたし、お手柄」
腰に手を当てて満足気にしているリーヴだったが、丁度その時、また廊下から声が聞こえて来た。
「パラノイア、触手振り回す位置考えてよ…!ふ…服が破けちゃう…!」
「それは命より大事か!?」
「命の次くらいに大事だよっ!」
「…あ、そうだった。いかなきゃ」
リーヴは『とことこ』と入り口のドアに向かっていった。こうして、彼女のおよそ8畳の大冒険は幕を閉じた。




