第10話 あなたは、だれ?
セラについての話
セラは幽霊などのホラー系統が全般苦手です
リーヴの前なので平気そうに振る舞ってますが内心結構ビビってます
てかアイツ今まで碌に運動してなかったのに戦い慣れて過ぎるだろ
やはり才能か
『解放厳禁』と書かれたカプセルの中にあった筈のフェイズの死体が、突然消えた。それと同時に、部屋の外から何かの気配が漂って来る。
「…行くぞ。ただの勘だが…逃げてもいずれ面倒な事になる気がする」
「うん…リーヴ、あたしから離れないでね」
「わかった」
リーヴはセラの服の裾を小さく摘み、2人の後について部屋を出る。
「…何も居ない…?」
「パラノイア…あれ…」
セラが震えながら指指した先には、先程と同じ姿勢で廊下の壁にもたれかかっているフェイズの身体があ
った。
「…用心しろ。確実に何かが起こるぞ…」
と、その時、発砲音と共にパラノイアの左肩に銃弾が命中した。
「見つけたぞ!」
そんな声を上げながら、2人の男が走って来る。
「チッ…おい!この辺りには…」
パラノイアが顔を上げると、信じられない光景が広がっていた。
「…フェイズ…!」
古い人形のような姿勢だったフェイズの死体が、背筋を伸ばして宙に浮いているのである。
「【削除済み】」
フェイズはその口から、ノイズのような声を発する。
「【こちら側へ来い】」
フェイズが右手の人差し指を空中で動かすと、発報してきた男の上半身が、黒い半透明な立方体に包まれ始めた。
「【歓迎しよう】」
フェイズが手の形を元に戻すと、その男の上半身が消滅した。
「ヒッ…!う、わぁぁぁぁぁ!」
残されたもう1人の男は、情け無い声を上げながらどこかへと逃げていく。
「フェイズ…!淵族になって異能を獲得したというのか…!」
「リーヴ!危ないから隠れてて!今度は遠くまで行っちゃダメだよ!」
「…」
珍しく、リーヴからの返答は無い。何故ならば、突然リーヴの正面に見知らぬ少年が現れたからだ。顔はフードに隠れていて見えないが、両袖と背面に2本の赤い縦線の入った黒いパーカーと、左肩に赤黒い肩掛けを身につけている少年だった。
「…アレが気になるかい?」
少年はフェイズを指差して呼びかける。
「え…うん」
「アレは…ここに所属していた研究者の亡霊にして、何かを生み出す事しか知らなかった学者達が忘れ去った『消去』…彼の能力に合わせた言い方をするならば、『削除』を体現する存在…俗に『概念種』だとか呼ばれてる奴らさ」
「え……え?」
リーヴにはまだ難しかったようだ。
「理解する必要は無い。どうせ君達は…ここで死ぬのだから」
少年は瞬く間にリーヴの背後に移動する。
「ま…まって、あなたは…だれ?」
「…答えるつもりは無い。どうせ君も……いや、何でもない。もし君達が生きていたら、また会う事があるかもね」
少年は廊下の奥へと歩いて行き、全身にグリッジを走らせてどこかへと消えた。
後ろを向いて黙っているリーヴを見て、セラが不思議そうに呟く。
「リーヴ…?」
「あ、ごめん。今…人と話してて」
「人?」
「うん。わたしより、ちょっと背が小さいくらいの男の子」
「…ねぇ、リーヴ」
「そんな人、居た?」
「…え」
視界に入っていなかった筈は無い。大体、あの少年は最初、セラやパラノイアよりも前に居た。何かの偶然で視界から外れていたとしても、少年の声が聞こえなかった筈は無い。
「…っ!リーヴ危ない!」
考え事をしているリーヴを、セラが抱えて救い出す。
「ごめん、ありがとう」
「お礼なんて要らないよ。戦闘はあたしの仕事だから、どこかに隠れてて!」
「うん…!」
リーヴが『とことこ』と物陰に隠れたのとほぼ同時に、フェイズも行動を開始する。
「【削除予定】」
「また……何言ってるか分からないのに、内容だけは理解出来る…」
「酷く…不快な感覚だ」
フェイズは指を鳴らして、人型の淵族を2体作り出す。
「囲いはあたしがやるよ!」
「気をつけろ、淵族は急所以外に攻撃が通らないぞ!」
セラは背後に光輪を出現させ、光を纏って2体の淵族に突撃していく。
「…!」
すると、何故か2体の淵族は怯えたような様子で後退りしている。
「はぁっ!」
セラは瞬く間に囲いを片付け、パラノイアの方に目を向ける。フェイズの首元に向かって、パラノイアが
左腕と触手を伸ばし続けている。
「お前は…もう俺の事も覚えていないのか?」
「【削除済み】」
「…そうだろうとは思っていたが」
「【こちら側へ来い】」
「…遠慮する」
「パラノイア!」
そこに、少し遠くの方からセラが加勢に入る。
「【削除】【削除】【削除】」
フェイズは一際大きな黒い立方体を出現させ、パラノイアとセラを一気に『削除』しようとする。
「…退け!」
パラノイアは触手でセラを掴み、後ろに放り投げる。そのお陰でセラは無事だったが、代わりにパラノイアの回避が間に合わず、彼の右腕が消滅した。
「…!パラノイア!」
「平気だ…!俺は身体を再生させられる…!」
その言葉通り、パラノイアの右腕はすぐに再生した。
「どうしよう…近づこうにもフェイズの能力が邪魔だし…」
「…俺に考えがある」
パラノイアは後ろを振り返り、大声で叫ぶ。
「リーヴ!さっきの実験室に入って淵族に関する資料を探せ!」
「え…わたし?」
「そうだ!フェイズは俺達が食い止める!」
「でも…」
リーヴは何かを言おうとしたが、すぐにその考えを改めた。
(いや…パラノイアとセラが『頑張る』って言ってるんだ。わたしも…頑張らなきゃ)
「…わかった。まかせて」
リーヴは『ぽむ』と胸を叩き、実験室へ入っていった。
「【削除】【削除】【歓迎】【削除】」
「リーヴ…絶対、危険な目には遭わせないからね…!」
それぞれの戦いが、今始まる。
キャラクタープロフィール
【削除済み】フェイズ
種族 人間→淵族→概念種
所属 なし
好きなもの 研究 平和 梨
嫌いなもの 肉 暴力
権能 「削除」
作者コメント
概念種と呼ばれるこの世界において最上位の生物。前作を読んでくれてた人は多分『概念種が先かよ』って思ってる。許して。アイツら皆が思ってるより沢山おるねん。




