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神獣(3)

ダイダラボッチの山を目指し、一行は進んで行った。

少し進んだ先に大きな山が見えてきた。


「あれがダイダラボッチの山ですか?」


真が刹那へ問いかける。


「正確には全体というわけではないんだ。あの山全てを媒体としてダイダラボッチという形を形成するんだ。核がダイダラボッチなんだ。もちろん彼が動き出したらあの山が起き上がるようなものだ。それだけ影響力が大きいということだね。」


刹那は真の問いかけに答えた。


「あの山を越えるには、ダイダラボッチの核がある洞窟を抜ける必要がある。確か核を守っている怪異が居たはずだ。ただ通り抜けるだけなら特に問題はないけど、一応警戒はしておこう。それに山には怪異も住んでいる。普段は立ち入ることがない場所だからね、どんなモノが住んでいるかわからないから気をつけて進んでいこう。」


刹那の言葉に、真と咲夜は頷いた。

少し進むと、木々が生い茂る場所に出た。

道はひどく荒れ果てており、大きな石もそこかしこに転がっている。


不意に上空から何かが降ってきた。

一行の目の前に降り立ったモノは燃え盛る翼を携え、真っ赤な長髪をたなびかせており、どこか気品を感じさせる風貌だった。


「これはこれは、主様が言っていた呪われとはお主のことか?」


真を見て降り立ったモノが語りかけた。


「主様という言い方、君は怪異ではないようだね。ナニモノだい?」


刹那が問いかける。


「これは失礼しました。私は主が僕の1柱、朱雀(すざく)と申します。」


朱雀と名乗ったそれは、式神のようだった。

だが式神としてはあまりにも強大な力を有していることが伺えた。

それに気づいた刹那が問いかける。


「君は安倍晴明の式神、朱雀で間違いないね。ただ式神としてはあまりにも力が強すぎるように思えるね。形代ではなく本体がこの場に立っているようだ。どうかな?」


「おっしゃる通り。私は形代など用いるつもりはありません。騰蛇や天空の失敗もありますが、本体での顕現がいちばん主様からの使命を全うできると考えていますから。」


朱雀はどこか不敵な笑みを浮かべて刹那へと答えた。


「なるほどね。ほかの式神とはちがい、本体で現れたということは余程自信があると見える。現に相対してわかった。君は十二天将の中でも四神にあたるモノだね。都の四方を守る任を任されていたと記憶している。これは骨が折れそうだ。」


刹那は額に汗をかきながら言った。

刹那の様子を伺いつつ、腰に携えた刀に咲夜が手をかけた。

一瞬のうちに間合いを詰め、素早い閃撃を朱雀に向けて放った。

咲夜の刀は易々と燃え盛る翼を切り落とした。


「おやおや、血の気が多い方ですね。相当な使い手とお見受けしました。」


翼を切られた朱雀だったが、余裕のある表情をして後方に飛び退いた。


「素早い身のこなしです。それに一撃で決めるつもりの攻撃、容赦ないですね。ただこの程度では私を殺すには足りませんね。」


朱雀はそう言うと、自身を燃え上がらせた。

火柱に包まれた朱雀の身体は再生をしていた。

咲夜に切り裂かれた翼は何事も無かったかのように元の姿へと戻っていた。


「なるほど、再生の炎だね。朱雀の炎はどんな傷も癒し、呪いや病にも効果があったときく。随分と強力な力ではあるが、無尽蔵に扱うことは出来ないだろうね。強大な力は必ず代償がつきものだ。」


刹那が朱雀について語った。


「私のことをご存知でしたか。その通りです。私の炎はどんな傷も癒すことができる。強力な呪いや病にも効果はあります。私はあなた達と争うために来たわけではありません。少し話をしましょう。」


朱雀は一行の前に再び歩み寄り言葉を放った。


「咲夜、一旦刃を納めてくれ。朱雀の話を聞こう。争わないで済むならそれに超したことはない。」


刹那が咲夜に言った。

咲夜も了承し、後方へと移動した。


「感謝します。騰蛇や天空の件、まずはこちらをお詫びします。主様の命だったとはいえ少々手荒な真似がすぎたようです。まずはこちらの用件をお伝えしましょう。そこにいる呪われの少年、強大な呪いがかかっていることは聞いております。その呪いの力を我らが主、晴明様にお渡しください。渡すと言っても、少年の呪いを成就させるということではありません。呪いの力のみを取り出し、主がその力を取り込むということです。」


朱雀から放たれた言葉に一行は驚愕していた。


「呪いの力だけを取り出すことが可能なのかい?私の知る限り、真君の呪いは元凶の怪異が呪いを解く以外に消し去ることは出来ないと思っているのだが。それに取り出す事が可能だとして、真君への影響、そしてその力をどうするつもりなのか、そこを聞かないと検討の余地もないね。」


刹那が朱雀へと答えた。


「お答えしましょう。まずは呪いを取り出すことのリスクです。これは少年へかけられた呪いの大きさを鑑みるに間違いなく死に至るでしょう。だが呪いとして完成し、幽世に災害をもたらすことを考えれば妥当な代償ではないでしょうか。

2つ目、呪いを取り出すことについてですが、形代を使用します。主様が力を込めた形代へ呪いを移すといった方法を用いて呪いだけを封じ込める事が可能です。

3つ目、取り出した呪いは主のある目的に使用されます。目的については私も聞かされてはいません。ただ主様の成すことに間違いはないと思っております。どうです?少年をこちらに引き渡して頂けませんか?」


