表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ズル賢い人間は、周りを全て巻き込んで自滅する

作者: 紫葵

 ローラン・マーティル卿は、騎士爵位に身を置く者として貴族社会の中で長く埋もれてきた。だが彼には、ただ他の貴族の陰に隠れ、忠義を誓うのみの立場など到底耐えられるものではなかった。上位の貴族たちが集う華やかな夜会や談話の場に呼ばれることもなく、自分が冷ややかな視線を浴びるのを感じるたび、心の奥に渦巻く野心が静かに燃え上がっていく。


 彼の心には、「ただ貴族の一部では終わらない」という固い決意が生まれていた。そこで彼は、持ち前の巧みな言葉と人心掌握術を駆使し、少しずつ人脈を広げ始めた。噂や情報が飛び交う夜会や祝宴に姿を現し、上位貴族との縁を作ろうとする。ローランは、自分に無関心だった貴族たちと丁重に挨拶を交わし、笑顔の裏に鋭い観察眼を忍ばせて相手の弱点や欲望を見極めていった。そうして目をつけた相手が、ギルフォード伯爵家の次男エディンであった。


 エディンは幼い頃から兄と比較され、父であるギルフォード伯爵から冷たくあしらわれることが多かった。才能や実績においても兄に敵わず、家庭内でも疎外感を感じていた。伯爵家に生まれながらも、己の価値を証明する場が得られずにいたエディンにとって、父からの期待を裏切ることは屈辱でありながら、何をしても振り向いてもらえない苦しみがあった。ローランはその弱みを見抜き、エディンが望む「父の承認」を得られるようにと、甘い言葉を巧みに紡ぎ出した。


 ある日の午後、ローランは貴族の社交場で偶然を装ってエディンと出会った。ローランは落ち着いた口調で、いかにも親しみを込めた言葉を投げかける。


「エディン様、貴方のようなお方が伯爵の信頼をもっと得られるようになれば、さぞ伯爵家も盛り上がるでしょうに。私も、次男としての苦悩には理解がありますよ。」


 一瞬エディンの顔に驚きが浮かび、その後にわずかな希望が宿る。ローランは、彼が望むものをすべて知っているかのように語りかけた。自分が見込みのある次男として称えられること、父に認められること。その渇望にローランは巧みに付け込み、「手段」さえ選ばなければ道が開けるとほのめかす。


「私が知る限り、伯爵の意を汲むには少々の努力と工夫が要るだけです。もちろん、道が険しくとも、共に戦う者がいればこそ、進めるものではないでしょうか?」


 ローランの言葉は、エディンの心を掴んだ。父からの承認を得るためならば、多少の困難も厭わないと自分に言い聞かせてきた彼にとって、まさに待ち望んだ提案だった。ローランの誘いに応じた瞬間、エディンはまだ気づいていなかったが、彼はすでにローランの計画の一部と化していたのだった。


 この日を境に、ローランはエディンを少しずつ陰謀の渦へと引き込み、彼に「成功への道」を示す一方で、背後で密かに綿密な策を巡らせ始めた。エディンを駒にしながらも、ローランの野望はますます深まり、彼の心には強烈な欲望が渦巻き続けていた。



 ローランの策略は、エディンのみならず、さらに多くの人々を巻き込んでいく段階に差し掛かっていた。貴族社会で「有能」と称されるリズ・ブライトン侯爵令嬢と、ローランに忠実なジルバート・テオドル子爵もまた、ローランの目に留まっていた。ローランはそれぞれの隙や欲望を巧みに利用し、彼らを駒として扱う計画を練り上げた。


 まず、彼はリズに接触するため、彼女が参加する夜会へと足を運んだ。リズは聡明で正義感が強く、貴族からの信頼も厚い令嬢だった。その存在はローランにとって、ただ目障りなだけではなく、貴族社会での彼の立場を強化するためにも必要不可欠な存在だった。彼は、まるで何気なくリズに近づき、その耳にささやく。


