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百鬼夜行(後)

百鬼の森での一件を終え、雛菊たちは天神の元へと向かっていた。

時を同じくして、奈落を後にした真、咲夜、彼岸も駄菓子屋を目指して進んでいた。


駄菓子屋へとついた真達は今後について話し合っていた。


「刹那さんに言われた通り、駄菓子屋に戻って来ましたけど、雛菊さん達のところへ行かなくていいんでしょうかね?」


真が咲夜へと問いかける。


「今向かっても不確定な要素が多すぎて危険です。ここは渡し屋殿を待つべきかと。逸るお気持ちはわかりますが、すこし落ち着きましょう。」


咲夜が真をなだめるように言った。


「とにかく渡し屋が来るまで待ってるしかないんじゃないか?悪いが指示には従うが私から動くことはないと思ってくれ。」


彼岸が真へと言った。

真達はいったん刹那の帰りを待つことにした。

しばらくすると、駄菓子屋に雛菊たちが現れた。


「真、戻っていたか、それに咲夜も・・・と、誰だ?」


雛菊が彼岸を見て言った。


「彼岸だ。」


一言そう言って彼岸はそっぽを向いてしまった。


「そっちも色々あったようだな。刹那はどうした?」


雛菊が店を見渡しながら言った。


「刹那さんは黒炎をもらいに黒縄へ行ってしまったから、先に僕たちだけで帰ってきたんだ。そっちも無事でよかった。」


真が雛菊へと返す。


「まぁ、無事というわけでもないんだがな。いろいろあってこれから天神の元へ向かうところだったんだ。だがその前に刹那に話しておくことがあってな、少し待たせてもらおう。」


雛菊たちは店先にあるベンチに腰を掛けた。

真も外のベンチへと腰を掛けて雛菊へと言った。


「空亡は見つかったの?僕達も奈落で閻魔から任を言い渡されて、空亡と接触する必要があるんだけど・・・」


閻魔の名前が出た途端、雛菊が怪訝そうな顔をした。


「閻魔だと?また面倒事を刹那が引き受けてきたな?まったくどうしてあいつは・・・」


雛菊が頭を抱えて言った。


「現状を整理したい、すこし話を聞かせてくれるか?」


雛菊が真とを咲夜を呼び出し、店先で話をすることになった。

そっぽを向いていた彼岸も、咲夜によって力づくで外へと連れ出された。


「まずは僕たちの方から、刹那さんが今後の自衛のためにと、僕の武器を作ってもらうために炎羅という怪異の元に向かったんだ。その際に武器を炎羅に造らせるかわりにと閻魔から依頼を受けて、ここに居る彼岸を閻魔の元へ連れて行くように言われて同行していた。彼岸は百鬼夜行に参加していて、空亡から怪異殺しをさせられて奈落へ落とされたんだけど、色々あって刑の執行が見送られることになったんだ。その条件として閻魔から、空亡の捜索と僕に生贄の呪いを施した怪異の情報を掴むことを命じられたというわけなんだ。」


真は雛菊へ事の顛末を説明した。


「なるほど、という事は彼岸は邪ではあるがこちらの味方というわけか。それで、空亡の所在についてだ。私は今回空亡と直接会っていないが、塵鬼と雪菜が空亡に襲われた。だが塵鬼が雪菜を逃がし、空亡と相対したようだ。詳しいことはこれから塵鬼に聞くところなんだが・・・まぁそれは一旦おいておこう。空亡は百鬼の森に結界を張り、自ら怪異を招き寄せて百鬼夜行を行おうとしていた。その結界を抜けるには百鬼夜行に参加をするか、怪異を十体殺すという条件を科していた。森には邪が複数潜んでいたようで私たちも襲われたんだ。そこで空亡の古い馴染みの怪異、黒点坊と出会い、塵鬼との一件によって空亡は姿を消してしまった。空亡は取り逃がしたが、黒点坊たっての願いで所在追跡を託すことになった。塵鬼には何があったかを話してもらうつもりだった。今ここで話せるか?刹那が居れば判断を仰いだうえで天神へ報告しようと思っていたんだが、どのみち皆にも聞いてもらう事になるだろうからな。」