朱雀が話終わると、刹那が口を開いた。


「真面目に聞いた私が馬鹿だったね。まず真君への影響についてだが、これこそ交渉の余地はないよ。真君にかかった呪いを解くことを目的としている。命を救うためだ。もちろん幽世を救うなんて大義名分は結構だが命が失われるのであれば問題外だ。それに君たちの主が安倍晴明ということなら、なおさら真君を渡す訳にはいかないね。晴明の目的はわからないが、幽世での行動を見る限り許容できるものではないだろう。悪いが交渉決裂だ。」


刹那の言葉と共に、咲夜が戦闘態勢をとった。


「そうですか。もとより交渉の余地は無かったということですね。残念です。ですが、その少年を生かして置いてなんの意味があるのでしょう。幽世を脅かす程の呪い、施した怪異の目的こそ、驚異ではないですか?その少年さえ居なくなればなにも怯える必要はないのですよ?」


朱雀の言葉を聞き、真は納得してしまった。

幽世を脅かす可能性を秘めた自分を、どうして生かしておくのか、どうして助けようとするのか、疑問が浮かんだ。


「私は、自分の使命を全うしているだけだよ。渡し屋として、迷い込んだ真君をあるべき場所に返す。呪いを施した怪異に原因があるわけで、真君が幽世を揺るがしている訳ではないからね。救える命を捨てるほど薄情な教育は受けていない。先代の渡し屋も同じことをしただろうからね。申し訳ないが真君を渡すことは出来ない。」


「そうですか。では力ずくでいかせて貰いましょう。」


朱雀がそう言うと、翼をはためかせた。

無数の羽が一行に向かって飛んできた。

飛んできた羽を咲夜が弾き飛ばす。

弾かれた羽は空中で燃え盛り、大きな火花を散らせて霧散した。


「朱雀の炎は浄化の力と共に退怪の力も有している。怪異が受ければ瞬く間に火だるまになってしまう。咲夜、朱雀の炎は身体で受けないようにしてくれ。」


刹那の言葉を聞き、咲夜が少し後退する。

刹那は持っていた札を地面に置き、何かを唱えた。


「真君はこの札の近くに、ここなら炎を受けることはない。咲夜、すまないが朱雀の動きを止めてくれるかい?」


刹那の言葉に反応し、朱雀の懐に潜り込み、素早い一撃を放った。

咲夜の一撃は、朱雀の胴体を真っ二つに切り裂いた。切り裂かれた朱雀の身体はみるみるうちに炎に姿を変えた。

炎が集まり、再び朱雀の形を成していった。


「手応えがまるでありません。渡し屋殿、私の攻撃は全て無効化されています。」


刹那へと咲夜が言った。

刹那はそれを聞き、答えた。


「恐らく朱雀への攻撃はきいている、ただ再生力が高すぎてダメージを即座に回復されてしまっているんだ。咲夜、預けた黒炎を使うんだ。黒炎は決して消えることのない地獄の炎だ、朱雀にも効果はあるはずだよ。もう少し時間を稼いでくれないか。」


刹那の言葉に反応して咲夜が自らの刀に黒炎を纏わせた。

素早く朱雀の懐へと飛び込む。

朱雀は黒炎に気付き、後方へと素早く飛び退いた。

そのまま上空へと飛び上がり、咲夜から距離を取った。


「余裕がなくなりましたね。渡し屋殿の言ったことは正しかったようですね。黒炎は効果がある。」


咲夜が笑みを浮かべて言った。

朱雀は空中でバランスを崩して、そのまま地面へと落下した。なんとか受け身をとるが、片膝をついて咲夜を睨みつけて言った。


「黒炎まで用意しているとは、厄介ですね。しかも完全に避けたと思っていましたが、まさか斬られているとは。」


咲夜の一撃は、正確に朱雀の翼を捉えていた。

斬られた右翼から黒々とした炎が踊り狂っていた。

朱雀はそれ以上燃え移らないように自ら翼を切り取った。

切り取った翼は地面に落ち、そのまま黒炎にのまれて灰になっていった。


「黒炎が燃え広がる前に自切して回避したようだね。やはり黒炎は式神にも効果があると証明されたね。咲夜はそのまま朱雀を頼んだ。」


刹那は咲夜へと告げると、そのまま朱雀の後方へと走り出した。

一瞬、刹那の姿を追った朱雀の隙を見逃さず、咲夜は朱雀へと近づく。


咲夜の刀を弾くように、朱雀の翼が前方を守った。

咲夜の刀の黒炎はすでに消えていたが、鋭い一閃は両翼を切り裂いた。

その隙を逃さず、咲夜の刀は朱雀の首元を捉えていた。


そのまま切り裂かれた朱雀の首は地面へと落下した。

首を失った体はそのまま燃え尽きて消え去った。

落ちた首が咲夜へと語りかける。


「並の怪異ではなさそうですね。ここまで斬られたのは初めてです。本気で臨まなければいけませんね。」


そう言い終わると、朱雀の首はみるみる燃え上がり、鳳の形を成していった。

大きく広げられた翼と尾をたなびかせながら空中へと飛び立った。


「ここからが本番です。この姿で戦うのは数百年ぶりです。楽しくなってきました。」


朱雀は天高く舞い上がり、咲夜を見下ろしていた。


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