「ブライトン令嬢、貴女の力があれば、この王国はもっと良い形へと導かれることでしょう。無能な者たちが王国を腐らせているのを見るのは、辛いことではありませんか?」


 リズはその言葉に眉をひそめるが、やがて彼女の理想と合致する提案に興味を示し始める。ローランは、その彼女の意欲と正義感を逆手に取り、王国の「改革」という名目で彼女に小さな役割を与えた。彼女には、王宮で影響力を持つとされる貴族の調査と監視を命じたが、彼女はまだそれがローランの大規模な策略の一端に過ぎないとは知らなかった。


 一方、ジルバート子爵には別の角度から接触を試みる。ジルバートはローランに対し、最も忠実な臣下の一人だったが、彼には野心がなく、ただローランへの忠誠心から動く人物であった。ローランはジルバートに対し、王宮内の動向を探らせ、細かな情報を収集するよう依頼した。ジルバートにとってローランは信じるに足る主であり、その命令に疑いを抱くことなどなかった。


 ローランの指示に従い、ジルバートは着実に情報を集め、リズは貴族たちの動向に関する報告をまとめていった。エディンは、彼らの知らぬ間に連携し、陰謀の核を形成する役割を担わされていた。それぞれがローランにとって異なる目的を持つ駒として動かされ、何の疑問も抱かぬまま、互いがローランの策略の一部となっていることに気づくことはなかった。


 だが、ローランの思惑を越えた展開が少しずつ彼らの足元を揺るがし始めた。リズが監視対象としていた貴族たちの中に、彼女が信頼していた人物が含まれており、彼女は任務のためにその人物を裏切らざるを得なくなった。リズはその状況に心を痛めながらも、ローランへの信頼のもと、自らが正しいと信じる行動を続けた。だがその行動が、いずれ自身を窮地へと追い込むことをまだ知らない。


 また、ジルバートが収集した情報の中には、彼の立場を危険に晒すようなものも含まれていた。忠実にローランの指示に従うあまり、王国に背くような証拠を自ら集め、彼は自分で掘った穴に嵌りかけていた。だが、彼はそれが自分の忠誠の証だと信じ、何の疑念も抱かずにその道を突き進んだ。


 そして、エディンは父からの承認を得るため、ローランの影響下で動き続けたが、彼が巻き込まれた計略は次第に危険な領域へと及んでいた。次第に彼は、計略の犠牲者となりつつあることに気づき始めるも、すでに自らが犯した罪の責任を逃れる術はなく、進むしか道は残されていなかった。


 こうして、ローランが巡らせた策略の糸に絡め取られたリズ、ジルバート、エディンは、それぞれが信じる正義や忠義、欲望を胸に、気づかぬうちに引き返せない深みへと進んでいく。ローランの思惑に沿って動く彼らの姿を、ローランは満足げに見つめながら、さらなる策略を巡らせる準備をしていた。広げた人脈を活用し、様々な者に細分化した一部分の役割を担ってもらうことで、一人では全体像がわからないようにしていた。



 ローランは野心をさらに膨らませ、貴族社会における強力な地位を手に入れるために、新たな陰謀を着々と準備していた。彼の次の標的は、貴族たちに広く信頼され、優れた才覚を持つリズだった。駒として使い終えるリズには最後の役目が残っている。彼女の存在は、ローランにとって権力の障害であると同時に、周囲からの信用を得るために打ち倒すべき象徴となっていた。


 ローランはまず、リズが貴族社会での信用を失うための巧妙な罠を仕掛けた。彼はリズが関わったことのない陰謀の「証拠」を捏造し、それを密かに広め始めた。偽の文書や証言を作成し、リズが王家に対して謀反を企てているという噂を流した。貴族たちは次第にその噂に耳を傾け、やがてリズを信じる者たちですら彼女への不信感を抱き始めた。リズは無実であると声を張り上げるが、証拠は彼女の訴えを裏切り、彼女は徐々に追い詰められていった。


「私は何もしていないわ。信じてください!」リズは涙を堪え、必死に訴えた。しかし、貴族たちは冷たく彼女を見つめるばかりで、誰もがローランの仕掛けた嘘の証拠に囚われていた。やがて、リズはその地位から追放され、失脚することとなった。


