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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第100話 幻中揺蕩、夢守る夢

なんと

100話です

「…えっ?」


リーヴと同じ布団で眠りについた筈のセラは、目を覚ますとよく見慣れた場所に居た。しかしそこは、今の自分が居る筈のない場所…セラが育った星である、砂漠の星の村だった。


「あたし…確かリーヴと一緒に……」


セラはぼんやりとした意識の中で考え込むが、何か大切な事が頭から抜け落ちていくような感覚に襲われていた。そして、彼女はボソッとこう呟く。


「リーヴ……って、誰だっけ」


その時、遠くからセラを呼ぶ声が聞こえた。これも聞き慣れた、育ての母親の声である。


「セラ!洗濯物干してくれって頼んだだろ?」

「ああ、ごめん。今行くよ」


ずっと聞いていた筈の母親の声が、やたら久しぶりに聞くような気がする。セラが母親の声の方へ走り出した時、見慣れない少女とすれ違った。顔は見えなかったが、質素なこの村に似合わない神秘的な衣服と、美しく白い長髪が特徴だった。


「今の子…」


別に見覚えがある訳ではなかったが、セラはなんとなく振り返ってみる。


「…綺麗な子だったな」


独り言を呟いて、セラは母親の手伝いに向かった。心の奥には、一抹の違和感を携えながら。

そして、洗濯物を干し終えたセラは散歩に出かけた。


(…やっぱり何か変だよね。上手く言えないけど…あたし、ここに居るべきじゃない気がする。それに…リーヴって誰の事だっけ)


そんな考え事をしながら村中を歩き回っていると、再び先程の少女とすれ違った。不思議な事に、少女はすれ違い様にこんな事を呟いた。


「思い出して…でなければあなたは…」


よく聞こえなかったが、確かにそんな事を言っていた。


「え?」


セラは思わず振り返るが、そこにはもう少女の姿はなかった。


「…今日は色々おかしな事が起こるなぁ」


その時、セラはふと気になって、自分が身につけている金色の指輪に視線を落とした。


「…?この指輪…最初は銀色だったよね。いつ…この色になったんだっけ」


セラはまた考え事をしながら家に帰り、母親に『リーヴ』という人間の事を聞いてみる事にした。


「ねぇ、お母さん。リーヴって…誰の事だっけ」

「リーヴ?そんな名前知らないけど…知り合いかい?見た目は?」

「えっと…灰色の髪とか、黒いパーカーとか着てる子だよ」

(あれ…何であたし、『リーヴ』の見た目を知ってるんだろう)

「ああ彷徨者ね。ほら、この前うちに来たじゃないか。倒れてたあんたを運んでさ」

「あ…そういえばそんな事もあったね」

「あの子は旅をしてるんだっけ。それで、あんたを誘ったけど…結局あんたは断ってたね」

「…?うん…」

(そう…だっけ?何か…何かおかしいよ。あたしは…)

「セラ…どうかしたかい?」

「ううん。ちょっと外の空気吸ってくる」


セラはゆっくりと外に出ていった。この時、既に彼女は気づいていた。村に、家の中に、異様な雰囲気が広がっている事に。


「…うぅ。全く分からない…何かがおかしいのは分かるけど…何がおかしいんだろう。あたしって、リーヴの誘いを断ったんだっけ…?さっきから頭もぼんやりしてるし……まるで夢の中に居るみたいな…」


セラがそう呟いた時、どこからか先程の少女の声が聞こえてきた。


「そう……これは…あな の見ている い夢…どうか を覚まして…戻 なくな わ…」


先程より途切れ途切れではあるが、何とか伝えようとしている事は分かった。セラは内心分からない事だらけだったが、とりあえずその声に向かって聞いてみる。


「ここって夢の中なの?」

「そうよ…早く を覚まして…ここが夢 と認識 きれ … ここから られ 筈…お願い、今だけ いいの…私の指示を いて…」

「わ、分かった」

(よく分からないけど…この子の言う事が正しいなら、ここは本当に夢の中なんだ。でもそれはさっきからずっと考えてる…何か動かない証拠でもあれば、ここを夢って思える筈…)


セラがそう思い立ち、自分が今いる場所が夢の中である証拠を見つけようと立ち上がった。するとその瞬間…


「え…」


後ろを向くと、村民達が揃ってセラの方を見つめているのだ。光の無い目で、人形のように、ただ無言でセラを見つめている。


「…やっぱりここは現実じゃない。あたしの村の人達は…もっと優しい顔してた…!」


証拠などわざわざ見つけなくとも、これが何よりもの証拠だ。そう思って、セラは反射的に村と反対方向に走り出した。走っている最中に、セラはふと後ろを振り返った。そこではまだ、村民の姿をした何かがセラを凝視していた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

どれだけ走っただろうか。もう村が全く見えなくなる程に走り続けた時、セラはへなへなと地面に座り込んだ。気がつけば、意識も大分はっきりとしてきた。


「はぁ…とりあえず走って来たけど……出口ってどこなんだろう。引き返す訳にもいかないし…夢なら早く覚めてよ…」


セラがうんざりしたように言った瞬間、周囲の空間が音を立ててひび割れ、ガラスのように砕け散った。


「えっ…」


突然の事に驚いたセラが辺りを見回すと、先程見かけた白髪の少女が正面に立っていた。


「えっと…君は?」

「…ごめんなさい。今は自己紹介をしている場合ではないの。一刻も早く、あなたを現実に帰してあげなきゃ」

「…あの世界は何だったの?ただの夢…じゃないよね」

「ええ。あれは、あなたの選択次第では本当にあり得たかもしれない未来…それを、あなたの望まなかった結果(悪夢)として、ある存在があなたに見せていたものよ」

「もし…あそこにずっと居たら、あたしは…?」

「恐らく…2度と目を覚ます事は無かったでしょうね。一応、私なら何とか出来ない事も無いけれど…今この星では、そういった『歪な悪夢』に苛まれる人が多いの。手が回らないわ」


謎の少女と会話しているうちに、セラの意識が段々と遠ざかり始めた。


「…あれ、何だろう…段々…眠く…」

「怖がらなくていいわ。あなたの意識が現実に帰り始めているのよ。安心してちょうだい…この騒動は、必ず私が止めてみせるわ」

「…そう……なんだ…ありが…とう」


薄れゆく意識の中でどうにか礼を伝えた後、セラは完全に意識を失った。

ここ2話くらい謎まみれの話ですが、ちゃんと解明するので許してください

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