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神獣(1)

奈落と百鬼の森の出来事から数日が経ち、真は刹那の店へと足を運んでいた。


「刹那さん居ますか?雛菊さんから手紙を預かって来たんですけど。」


真は店の奥にいるであろう刹那に声をかけた。


「真君、すまないが今手が離せなくてね、申し訳ないんだがレジ横にでも置いてくれないかい。」


店の奥から刹那の声が聞こえ、言葉の通り手紙を置いた。

真は少し店の中を見て周り、刹那が居るであろう奥を覗き込んだ。

そこには上裸になった士郎の背中に、何かを書き込んでいる刹那の姿があった。

赤いインクのようなもので何か文字を書いていた。


「刹那さん、お忙しいそうですね。少し話があったんですけど後にした方がよさそうですかね。」


真の言葉に背中越しに刹那が答えた。


「そうだね、すこし待っていてくれればもうすぐ終わるよ。座っていてくれ。」


刹那に言われた通り、真は店先に置いてあるベンチに腰掛けた。

ふと辺りを見渡すと、すこし離れたところに咲夜が陣取っており、付近を警戒していた。

出掛ける時は常に咲夜と夜刀神を連れていくことを刹那から命じられており、護身のために指示に従っていた。


しばらくすると、店の奥から刹那と士郎が顔を出し、店の中に入るよう手招きをした。

真はそれに従い、店の中へと入っていった。


「待たせてすまないね、士郎君に呪いを施していたんだ。双魂の片割れ、穢れた魂を浄化できないかと思ってね。少しずつだが効果が出始めているようなんだが、なにせ相当な穢れを含んでいて時間がかかる。その間にも士郎君の魂や体に影響がないとも限らないからこうして毎日呪いを施している。それにわかったことがあるんだ。どうやら士郎君の中にある魂は、本来双児として生まれるはずだった士郎君の兄だった。本来は三つ子だったというわけだね。兄である自覚は魂にはないだろうが、魂のつながりは間違いなくある。だからこそ厄介なんだけどね。」


刹那は頭をポリポリと搔きながら士郎の方を見た。


「真君、元気かい?今は刹那さんの元で手伝いをしながら暮らしているんだ。何かあったら力になるから何でも言ってくれ。」


士郎が真に向って言った。

士郎は日々、内に眠る魂の片割れと対話を試みていると話した。

双魂を持って生まれたモノは総じて早死にすると言われている、双方の魂が体を奪い合う事になるため、体を蝕んでしまう。

そういったリスクも生まれるが、双魂は強い力を有することが多い。

士郎も例外ではなく、片割れの魂が体に負担のある物を肩代わりすることで強靭な耐性を得ている。それはあらゆる呪いに対してのものであり、穢れへの耐性もまた双魂のなせる業だった。


「さて、真君、君の要件を聞こうか。」


刹那が真へと言った。

真はハッとして刹那へと話始めた。


「話というのは、僕にかけられた呪いについてなんです。少し思い出したことがあって。以前に僕の祖母が神様だったりそう言ったモノを信じていたという話をしたと思います。それで思い出したことがあったんです。一度だけ、祖母がその・・・知らない名前を口にしたんです。うらさま?確かそんな名前だった気がします。」


うらという言葉を聞いて、刹那の表情が曇っていくのが分かった。

刹那が重たい口を開く。


「うら・・・なるほど、私の考えが正しいのであれば、温羅(うら)、相当古い怪異であり、悪鬼だ。しかし高名な人間に打倒されたと聞いたが、にわかには信じがたくてね。現世で有名な童話で、桃太郎という話は知っているかい?」