雛菊はそう言って塵鬼を見て言った。

塵鬼は小さく頷き口を開く。


「僕は百鬼の森で空亡と戦ったんだ。でも手も足も出なくて、殺される寸前だった。そんなとき、僕の封印されていた力と記憶・・・本当の塵鬼の魂が僕に話しかけてきたんだ、死なれたら困るから体を明け渡せって。僕は本当の塵鬼の魂から天神が作り出した別人格だったんだ。塵鬼は魂のカスって言ってた。でも空亡と戦ってわかった、僕じゃどうすることもできないって、だから本当の塵鬼に体を預けたんだ。そのあとの記憶はないんだけど、気づいたら空亡は倒れていて、僕はもとに戻っていたんだ。」


塵鬼は話終わるとうつむいてしまった。


「なるほど、天神の呪いが一時的に弱まったとみるべきだな。死に際でそうなったのか、私にはわからないが、とにかく塵鬼が無事でよかった。お前が何者であれ、長屋の用心棒に変わりはない、安心しろ。

短時間ではあるが塵鬼の封印が解けたことは天神に報告すべきだとは思うが、塵鬼がどうなるかわからない以上刹那に相談すべきだろうな。天神は極端だからな、場合によっては岩牢へ封じるなんてことを言いかねない。全く、偏屈な爺とは困ったもんだな。兎に角、空亡については目下捜索中というわけだ。

さて、私から一つ聞きたいことがあるんだが・・・彼岸、お前は百鬼夜行で何を見た?」


雛菊は一通り話終わると、彼岸へと問いかけた。


「何を見たって、私は空亡に呼び出されて百鬼夜行に参加することになったんだ。兄さまを探していてな、後から知ったがどうやら奈落の焦熱へと落とされていたようだった。百鬼夜行の際に兄さまの手掛かりになる剣を持った怪異と出会ったんだが、そいつが奪ったものなんて言うもんだからそいつを殺してやったんだ、私は晴れて邪の仲間入りってわけだな。嵌められたんだ。

その時に空亡が怪異同士の殺し合いに最後まで残ったモノの罪を清算してやると言い始めてな、半分以上が邪だったんだろう、喜んでそいつらは殺し合いを始めたよ。

怪異同士の殺し合いに巻き込まれたから私は全員返り討ちにしてやった。兄さまも怪異殺しを犯して焦熱へ落とされたことを聞いていたからな、兄さまに会えると思っていたんだが・・・当てが外れた。

空亡が行った百鬼夜行は渡し屋が蟲毒だったんじゃないかとかなんとか言ってたぞ。」


「蟲毒か・・・空亡は怪異殺しの力を欲していたという訳か。空亡自体にも怪異殺しの力はあった。だがそれ以上に力を求めて百鬼夜行を利用した。百鬼の森でも同じことを行っていたわけか。」


雛菊はそう言った後、考え込んでしまった。


「刹那さんは、空亡が何かに狙われていて、それに対処するために蟲毒を行ったんじゃないかって言っていた。そのために色々と準備をしていて、百鬼夜行もそのひとつだったんだ。」


空亡は自らの命を狙うものへの対処として百鬼夜行を使い、より強力な怪異殺しの力を欲していると考えられた。それは真へと呪いを施した怪異へもつながる可能性があった。


現状をまとめようと話をしていると、刹那が店へと戻って来た。


「おや?みんな揃っているね、これは好都合だ。何か話をしていたのかい?」


刹那の問いに真が答え、現状整理をしていたことを話した。


「なるほどね、雛菊の方でも大変なことが起こっていたんだね。それに塵鬼の封印の件、これは一旦私に預からせてくれ。天神に話をすれば塵鬼はただでは済まないだろう。私の方で何か対処ができないか考えよう。

