百鬼夜行(終)
塵鬼は自身の周りに大きな火柱を出現させた。
その火柱を掴み、炎を槍へと変化させた。
炎を纏った槍の先端を空亡へと向けて言った。
「さて、もう一勝負行こうぜ。さっきは俺様の負けだ、まさかあんなにすげぇことができるとは思ってなかったぜ、楽しいなぁ。今度はこっちからいかせてもらうぜ!」
槍を構えながら空亡へと塵鬼が突進していった。
空亡は手に持った黒炎の刀でそれを受け止めた。
黒炎と炎が激しくぶつかり合い、火花を散らせている。
「なるほど、炎を操る怪異だ、これくらいできて当然という訳か。だがそれが何だというのだ。」
空亡は塵鬼の槍を弾く。
塵鬼は槍を弾かれた衝撃で体制を崩していた。
空亡はそれを見逃さず、左手に熾した黒炎を塵鬼に見舞った。
塵鬼は黒炎を腹に受けたが、そのまま体制を立て直し、槍を振り下ろした。
空亡はそれを再び刀で受けた。
「この黒炎、相当厄介だな。まるで生きてるみてぇだ、俺様じゃなかったらとっくに消し炭だぜ。恐ろしいねぇ。」
塵鬼は焼けただれた箇所を再生させながら言った。
「お前の能力も相当厄介だな。我の黒炎を受けてなお向かってくるとは。お前には痛みや恐怖は存在しないのか?それともただ狂っているのか?どちらにせよ我の障害になることは明らかだ。何度でも殺す。」
空亡は黒炎の翼をたなびかせ、宙へと舞った。
「先ほどの攻撃で殺しきれないのなら、死ぬまで燃やし尽くしてやるだけだ。」
空亡が翼を広げると、ヒラヒラと抜け落ちた羽根が地面へと向かって落ちてきた。
地面へ落下した瞬間、羽根が爆発を起こし、塵鬼はそのまま吹き飛んだ。
「我の羽根は黒炎の粉塵を帯びている。それら一つ一つが何かと接触することで爆発を引き起こす。無数の羽根をお前はすべて受けきることができるか?」
空亡は羽根を大きく広げた後、塵鬼に向かって羽根を飛ばした。
塵鬼は体を再生させ、すぐさま羽根を避けた。
無数の羽根は地面へと落下し、そのまま爆発を引き起こした。
無数の爆発が連鎖し、辺り一面を焼け野原にした。
塵鬼は辛うじて泉の中へと逃げており、致命傷には至らなかった。
「おいおい、とんでもねぇ力だな・・・爆発までするのかよ。今のは焦ったぜ・・・さすがに受けきれねぇな。しかしお前、そんな力を持っていながらなんでこんな森に引きこもってやがる?表に出てた塵鬼の餓鬼の中で聞いていたが、結界まで張って何しようってんだ?」
爆発を避けた塵鬼だったが、衝撃での傷は避けられず、それを再生させながら空亡へと問いかけた。
「お前に我の計画を話す必要はない。ここで死にゆくモノにいくら説明したところで意味はない。それに聞いてどうする?おとなしく協力するか?お前ほどの力があれば怪異を殺してくるなど簡単だろう?」
空亡は塵鬼へと問いかける。
「それもおもしろそうだと思ったんだが、そもそも怪異を殺させてどうするつもりだ?百鬼夜行に参加させたり殺し合いをさせたり、意味が分からねぇな。」
「だろうな。我の計画を理解できるものは少ないだろう。力を持ったが故の代償だ。お前も力を持って生まれたのだろう?少しは自身の力を疎ましく思ったことがあるんじゃないのか?」
空亡は塵鬼へと問いかける。
塵鬼は笑いながら答える。
「ないな。俺様の力は俺様のために使うもんだ、そう決めてる。向かってくる奴は片っ端から倒してきた。誇らしく思うことはあっても、疎ましいと思ったことは一度もないね。お前ももっと楽しく生きたらいいんじゃねぇか?こんなところで引きこもってないでその力を使ってもっと楽しいことをしろよ。俺様はいま楽しんでるぜ?久しぶりに潰し甲斐のあるやつとやれてんだ。あんまり肩透かしなこと言うんじゃねぇぞ?」
