第103話 悪夢と吉夢
今回は説明回なんですが
分かりにくいかもしれないので後書きに要約を載せておきます
「夢界に関しては私が説明するわ。私の方が詳しいもの」
突如として流離の隣に現れた白髪の少女は、セラに負けないくらいに澄んだ声でそう言って、穏やかに微笑んだ。
「君は…夢の中で会った子…だよね?」
思わぬ再会に戸惑いながら、セラは少女に問う。少女の方もセラに気づいたようで、セラの顔を見つめながら挨拶する。
「あら、また会ったわね。あの時は出来なかったから…今自己紹介をしましょうか。私は『幻』…夢を司る概念種よ」
そして、幻は再び『うふふ』と微笑む。
「夢の概念種…だから、あなたは夢界に居たのですね?」
「ええ。話は全て聞いていたわ。あなた達も協力してくれるのよね?ありがとう、助かるわ。まずは夢界と私の目的の話をしましょう。あなた達も、そっちの方が知りたいでしょうから」
幻は少しだけ伸びをしてから説明を始める。
「そもそも夢界というのは、人々の夢の中や、夢と夢の狭間の次元の事よ。そっちの子…リーヴって呼ばれてたわね。あなたなら分かるかしら、本来なら、夢界に凶夢の破片が居るなんてあり得ない事なのだけれど…」
隣に立っている流離も、静かにその話を聞いている。
「…このまま、私の目的も話してしまいましょう。それには少し長い話が必要なのだけど……」
その次に幻の口から放たれたのは、意外な単語だった。
「…聖穢大戦、と呼ばれている戦争を知っているかしら?」
「…!それ…!」
思わずセラは声を上げる。
「わたし達、しってるよ」
「うん…実はあたし、その戦争に居たんだ。まぁ…全く何も出来ずに退却しちゃったんだけど」
「あら、あなたも居たの?なら…私の事、覚えているかしら?」
「え…?」
セラはきょとんとした顔で幻を見つめる。
「ご…ごめん。あの時の事だけは、今でもよく覚えてなくて…」
「…それも仕方ないわ。私は…あの戦争において、シェームに戦力として連れて来られた者よ。結局…何も戦果は上げられなかったけれど」
「ああ…そういえば、あの時見た映像の中で…シェームが『同志』とか言ってた気がする…その同志が君なの?」
「ええ。聖穢大戦を知っているなら、細かい補足は要らないわね。私はあの時、真月によって身体を両断されたの。本来なら私はそこで、シェームや極光の戦士達と共に消滅する筈だった…けど、そうはならなかった」
『真月によって』という台詞の辺りで、流離は何故か気まずそうな顔をした。
「それは…どうして?」
リーヴが不思議そうに聞くと、幻は少し苦笑いをしながら答える。
「正直なところ…私でもよく分からないわ。概念種だから頑丈だった…としか言えないもの。ただ、問題なのはそこではないわ」
「問題?」
「…両断された私の半身は、私が本来『夢』という権能の内に含んでいた『悪夢』の能力だけを持った概念種となってしまったの。私はその悪夢の概念種を『現』と呼んでいるわ。一方の私は『吉夢』の能力だけが残って、権能が不完全になった影響なのか、私は実体を失ってしまった…幸い、夢界には存在出来るし、時間をかければ少しだけど、実体を保つ為の魔力も回復してくる…無論、今見せている姿ははただの幻影みたいなものよ。それだと権能は使えないけれど…」
幻の言う通り話は長かったが、それでも4人は何とか内容を理解出来た。
「じゃあ、わたし達の目的は、幻の力を取り戻すこと?」
「そうね。だけどそれだけじゃない…現は様々な星に移動しては、そこの住人に歪な悪夢を見せている…あなた達が見たような、あの気味の悪い夢の事よ。ちなみに、夢界や現実に居る凶夢の破片も現が人々の恐怖を煽る為に差し向けた存在なの」
「それはまた…何故そのような事を?」
「彼の性質は真月に似通っているわ。彼に悪意や害意は無い…単なる本能のようなもので動いているの。とはいえ、彼は私の半身だから…私には彼を止める責務がある。そっちにも協力してくれるかしら…?」
「うん。いいよ」
「あたし達だって、特にやる事も無いしね」
当たり前のように協力の申し出を快諾したリーヴ達を見て、流離は誰にも聞こえないような声で呟く。
「…やはり、似ているな」
彼が思い出していたのは、遠い場所にある青い星に住むかつての宿敵であり、現在の友人である男の事だった。
「さて、無事に協力関係も築けた事だ。具体的な策を講じるべきだろう」
「そうね。でも、策と言う程複雑な事はしないわ。そもそも夢界は私の領域だから、たとえ一部の力が失われていても、夢界にさえ居れば私は充分に力を振るえる…あなた達には、現実のどこかに居る現を見つけて、どうにか夢界に引き込んでほしいの。そこから先は…私がやるわ」
「現…という概念種がこの星に居るという確証はあるのですか?」
「あるわ。というか、彼は私の力を宿した半身だもの。居場所は常に把握してるわ…流石に、星を幾つも移動されたら分からないけれど」
やる事が定まったからか、旅団組4人の士気が心なしか上がっているように見える。一方、流離は幻にだけ聞こえるような声量で幻に話しかける。
「…幻、俺との約束は覚えているな」
「ええ…大丈夫よ。忘れてはいないわ」
そして、今日はもう日が落ちて来ていたので、流離と幻を含めた6人は宿に帰る事にした。
ちなみに何の偶然か、流離・幻ペアと旅団の泊まっている宿は同じだったどころか、部屋が隣だったらしい。
要約
幻って言う夢の概念種が真月とシェームのせいで迷惑かけられた上に幻の半身がやんちゃしてるから力を取り戻すついでに止めようぜ
って話です