刹那が真へ問いかける。

真は大きく頷いた。


「桃太郎の物語の元となった鬼が、温羅だ。人間の剣士に討たれ、その姿を消したといわれている。元々鬼族の話は聞いていると思うが、青鬼族のものだ。当然人間に対して害ある存在であったため討たれることになった。だが、ただの人間に温羅を討てるとは思っていなかったが・・・温羅は別のモノに討たれたのか、難を逃れたのか。もし難を逃れていたとしよう、次に自身の命を狙ってくるものをそのままにしておくだろうか。それがもし怪異だったとしたら、その怪異を殺すために力を欲するのではないか。なるほど、あながち見当違いの話ではないかもしれないね。」


刹那は一人ぶつぶつと話した。

刹那の発言の意図が分からなかった真は、刹那に問いかけた。


「つまりどういうことですか?温羅はまだ生きていて、僕に呪いをかけたのが温羅という事でしょうか。」


真の発言を聞き、刹那が補足をする。


「あくまで仮説になってしまうが、温羅という名が伝わっているということは、何かしら真君の先祖とかかわりがあったということだ。もし、温羅が討ち取られていたのであれば、その名を知ることはないだろう。現に桃太郎の物語に温羅の名はなかなかでてこないだろう。それを鑑みると、温羅は討たれなかった。強大な力を有している温羅をただ剣術に優れた人間が討てるとは思わない。それこそ安倍晴明ほど高名な人間以外は無理だろうね。だとするなら、温羅の命を狙ったのは怪異ではないかと仮定できる。温羅が命からがら逃げのびたのか、それはわからないが、温羅と渡り合えたとするならば相当な力を有した怪異であることは間違いないだろう。その怪異を迎え撃つため、強大な怪異殺しの力を欲するのは至極当然の事だろう。ではその力をどうやって得るか・・・わかるかい?」


真は固唾を飲んで話を聞いていた。

重い口を開き、刹那の問いに答えた。


「生贄を使い、怪異殺しの力を得る・・・ですか?」


「その通り。それもかなり強大な力を必要とするだろう。動機も、方法も大いに仮説を裏付けるものに成り得る。これはかなり厄介だ。仮に温羅が真君に呪いをかけたモノだとするならば、それを反故にさせるのは難しいだろう。ましてや人間のことなどなんとも思わない青鬼族だ、聞き入れるはずはない。それに温羅がどこに居るかもわからない状態で話をつけるのは難しいだろう。ではどうするか。おびき寄せるしかない。」


刹那は誠に力強く言い放った。

真は刹那に尋ねた。


「一体どうやって・・・」


「君を、怪異殺しとして完成させる。」


一瞬の静寂が店内を包み込んだ。


「呪いを成就させるんだ。怪異殺しとして完成した真君を必ず回収しに来る、そこを叩くしかない。だがこの方法は相当なリスクを背負う事になる。怪異殺しとして完成してしまった真君は、二度と現世に戻ることはできない。それに怪異殺しの力が完成されれば天神も黙っていないだろう。だからこそこの方法は最終的な手段として検討するつもりだ。なので怪異殺しとして完成させるとは言ったが、それはあくまで最終手段だ。本命は、怪異殺しに限りなく近づける・・・だ。」


刹那の言っていることが理解できないでいた真は、刹那に問いかける。


「どういうことでしょうか。呪いは成就しなければ完成しないんじゃなかったんですか?」


刹那は真の問いに答えた。


「呪いというのは、成就した時が最大の成功と言える。でもね、すべての呪いが成就するわけでもないんだ。むしろ成就することの方がはるかに難しいと言えるだろうね。夜刀神の一件を覚えているかな?何者かが差し向けた怪異殺しの力、あれは成就した力ではなかった。むしろ未完成のままでどこまでやれるのかを実験していたものだった。それでも怪異殺しの力は得られていた。もし温羅が完璧なものを求めているとしたら、必ず完成を間近に様子を伺うはずだ。そこを狙う。方法は簡単だ、真君を現世へ一度渡し、真君の時を進める。」


衝撃的な作戦であった。

真が呪いとして成就していないのは、あくまで幽世ですごしているため、生贄としての完成を留めているからであった。現世に戻るという事は、怪異殺しの呪いを進めることに他ならなかった。