さて、状況を改めて整理したい。黒縄の件も話したいからね。」


刹那はひとしきり雛菊から話を聞き、現状をまとめ上げた。


「まず、私たちがやらなければならないことだが、真君からも聞いている通り、閻魔から任を与えられている。


一つ目、空亡の凶行を阻止し、空亡を奈落へと落とすこと

これに関しては、雛菊たちの話を聞くに、黒点坊という怪異が空亡の行方を追っているという事だったね。こちらは任せるほかなさそうだから情報が入り次第動くことにしよう。


そして二つ目、生贄の呪いを施した怪異を突き止め、これの罪を明らかにすること

これに関しては正直お手上げ状態だ。相手が何者なのか、どんな目的があるのか、まったくわからないが、空亡が狙われていることが考えられる、そして空亡はその怪異を知っているだろう。こちらに関しても空亡を見つけることで進展がありそうだね。

閻魔からの依頼は、黒点坊という怪異が空亡を見つけるまでは動けないと思っていいだろう。もちろん私の方でも調べは進めるが、期待はしないでくれ。


とまぁ、閻魔からの依頼は一旦保留とするわけだが、問題はもう一つあるんだ。

私達が天童の一件で出会った人間、そして式神の件、こちらの方が今は厄介なことになりそうなんだ。」


式神という言葉を聞いて咲夜が口を開く。


「渡し屋殿、奈落からこちらへと戻る際、天空という式神に襲われました。対処はいたしましたが、今後も式神の襲来は避けられないでしょう。」


「なるほど、天空か。やはり占事略决に記された十二天将の一つだね。これはいよいよ面倒なことになって来た。

まず、この式神を操っているものが何者なのか、これを探っていた。もちろん確証はないが、天童の件で襲ってきた人間と、式神に指示をしている人間は同一人物だと思われる。そして、占事略决を書き記したのが、人間の歴史上もっとも人ならざる力があったとされている陰陽師、安倍晴明だ。

私たちを襲ってきた人間の力は常軌を逸していた。移魂の呪いを使い、さらには餓舎髑髏まで作り出していた。そんなことができる人間は歴史上数えるほどしかいないだろう、ましてや占事略决に記された式神を操るモノなど一人しかいない。これらから推測するに、あの人間は安倍晴明とみて間違いないだろう。もちろん本体ではない、移魂の呪いを利用して暗躍していたようだからね。本体は幽世のどこかに潜んでいて、今も何かを企んでいる。なぜ天童の扉を使って現世へ戻ろうとしていたのかはわからないが厄介事なのは確かだろう。という事で、私たちはこちらの件を処理しよう。」


刹那は秘密裏に天童の一件で出会った人間について調べていた。

占事略决に記された十二天将を名乗る式神、移魂の呪い、餓舎髑髏、どれも普通の人間が行うには大きすぎる力だった。

人間の歴史上、怪異と深く関りを持ち、時の救世主や導き手として活躍を見せた人間は大勢存在した。

安倍晴明もそのうちの一人であり、幽世にもその名を轟かせるに至っていた。

そんな人間だからこそ、怪異にとっては脅威であった。

人間は成長を遂げる生き物だ。それをわかっていて幽世で悠久の時を使い、大きな力を得ようと自ら幽世へやってくる人間が居る。

変化のない幽世だからこそ、永遠に成長し続ける化け物になりえるのだ。


「それじゃあ、僕たちは安倍晴明を探し出して、その企みを明らかにすることが今後やるべきことなんでしょうか?」


真が刹那へと言った。


「そうだね、空亡の件に関しては、雛菊たちの話を鑑みて黒点坊に任せていいだろう。自身の居場所を知らせてまで協力をしてくれているんだ、信用に足ると判断していいと思っている。もちろん天神への報告は必要だけどね。ではこれらを踏まえて今後の行動をまとめよう。


