第98話 へんな、魔物
翌朝、寝床にしていた空き家の戸を叩く音で、リーヴとセラは目を覚ました。
「リーちゃん、セラちゃん!朝ごはんが出来ましたよ!」
2人より先に起きて食事を用意していたアルシェンが、朝1番から元気な声を出している。
「ん……わかった」
リーヴは軽く欠伸をしてから、ほわほわとした意識の中でセラの肩を揺すり始める。
「セラ、おきて。もう朝だって」
「うん……おはよう、リーヴ」
「おはよう」
2人は寝癖を直さないまま、戸を開けてアルシェンと顔を合わせる。
「おはようございます!今日はクオンちゃんと一緒にごはん作ったんですよ!」
「ふふ。たのしみ、だね」
「ありがとね、アルシェン」
昨日の出来事が全て夢なのではないかと思う程にのどかな朝だった。瓦礫や空き家に囲まれながら、旅団の4人は仲良く朝食を済ませた。
「さて、もうそろそろ出発しましょうか」
諸々の身支度を終わらせた後、クオンが言った。
「そうだね。あたしの記憶も戻って、ついでに極光の戦士としての力も戻った…もうやる事は無いかな」
「じゃあ、次の星にいく、よ」
リーヴが普段通りに虹色のトンネルを創り出し、アルシェンやリーヴが次々とそれをくぐっていく。最後尾のセラは、トンネルに入る前に一瞬後ろを振り返って小さく呟いた。
「…さよなら、あたしの故郷」
そして彼女も、今の仲間と共に新たな星へ旅立った。
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リーヴ達がトンネルを出ると、そこは浮月の街を想起させるような近未来的な街だった。日中だと言うのに、他の星と比べていくらか眩しい街並みをしている。
「ふふん。わたし知ってる。これは『とかい』っていう」
「どことなく、浮月を思い出しますね」
「ああそっか…リーヴって浮月の街には行ってないんだ」
「うん。死んでたから、ね」
高層ビルや怪しげな店が点在する街の中を、4人は散策している。
「みて、みんな。『大人の隠れ家』が…」
「それはまた今度ね」
セラが流れるような動作でリーヴを引っ張っていく。そういえば前にもこんな流れを見た気がするが、あれはどこの星だっただろうか。
「何をしましょうか。まだ昼食には早いですし…」
「うわぁぁぁ!な…何だよこれぇ!」
クオンが今日の予定を考え始めたその時、遠くから男性の悲鳴が聞こえた。
「今のって…」
「いってみよう、みんな」
4人が悲鳴の下である路地裏に駆けつけると、尻餅をついて怯える青年の前に、黒くドロドロとした液体の塊のような生物が立ち塞がっていた。恐らくは魔物……なのか?
「大丈夫ですか?」
アルシェンが優しく聞くと、青年は無言で頷いた。
「これは……なんの魔物なのかな」
「魔物って生物の死体から生まれる筈なんだけど…これはどんな生物が元になったんだろう」
リーヴとセラが警戒しながら考察していると、突然その魔物(?)の身体がボコボコと脈打ち始めた。
「うわ気持ちわるっ」
「そんなストレートな言い方しなくても…」
リーヴは見た目の嫌悪感から反射的に身を引き、魔物と距離を取る。
魔物が数秒間の脈動を終えると、その魔物はナイフを両手に持った、ローブを纏っている男に姿を変えた。しかし、ローブやナイフを含めた全身は淡く輝く黒色で、顔のパーツは1つも無い。
「何これ…!凶月教の信者みたいな見た目…」
魔物は声にならない呻き声をあげており、セラは戦闘の予感を察知して双剣を構える。そして魔物が襲いかかるより先に、光の如き速さで魔物の全身を斬り刻んだ。
「ふぅ…先手必勝ってやつだね」
「そんなに強くはないんだ、ね」
リーヴとセラが話している時、クオンは襲われていた青年に話を聞いていた。
「あの…先程の魔物に関して、何か知っている事はありませんか?」
クオンが落ち着かせるような口調で聞くと、青年はほんの少しだが落ち着きを取り戻した様子で答える。
「あ…あれは、最近になってこの星でも見かけるようになった奴らなんだ。でも分かるのはそれだけ…奴らがどこから来たのか、何が目的なのか…他の事は一切分からない」
「この星『でも』って事は…他の星にも居るって事だよね」
「うーん…あの魔物がなにかはわからないけど、ひとを襲うなら…放ってはおけない、よね」
「少し調べてみましょうか。私も個人的に気になりますし」
「教えてくれてありがとうございます、お兄さん」
顎に指を添えて考え込むような仕草を取るクオンの後ろで、アルシェンが青年に礼を言っている。
「ああ…俺はもう行く。あんたらもこの星に留まるなら、奴らに気をつけろよ」
青年が去って行った後、4人は調査の方法を考え始めた…のだが、それからすぐにアルシェンがとある事に気づいた。
「そういえば…わたし達宿取ってないですよね」
「こうも発展していては野宿も厳しそうですし…今日のところは宿の確保を優先しましょうか」
そんなこんなで始まった宿探しは難航するかと思われたが、意外にもすんなり宿が取れた。魔物に関する調査も急ぐ必要はあまり無いので、予定通り調査は明日からという事になった。
やがて夜になり、4人は入浴や夕食を済ませて眠りについた。しかし、彼女らは知らなかった。自分達が既に、悪夢の中に足を踏み入れてしまった事を。
小話 〜星間旅団について〜
星間旅団ってそもそも色んな星の問題を解決する事が目的じゃなくて、あくまでも星々を巡る旅をするのが目的なんですよね。にも関わらず行く先々の問題を解決しているのは、メンバー全員がシンプルに聖人だからです




