第97話 君のために
今回は超久しぶりに百合描写あり回です
そんなガッツリある訳でもないですが、苦手な方は注意してください
途中からは普通の会話です
区切ろうと思ったんですが、難しくて出来ませんでした許して殺さないで
アルシェンとクオンがいい感じの寝床を見つけた頃、セラはリーヴの『お願い』を聞いていた。その内容とは…
「……ねぇ」
「…」
「これ……くすぐったい…んだけど…」
「だめ。置いてかれたの、寂しかったから。セラをチャージするの」
(あたしを…?)
リーヴがセラの身体に抱きついて、セラの匂いを嗅ぐ事だった。リーヴが鼻で息を吸い込み、吐き出す度に、リーヴの吐息がセラの首筋を撫でる。元々他人との接触が苦手なセラは、ただでさえ顔の良いリーヴに抱きつかれているだけでも既に溶けそうだった。それに加えて、密着しているせいでリーヴが息を吐く音だったりリーヴの心音だったりがはっきりと知覚でき、余計にセラが色んな意味で溶けていく。
「…セラ、いい匂いする」
「あんまり嬉しくない褒められ方だよ…」
「ふふ。ずっと、嗅いでたい、ね」
「ず、ずっととか言わないで…!」
(そうされたらあたし本当に溶けちゃうから…!)
段々と体温が上がっていき、目も回って来たセラにもお構いなしに、リーヴはセラに抱きつく腕の力を強める。
「も…もう、置いてかないから…!そろそろやめて…!」
「やだ。セラがいったんだよ?」
リーヴは嬉しそうな微笑みを浮かべている。
「うぅ…」
結局その後、リーヴは数十分もの間セラを吸い続けたという。
リーヴの『お願い』を聞き終えたセラは、久しぶりに長い間リーヴの身体に触れたせいかぐったりとしていた。
「ありがとう。満足した、よ」
「そう……それは…よかった」
今の2人は、壁に背中を預けて隣合わせで座っている。お互いの肩が微かに触れるせいで、セラの心拍はまだ微妙に下がらない。
「…ねぇ、セラ」
「なに?」
「さっき、いってたよね。『自分は兵器だから』…みたいなこと」
リーヴはあえてセラと顔を合わせず、正面を向いたまま聞く。
「…うん」
「さっきは、ちゃんといえなかったから。今、はっきりというよ」
「…」
セラは少しだけ緊張しながら無言で頷く。リーヴはそんなセラを見て『ふふ』と微かに笑った。
「わたしは、セラがどこのどんな人でも、ずっと…ずーっと、大好きだよ」
「リーヴ…」
その灰髪の彷徨者の表情は酷く柔らかく、今発した気持ちが正銘の本心である事が容易に察せた。
「…ありがとう。あたしも……ずっと大好きだよ。リーヴ」
純粋な嬉しい気持ちで胸がいっぱいになったセラは、リーヴに負けないくらいに優しい笑みを返す。それと同時に、セラの心が『ちくり』と痛んだ。何故ならば、まだ1つだけ隠している事があるからである。
(…リーヴは、あたしの事信用してくれてる。だったら…せめてこの子にだけでも、嘘は吐いちゃダメだよね)
セラは意を決して、隠し事をリーヴに打ち明けようとする。
「…リーヴ。あたし…実は隠してた事があるの。クオンにも、アルシェンにも言ってないけど…君にだけは言わなきゃいけない気がしたんだ。だから…落ち着いて、聞いてくれる?」
「…?うん」
リーヴは『きょとん』とした顔でセラを見つめている。一方のセラは深呼吸をするが、余計に緊張が高まってしまった。それでも、リーヴに真実を伝える決意は揺らがない。
「あたしね………もう、長くは生きられないんだ」
「……え?」
「極光の戦士は、人間の身体に無理矢理神の力を与えてるようなものだから。ある程度は適合出来るようにあたしの身体も弄られてるんだけど…それでも人間の耐久力には限界があるんだって」
「え……ま、まって、よ。そんな…急すぎるよ」
リーヴの本気で戸惑っている声を聞いたセラは、罪悪感に苛まれながらも半ば無理矢理話を続ける。
「1番長く生きた戦士も、確か30歳にもならないうちに死んじゃったんだって。平均寿命は大体20歳を過ぎた頃…だからあたしは、大体あと5年前後の命なんだ」
「え……や…だよ。セラ…わたし、セラと…ずっと一緒に…」
目に涙を浮かべ始めたリーヴを、今度はセラの方から優しく抱きしめる。
「うん…あたしもだよ。でも…あたしはもう受け入れた。死は避けられないものだし、あたしはそれが…人より早かった。それだけだよ」
本音を言えば、セラとて内心は穏やかで無かった。勿論『受け入れた』という言葉は嘘ではないが、セラはまだ17歳だ。刻々と迫り来る死を受け入れるなど、容易な事ではないだろう。
「そんな顔しないで…宇宙は広いんだから、もしかしたら寿命を延ばす方法があるかもしれないよ?」
「でも……でも…寂しいよ…」
「…もう、変えられないんだよ。あたしがこうなったのは自分のせい…あたしが自分の選択を誰かの意思に任せてたから。自業自得だよ」
「そんな言い方…セラはなにも悪くないよ」
「ありがとう。でも、事実だから」
その時のセラは、少し寂しそうな笑みを浮かべていた。
「あたしはこの先、決して長くない人生を無駄にはしたくない。あたしはあたしの為に生きる…そしてあたしは…」
セラはリーヴの両手を握り、真っ直ぐ目を見て誓う。
「あたしは君の為に輝くよ。君を守って、導いて、一緒に歩む…あたしは君の光になる」
「セラ…」
普段はあまり声を張らず、はっきりと意思表示する事もあまりないセラが、この時だけは自信に満ち溢れた表情で喋っていた。セラの『リーヴを守る』という決意は本物であり、それは例え自分の命が長くなくとも変わらないものだった。
「…セラが気にしてないのに、わたしがずっと気にするのも、ちょっと変だよね。わかった、よ。これからもよろしくね、セラ」
リーヴは涙を拭って、セラの手を握り返した。
「うん。よろしく、リーヴ。……旅の目的、1つ増えたね」
「何が、増えたの?」
「……生きる為。何の根拠も無いけどさ。君と旅をしてたらいつか……あたしの寿命も、どうにかなるんじゃないかなって……思えるんだ」
「…じゃあ、わたしも。1つ増えたよ、目的」
「うん。教えて?」
「わたしは……困ってる人を助けたい。今までもやって来たけど、それはなんとなくだった。でも今は違う。わたしはセラを助けたいし、それなら他の人も、出来るだけ助けてあげたい……ふふ。なんか、やる気出てきた」
「目的が定まるとやる気が湧くよね。でも、もう遅い時間だから。今日は寝よう?」
「うん。おやすみ、セラ」
そして、2人は眠りについた。いつもそうではあるが、今日の2人は互いに強く抱き合って眠っていた。まるでお互いの心の内に秘められた、寂しさや悲しさを埋め合うように。