一つ目、まずは天神の元へ赴き、空亡の件について報告

これは、雛菊に任せたい。百鬼の森で起こっていた事実と黒点坊の件について話をしてほしい。塵鬼の件は一旦は保留としておこう、天神の耳には入れなくていい。私も報告すべきことがあるから天神の元へ一緒に行こう。


二つ目、安倍晴明の捜索

これに関しては、私と彼岸で対処しようと思っている。申し訳ないが彼岸は私の監視下の元で動いてもらうことになる。君の力は信用に値すると持っている。それにお兄さんの事も約束しているからね、合わせて協力してくれるかな?」


刹那の言葉に彼岸はため息をつきながらも小さく頷いた。


「そして三つ目、式神の襲来に備える

これは恐らくになるが、式神は何かの目的をもって行動している。その一つに真君の確保があると睨んでいる。真君が何らかの理由で狙われているのは明白だ。それに備えて今回奈落で武器を作り、黒縄から黒炎をもらってきている。これに関しては真君だけでは対処するのは難しい、そこで咲夜、君には引き続き真君の護衛を頼みたい、いいかな?」


咲夜は刹那の問いに頷いた。


「決まりだね。黒炎に関しては咲夜に預けておく。これは真君が扱うには危険だ。

塵鬼と雪菜は真君の襲撃に備えてほしい、咲夜だけでは守り切れない可能性がある。それに今回の塵鬼の件は大きな戦力になるかもしれない。一時でも本来の力を取り戻したという事は、塵鬼の力に影響を及ぼしているかもしれない。ただ多用は禁物だ、それが引き金となって封印が解けるのは避けたいからね。という事で、各自行動をお願いするよ。」


そう言うと、刹那は店の奥へと引っ込んで行った。

刹那の話の後、各自が自身の役割に向かって動き出した。


真は咲夜、塵鬼、雪菜と共に長屋へと向かっていた。


「真兄ちゃんのことは僕が守ってあげるから、大船に乗ったつもりでいてよ!それに雪菜のお姉ちゃんも、咲夜のお姉ちゃんも、まとめて守ってあげるからさ。」


塵鬼は先ほどまでの疲労が嘘のようにイキイキとしていた。


「ありがとう塵鬼君、でも無理はしちゃだめよ?今回だって、結果的に何とかなったからよかったけど、危うく死んじゃうところだったんだから。」


雪菜は塵鬼をそっと戒めた。

塵鬼は照れくさそうに笑っていた。

そんな様子を見て雪菜は少しあきれた顔をしていた。


「そう言えば、僕、雪菜さんの声を聴いても大丈夫だったんですけど・・・」


真が雪菜へと投げかけた。

雪女の言葉を聞くと、人間の男は身も心もを氷漬けにされてしまう。

それを危惧した雛菊は、雪菜にある物を渡していた。


「雛菊ちゃんがね、私の声が人間に影響しないように調整してくれたの。普通にしゃべっている分には真君に危害が及ぶことはないって。やっとちゃんと話せるわね。」


雛菊は薬学に精通し、多様な効果をもたらす薬を作り出すことができる薬師であった。

雪菜の声の調整もまた、雛菊が作り出した薬の効果の賜物だった。


「そうだったんですね、よかったです。改めて、咲夜さん、塵鬼君、雪菜さん、よろしくお願いします。ところでなんですけど、咲夜さんはこれからどこに住むんでしょうか?」


真が咲夜へと問いかける。


「護衛の任務にあたり、対象から離れるわけにはいきません。屋外で見張りをするという事もできますが、可能であれば真殿の部屋に住まわせていただく形をとりたいのですか。」


咲夜の提案に真が驚愕した。

こうして、一つ屋根の下、真と咲夜、そして夜刀神という奇妙な共同生活が始まろうとしていたのだった。


百鬼の森と奈落での一件を終え、皆が目的に向かって進み始めた。

幽世へと現れた歪は徐々に大きくなりつつあり、成りを潜めていたモノ達が、徐々に暗躍を始めていたことを真達は気づかなかった。










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