「怖いのはわかる、だが、温羅をおびき出すにはこの方法が最適だと考えている。もちろん君には拒否をする権利がある。どうする?」



刹那は真に問いかけた。


「・・・・やります、僕ができることなら。」


真は力強く刹那に返事をした。

刹那はその言葉を聞き、強く肩を叩いて言った。


「そうか。勇気を出してくれてありがとう。もちろん君をそのまま現世に帰すようなことはしない。命の保証はしよう。そのための手筈はこちらで整える。」


そう言うと、刹那は店の奥へと引っ込んで行った。

何やらしばらくごそごそと探し物をしていたようだった。

しばらくして真と士郎の元に戻って来た。


刹那の手にはなにやら光る鱗が握られていた。


「これは麒麟の鱗だ。麒麟という名前に聞き覚えはあるかな?強大な力を持った怪異で太古より人間の味方をしてきた数少ない怪異の一体だ。現世に炎羅が打った武器を持っていくわけにもいかない。ましてや私たちが君を護衛することも難しい。そこで麒麟の加護を授かり、君の命を守る。それから、彼岸と士郎君を一緒に現世へ渡す。」


その言葉を聞いて士郎はぎょっと目を見開いた。


「刹那さん、僕は現世に戻る気はないと言ったじゃないか。それに今の現世は僕にとって見知らぬ場所だ。それに僕は別天神の所有物である以上簡単には現世へ渡すことはできないと・・・」


士郎の言う通り、士郎がかつて生きていたであろう時代とは違う。

また士郎は人柱であり、別天神の許可なしに幽世から出ることは叶わないはずであった。

士郎が狼狽えるのも無理はない。


「士郎君、これは君のためでもある。君に施している呪いは浄化の呪い。片割れの魂がため込んでしまった穢れを何とかするためのものだ。しかし、幽世はどうしても多少の穢れは存在している。浄化をしては居るが、ため込んだ穢れを浄化するには相当の時間がかかるだろう。今は危ういバランスで君は生きている。それを少しでも解消できる可能性があるのが現世だ。元々君を現世へ連れていく算段ではあったんだ。現世には怪異由来の穢れは存在しない。人間由来の穢れはもちろん存在しているが、そんなものは微々たるものだ。だから君の浄化を進めるうえでも必要なことだと理解してほしい。それと、別天神の件だが、君の所有権はとっくに放棄されていることが分かった。別天神は恐らくもう幽世に居ない・・・その意味は分かるね?」


士郎は刹那の話を聞き、驚きを隠せないでいたが、不服ながらも承諾した。


「さて、話を戻そう。士郎君はあくまで浄化のために同行させるつもりだ。だがそれでは有事の時に対応できない。そこで麒麟の加護と彼岸の存在だ。まず、麒麟の加護は現世で怪異の存在を遠ざける力がある。万が一呪いの主に真君が襲われるようなことがあっても守ってくれるだろう。だが万全ではない。温羅が呪いの主だとするならば、麒麟の加護だけではどうにもならない。そこで、君の護衛に彼岸をつける。彼岸は鬼人だからね。ぱっと見たら人間とそう変わらない見た目だし、なにより現世でも人と同じように目視することができる。だから現世に居ても問題はないだろう。それに強大な怪異殺しの力もある、いざという時は頼りになるだろう。」


そう言って刹那は店先へと出て行った。

駄菓子屋の屋根上へと視線を送り、何やら言葉を交わす。


「そう言うことだから、悪いけど真君と士郎君の事頼んだよ。」


どうやら言葉の矛先は彼岸へと向けられていたらしい。

彼岸はその言葉を聞き流していたようだったが、契約上断ることができないのも理解しているようだった。

しぶしぶといった具合で肩をすくめた。


「さて、ではまず麒麟のところへ向かうとしよう。」


一行は麒麟の加護を授かるべく、件の怪異が住まう地へと足を運んでいった。



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