 一方、エディンもまた、ローランの策略の中心に引き寄せられていた。ローランはエディンの父であるギルフォード伯爵の影響力を利用し、エディンを陰謀の実行者として仕立て上げた。エディンは父の承認を得たい一心で、無意識のうちにローランの計略に加担し、自らを取り返しのつかない位置に追い込んでしまった。彼が気づいた時には、既に抜け出せないほど深く陰謀に巻き込まれていた。


「父上が認めてくださるなら、私は何だってする!」エディンはそう誓ったが、その忠誠心がローランに利用されるだけのものだと知る由もなかった。エディンは次第に疑念を抱き始めたが、ローランの指示を無視することはできず、気づかぬうちに自身が陰謀の中心であるとされ、周囲からの疑いの目に晒されるようになっていった。


 そして、忠実なジルバートもまた、破滅の道を辿ることになる。ローランはジルバートを陰謀の証人として仕立て上げ、彼に王家を裏切った罪を着せた。ジルバートはローランに忠実であり続けたがゆえに、王国に対する背信行為の罪を一手に引き受けることになった。王宮での裁判が開かれ、ジルバートは自らが知らぬ陰謀の責任を負わされることとなった。


「私はただ、忠義を尽くしていただけなのに……」ジルバートはかすれた声で呟いたが、その嘆きは誰の耳にも届くことはなかった。彼はローランに対して一切の疑念を抱かず、主への忠誠を守り続けたが、それがかえって自らを破滅へと導く結果となった。


 ローランは、次々と駒が倒れていく様子を冷ややかな目で眺め、彼らが崩れていくのをただ待っていた。リズが泣き叫び、エディンが裏切られたと悟り、ジルバートが絶望する様を目の当たりにしても、ローランの心は微動だにしなかった。彼にとって彼らの破滅は、自らの計画が成功するための「自然な結果」に過ぎなかったのだ。


「所詮、彼らに足りなかったのは実力だ。無能は潰れる、ただそれだけのことだ。」


 ローランはそう呟き、まるで他人事のように肩をすくめた。彼にとって彼らの破滅は、あくまで自己の失敗と実力不足が招いた結果であり、彼らを巻き込んだ罪悪感など、かけらも存在しなかった。



 ある時、ローランが築き上げた策略の崩壊は、まるで一本の糸が解けるように始まった。その原因は、ローランが仕掛けた数々の罠と陰謀が複雑すぎ、互いに繋がりすぎていたためだった。彼は常に新しい嘘で以前の嘘を覆い隠し、手下や協力者たちに無数の指示を出していたが、複雑に絡み合った計画がほころび始めると、そのほつれは一気に広がり、連鎖的に崩壊していったのだ。


 最初に問題が表面化したのは、彼が巻き込んでいたエディンの失策からだった。ローランの指示に忠実に従っていたエディンが、ある夜の密談で王宮の内情を漏らしたことがきっかけとなった。彼の不安と動揺は些細なミスとなって現れ、それを耳にした王宮の警戒心が一気に高まった。そして、エディンが不自然に急接近していたローランの計画に疑いの目が向けられることとなったのだ。


 さらに、リズへの陰謀が露呈したことで、ローランの計画の根幹が揺らぎ始めた。リズは自らの失脚の原因を徹底的に調査し、意外にも彼女の支援者の中にいた者が裏切りに気づき、リズに協力した。彼女は冷静かつ慎重に証拠を集め、その過程でローランが仕組んでいた偽造文書や虚偽の情報を次々に掘り起こしていった。彼女の持つ人脈と知恵は、ローランの計略を次第に暴き出し、彼が利用していた人物たちから情報が漏れ始めた。


 一方、ジルバートも危機に陥っていた。王国への背信の罪を着せられる寸前に、彼は絶望的な状況から脱しようと無謀な行動に出た。自らの潔白を主張するため、王に直接訴えようと試みたのである。その中で、ローランとのつながりや指示の存在が露見し、ジルバートが必死に隠していた事実が、無情にも表に出てしまった。ジルバートが暴露した言葉の一つひとつは、ローランが手をかけて編んだ計略の網を引き裂く効果を持っていた。


