第95話 伝説の帰還
豆知識
クオンの耐久力自体は実はそんな高くないです
不死である代わりか、結構簡単に怪我します
現実にて。リーヴは相変わらずアルシェンのバリアに守られながら、大勢の魔物を相手に奮闘するクオンの姿を見守っていた。
「クオンちゃん…ちょっと大変そうですね」
「アルシェン、クオンを助けてあげて。わたしは、頑張ってにげる、から」
「だめですよ!クオンちゃんも助けたいですが…リーちゃんはクオンちゃんと違って、一撃でも攻撃を貰ったら危ないんですよ?」
「それは、そうだけど……わたしも、戦えたらな」
仮にクオンが1人で戦っているのだとしたら、どれだけ数が多かろうとこの程度の相手に苦戦はしないだろう。しかし、クオンの力はまさに『死』そのものであり、生者の周りで使えばその者の身に悪影響を及ぼす力だ。つまりクオンの能力は、本来1人で戦う事に特化しているのだ。それ故に仲間が居る今は全力を出す訳にもいかず、仲間を守る為に戦っているのに皮肉にもその仲間が居るから全力を出せないという状態に陥っていた。
リーヴがもどかしそうに戦闘を眺めていると、一体の魔物の爪がクオンの横腹を貫いた。
「痛っ…!」
「「…」」
2人はクオンが不死である事は知っている為か、そこまで驚きはしなかった。しかし、それでも仲間が傷つく姿を見るのは辛いのだろう。
「……致し方ありません」
すると、クオンの纏う藤色の魔力と周囲を舞っている紫色の蝶の色が赤黒く、そして禍々しく変容していった。
「クオン…?」
「お2人とも、私から出来るだけ離れて……」
その時だった。突如として空間が裂け、黄金の光と共に誰かが飛び出して来た。綺麗な金色の長髪に、背後には見慣れた光輪。両手にはこれまた見慣れた双剣を携えた少女だった。リーヴはその姿を見た瞬間確信を抱き、心底嬉しそうにその名前を呼ぶ。
「セラ…!」
「うん。ただいま、皆」
「セラちゃん、無事だったんですね…!」
「何とかね。でも、挨拶はまた後で。今はクオンを助けなきゃ」
セラは宙に浮いたまま魔物の群れに突撃していき、光の如き速度で全ての魔物を斬り伏せていった。いつの間にか元の色に戻っているクオンも、軽く口を開けたままそれを見ている事しか出来なかった。
「はや…!」
「セラちゃんすごいです…!」
「ふぅ…これで全員かな」
「セラさん、その姿は…あの本に書いてあった極光の戦士のような…」
「あはは……まぁ、色々あってね」
いつも通りに優しく微笑むセラを見て、リーヴ達はちょっとだけ安心する。
「セラさん、記憶は取り戻せたのですか?」
「うん。話すと長くなっちゃうんだけど…」
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そして4人は、いつも通りの姿に戻ったセラから先程あった出来事を聞いた…寿命の事は除いて。
その話を聞いたクオンとアルシェンの反応は…
「それは……本当、なんですよね」
「信じられないです…まさかセラちゃんが…」
大方、セラの想像通りだった。信じられる訳もあるまい。何しろ、自分自身ですらまだ全てを受け入れられた訳ではないのだから。
セラは平静を装ってはいるが、内心はかなり緊張していた。
(言っちゃった……大丈夫かな。嫌われたり、怖がられたりしないかな…)
セラの心拍は徐々に上昇していき、緊張からか彼女の肩は微かに震えている。しかし、その心配は杞憂だった。
「夢のようです…噂や伝承でしか聞いた事の無かった方が、今目の前に、それも旅仲間の中に居るだなんて」
「さっきの、かっこよかったですよ!ひゅん、ってなって、ずばーって!」
学徒の端くれとは思えない語彙力を発揮しているアルシェンも、伝説が目の前に居る事に高揚するクオンも、セラに対して負の念は全く抱いていないようだった。それが少し予想外だったセラは、恐る恐る2人に尋ねてみる。
「え、えっと……嫌じゃ、ないの?」
「何がですか?」
「その……あたしは、昔の話とはいえ沢山の命を奪って来たし、そもそも…戦う為に作られた人間兵器だし…」
「…私見になってしまいますが」
セラの台詞から数秒ほど間を置いて、クオンが口を開いた。
「戦場に身を置いていたという事は…あなたが命を奪った相手は、あなた達の命を奪おうともしていた筈です。そういった命のやり取りをする場において、結果だけ見て勝者を『人殺し』と呼ぶのは…いかがなものかと思うのです」
語り終わったクオンは、自分の悪い癖が出てしまった事に気づいて慌てて補足する。
「あ、申し訳ありません…話を難しくしてしまうのが昔からの悪癖でして。つまり……気にする必要はない、と言いたかったのです」
「そうですよ!それに、セラちゃんは兵器なんかじゃなくて、わたし達のお友達ですよ!」
「2人とも…」
自分を大切に思ってくれる人が居る嬉しさはもう知っていた筈だった。なのに、今自分がどうして泣きそうなのか。何度も経験した喜びなのに、それが堪らなく嬉しいのは何故なのか。セラには分からなかった。
「……ありがとう」
何とか涙を引っ込めたセラは、そこでとある異変に気づく。先程から、リーヴが一言も喋っていないのだ。
「そういえば、さっきから静かだね。リーヴ」
「…」
リーヴは珍しく『むすっ』とした表情をセラに向けている。
「ど…どうしたの…?あたしの昔の話、嫌だった…?」
その問いかけに、リーヴは無言で『ふるふる』と首を横に振った。
「じゃあ、何でそんな顔してるの…?ごめん、あたし…何かしちゃった…?」
「……セラ」
いつもと変わらない声音で、リーヴはセラの名前を呼ぶ。
「は、はい」
雰囲気からか、セラも敬語で返事をする。
「少し、2人で話がしたいの。きてくれる?」
「うん…」
セラの返事を聞くと、リーヴは一瞬で普段通りのほわほわした表情に戻ってクオンとアルシェンに呼びかける。
「ごめん、ね。ちょっとだけだから、近くの空き家にいる、よ」
「はい、分かりました」
そして、セラは理由も分からないままリーヴに連行されていった。その光景を見たクオンは、ポツリと一言だけ呟く。
「セラさん……浮気した人みたいですね」
【再煌の伝説】セラ(本名 セリュミエル)
種族 明光族
所属 星間旅団
異能(貰ったのは権能の『コピー』な為) 光を操る力
作者コメント
好物とかは前書いたので省略してます。記憶と一緒に極光の戦士としての力も戻ったリーヴの保護者。元々結構強い部類だったが、極光セラ(金髪になったやつ)なら多分真月が相手でも戦いにはなると思う。