 こうして、ローランの計画の細部が一つずつ明らかになるたびに、彼が巻き込んでいた人々の罪状が立証され、陰謀の全貌が露わになっていった。そして彼に仕えていた部下たちは、それぞれに弁明のために口を開き始め、自らの関与を最小限にしようとするあまり、ローランの関与をさらに浮き彫りにしていった。もはや彼らの証言は止まることなく広がり、まるで一気に吹き荒れる嵐のようにローランを襲った。


 ローランの権力基盤も次第に崩れていった。かつて彼に忠誠を誓っていた支持者たちは、彼の名が黒い噂で染まるのを目にして、距離を置くようになった。誰もが彼の策に加担したことを忘れたいと願い、彼に手を貸す者は一人としていなくなっていく。そして、誰もが彼を擁護するどころか、静かに彼から離れていき、ついにはローランは完全に孤立することとなった。



 宮廷で彼の謀略が暴かれた日の夜、ローランは一人、薄暗い部屋の中で考え込んでいた。彼はあらゆる手を尽くして事態を立て直そうと画策し、かつて彼の忠実な部下だった者たちに助けを求めようとした。しかし、彼の呼びかけに応える者は誰一人としておらず、彼が頼りにしていた全ての人脈も、今や氷のように冷え切っていた。


「彼らがいなくても、まだ方法はある……」ローランは自分に言い聞かせるように呟いたが、その声には焦りと虚しさが滲み出ていた。何度も頭を巡らせ、起死回生の一手を考えたが、かつてあれほど冴えわたっていたはずの策謀はすっかり鈍り、妙案は浮かばなかった。


 そのうち、周囲から聞こえてくる囁き声が彼の耳に届き始めた。かつては陰で称賛されていた彼の策略家としての才能も、今では「卑劣な策士」「人を破滅させる毒」として非難の的となっていた。窓の外から見える宮廷の明かりは冷たく、彼が求めていた栄光とはまるで対照的に輝いていた。


「最後にもう一度……」彼は冷たくなりかけた自分の手を握りしめ、心の中でそう誓った。かつてのような冷静さと強固な自信は失われていたが、それでも彼は決して負けを認めたくはなかった。ローランはすがるように最後の賭けに出た。再び仲間を説得しようとし、宮廷で名のある貴族に取り入ろうと試みた。しかし、その行動はすでに失敗する運命にあった。彼に耳を貸す者はなく、冷たく見放された視線だけが彼に向けられた。


 やがてローランの最後の計画も失敗に終わり、彼の陰謀は完全に瓦解した。孤立した彼は誰からも無視され、まるで亡霊のように存在する価値を失っていく。だが、そんな中でも彼はどこか満足げに薄く笑みを浮かべていた。


「勝ちきれなかったのは、自分の実力不足だったということか……」


 彼はその一言で、全てを終わらせたかのように納得していた。自分が巻き込んだ人々の苦しみや破滅など、彼の心を揺るがすことはなかった。ただ、自分が頂点に立てなかったことが唯一の失敗であると考え、その原因が自らの力不足であったことをひとり静かに受け入れた。


 ローランが仕組んだ策略の結果、彼の周囲にいた者たちがそれぞれの代償を背負わされていく様子は、まるで運命の戯れに翻弄される人形のようであった。彼が巧妙に編み出した罠は、彼自身の手を離れ、無関係な者たちをも次々と引きずり込んでいく。代償はそれぞれが何よりも一番大事にしていたもの、そのものとなった。



 月明かりの下、薄暗い牢獄の中で、エディンは静かに思索にふけっていた。彼は自らの運命を呪い、父の期待を裏切ったことを悔い始めていた。しかし、彼がこの結末を迎えるとは想像もしていなかった。かつては華やかな舞踏会の中心で、父の名声を引き継ぐことを夢見ていたが、今は冷たい石壁に囲まれ、ひたすらに重い沈黙と向き合う日々が続いていた。彼の心の中には、ローランの甘い言葉が反響し続けていた。「これはすべて、名声を得るための試練だ」と。だが、その言葉が彼をどれだけ深い闇へと導いたのか、エディンはようやく気づいていた。


『エディン・ギルフォード』

【罪状】ローランの陰謀に加担した罪。王国に対する裏切りの片棒を担いだ。

【刑罰】終身投獄。


 ※「父の承認」を求めたエディンは、父の名声を損ねた結果、王国の名誉を回復するための責任を果たすよう求められ、城塞の地下牢に入れられる。彼は出所の可能性が全くなく、外界との接触を禁じられ、知識と自由を奪われる。また、家族は彼の行為の代償として社会的地位を完全に失い、彼自身も名誉回復の機会を永久に失う。



 一方、リズは、自らの名誉を取り戻すために、貴族社会からの追放を受けた過去を思い出していた。彼女の家族は王国に対する信頼を失い、彼女自身も多くの人々から非難の目を向けられるようになった。リズはかつての友人たちと離れ、孤独の中で日々を過ごすことを余儀なくされた。彼女は、自身がローランの策略に無自覚であったことを思い知らされ、怒りと悲しみが混ざり合った感情に苛まれていた。何が彼女をここまで追い詰めたのか。リズは、名誉を失った一族を再建するために立ち上がる決意を新たにし、自己を取り戻すための道を模索していた。


『リズ・ブライトン』

【罪状?】ローランの策略により、無実の罪を着せられ、虚偽の証拠によって貴族社会から失脚させられた。

【刑罰?】名誉を回復するための厳しい試練を課せられ、一定期間貴族社会から追放される。


 ※正義感が強く貴族として誇り高かったリズは、彼女自身の誇りどころか、一族への王国からの信頼をも大きく損ない、再建のための責任を負わされる。



 ジルバートは、裁判にかけられた際の光景を思い出していた。自らの無実を叫びながらも、彼の声は冷酷な法廷の壁に吸い込まれ、誰にも届くことはなかった。ローランが巧みに築いた策略が彼を陥れたことを悟り、ジルバートは絶望感に苛まれた。彼は、王国に背いた罪として死を宣告されると、呆然と立ち尽くした。周囲の人々が自分を見つめる目は、憐れみや軽蔑、そして恐れが入り混じったものだった。かつては友人であった者たちが彼を見捨て、ローランの影が彼の全てを暗くしていることに気づいたとき、ジルバートの心は粉々に砕け散った。


『ジルバート・テオドル』

【罪状】ローランの陰謀に加担したことによる王国への背信行為。計画の失敗後、彼は罪を負わされ、責任を取らされることとなる。

【刑罰】王国に背いた罪として、重い罰が科され、処刑される運命に直面する。


 ※忠誠心が高かったジルバートは、国中から裏切り者と誹りを受けるようになる。裁判になってやっと、ローランからの指示に従うばかりで自分で考えてこなかったことに気付く。ジルバートは無実を訴えるも、ローランによる欺瞞が露見することなく、最終的には命を落とすこととなる。



 その間、ローランは孤島の監獄で冷徹に思考を巡らせていた。彼は、失敗の責任を他者に押し付けることを選び、反省の色を見せることなく、自身の破滅を「挑戦の結果」として満足していた。彼にとって、全ての出来事は単なるゲームに過ぎなかった。彼は、他者を道具として扱い、利用した結果、彼らがどれほどの痛みや苦しみを味わっているのかに思いを巡らせることはなかった。自己中心的な考えが支配する中で、彼は孤独な暗闇の中で微笑み続けていた。


『ローラン・マーティル』

【罪状】陰謀、偽証、仲間を裏切ることによる王国への背信行為。自身の野心のために他者を利用し、虚偽の証拠を作成して仲間たちを陥れた。

【刑罰】終身刑。


 ※致命的に重くなる罪はジルバートに押し付けることに成功したことで処刑は免れる。(この小細工にローランは一番神経を使っており、ジルバートが頭が回るタイプでなかったこともあって欺き通せた)

 ローランは厳しい監視のもと、王国の外れにある孤島の監獄に幽閉される。資産は全て没収され、名誉は完全に失われる。加えて、彼の名は王国の公文書から消され、世間から忘れ去られる運命を辿ることとなる。

 何だかんだで監獄幽閉生活さえもローランは楽しめ、ローラン視点では最後まで割と幸せな生涯を満喫する。どこでも生きられる図太い神経の持ち主である。



 他にもローランの周囲にいた者たちは、彼の策略によってそれぞれの運命を背負わされ、人生を狂わされた者が大量に出た。また、ローランの人脈の広さと暗躍が知れ渡った結果、貴族同士が疑心暗鬼に陥り、無関係な者にまで疑いの目が向けられるような事態にまで発展した。


 しかし、ローラン自身はそれを全く顧みることなく、自己の破滅に満足しながら、最後まで他者を利用し続けた。彼の残した傷跡は、深く刻まれたまま、王国全体に悲劇の記憶をもたらすこととなる。



 ローラン・マーティル卿の陰謀がついに終息を迎えた。しかし、その影響は王国全体を暗い雰囲気で覆い、誰もが彼の策略がもたらした被害の深刻さに怯えていた。社交界では、かつての華やかさが影を潜め、貴族たちの会話は低い声で交わされ、互いに不安を抱えた表情を浮かべていた。


「もう、あの男の名を耳にするのも嫌だわ。」一人の貴婦人が、微かな震えを伴った声で言った。

「彼の陰謀によって、私たちの名声がどれほど傷つけられたか、想像もつかないわ。」一人の貴婦人が、厳しい表情で隣の友人に話しかけた。


「もう、貴族の中に安心感なんてないのよ。次は誰が標的になるのか…」

「本当に、その通りです。」別の貴族が頷きながら続ける。


「彼の策によって、私たちの家族も破滅的な状況に追い込まれました。名誉は地に落ち、信頼を失った。」

「我々の家の財産も影響を受けている。」別の貴族が続けた。

「マーティル卿の名が語られるたびに、我々の社会的地位が揺らいでいるのだ。」


「彼が引き起こした混乱は、もはや私たちの生活全般に広がっている。商人たちも、彼の名を恐れて、契約すら躊躇している。」若い貴族が付け加える。「このままでは、我々の将来がどうなるか…」


「私も、家の財産が減ってしまい、もはや貴族の名に恥じる生活を送っています。」声をひそめた男が、周囲を見回しながら言った。「彼が持ち込んだこの混乱のせいで、誰もが不安を抱えているのです。」


 その場に集う貴族たちは、互いに不安を共有しながら、ローランの策略によってもたらされた被害の深刻さを感じ取っていた。暗い調子の会話は続き、貴族たちの表情には深い陰りが漂っていた。ローランの名前が語られるたびに、場の空気は一層重苦しくなった。



 一方、城下の市場もまた、同様の恐れに包まれていた。平民たちが集まる場所は、いつもなら賑わいに満ちているはずだが、今日はどこか冷え込んだ雰囲気が漂っていた。彼らは低い声で囁き合い、ローランの策略の影響を語り合っていた。


「マーティル卿のせいで、私たちの生活はどうなるんだ。」年配の男が、ため息混じりに言った。「食料が高騰し、家族を養うのがやっとだ。どうしてあんな男の存在が許されていたのか、理解できない。」


「聞いたところによれば、貴族たちもマーティル卿の影響を受けているようだな。」隣の男が言う。「我々と同じように、彼らも怯えている。国全体が不安に包まれている。」


「マーティル卿が引き起こした混乱は、我々だけでなく貴族たちにも影響を与えた。これからの未来が不安だ。」若者が加える。「誰もマーティル卿をここまで止められなかったことが悔しい。」


 その場には、かつての繁栄を夢見た面々が集まっていたが、今や彼らは未来に対する希望を失い、ローランの名が恐怖の象徴として心に刻まれていた。人々の間では、「ローランの愚かさがもたらした悲劇を忘れないように」と語り継がれ、王国の歴史の中に重い警鐘として響き続けることが約束された。


 かつての栄華を取り戻すため、王国の人々は団結し、二度と同じ過ちを繰り返さぬよう誓いを立てるのだった。しかし、心に刻まれたローランの名は、彼のズル賢さとその結果としての惨劇を忘れさせることはなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