塵鬼は宙に浮かぶ空亡めがけて炎の槍を投げ飛ばした、槍は空亡の翼へと刺さり、片翼を失った空亡は地面へと降下した。
着地の瞬間を見逃さず、塵鬼が距離を詰めて再び作り出した槍を空亡へと向ける。
空亡はそれを寸前で躱した。
躱したところに塵鬼の拳が襲い掛かる。
拳は空亡の脇を刺した。
空亡は拳を受け、体制を崩す。
体制を崩した空亡へさらに追い打ちをかけるかのように炎を纏った拳を振るう。
空亡も黒炎を纏わせた拳で応戦した。
「いいねぇ!殴り合いだ!どっちが先にぶっ倒れるか勝負しようぜ!」
塵鬼は拳を素早く空亡へと打ち付ける。
空亡はそれを防御しながら攻撃の機会をうかがっていた。
「動きが早くなってきているな、鬼の小僧の身体に慣れてきたか?だが所詮は半端、いまだ全力を出し切れていないお前が我に勝てる道理はない!」
空亡は防御を解き、鋭い拳を塵鬼の腹に食らわせた。
黒炎を纏った拳に貫かれた腹部を再生しながら塵鬼が言った。
「確かに・・・今のままじゃ勝てねぇな。無駄に命を消費してるだけだな。仕方ねぇ・・・」
塵鬼は大きく息を吸うと、そのまま体を炎で包み込んだ。
すさまじい火柱の中、塵鬼の身体が徐々に変化していることが分かった。
塵鬼は本来の力をすべて出し切ることはできないが、身体を全盛期へ近づけることでより力を高めることができる。
一時的な能力向上であったが、そうせざるを得なかった。
「なるほど、それが本来のお前の姿という訳か。」
火柱から現れた塵鬼を見て空亡が言った。
大きな二本の角を生やし、鋭い爪を携えた本来の姿は空亡ですら畏怖するものであった。
背後に炎の帯をたなびかせ、緋色の瞳が空亡を睨みつけていた。
「これが俺様の本来の身体だ、今は力を封じられているからもって一分というとこだろうな。それだけあれば十分だ。気合い入れろよ?」
そう言い終わると同時に、塵鬼はすでに空亡の懐へと移動していた。
炎を纏った拳が空亡へと襲い掛かる。
一瞬の出来事であったが、空亡は黒炎の刀で拳を防いでいた。
衝撃に耐えかね、刃はもろく崩れ去り、空亡はそのまま吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた空亡へと塵鬼が追いつき、そのまま顔を手で掴み、勢いを殺さずに地面へと空亡をたたきつけた。
吹き飛ばされた衝撃と地面へと叩きつけられた衝撃で空亡は飛び跳ねながらさらに吹き飛んでいった。
ようやく大木に当たり、その場に空亡が倒れこむ。
だが塵鬼はすでに空亡の眼前へと迫っていた。
空亡はそのまま身動きが取れず、視界も霞んでいた。
だが塵鬼は攻撃の手を緩めず、空亡の腹に拳を何度もたたきつけた。
背にした大木が衝撃でへし折れ、地面へと倒れる。
「おいおい、こんなもんか?もう少し楽しませてくれると思ったんだがな。くたばるんじゃねぞ?」
塵鬼は倒れた空亡を蹴り上げると、宙を舞う空亡めがけて火球を放った。
空亡は火球に飲まれ、そのまま後方へと吹き飛んだ。
辛うじて防御が間に合い、致命傷は避けていたが、蓄積されたダメージは空亡を立ち上がらせることはなかった。
「これほどとは・・・正直侮っていた・・・とてつもない力だな・・・」
空亡は立ち上がれないまま塵鬼を見て言った。
「力を使いすぎた。どうやら餓鬼に体を戻す時間らしい。まぁこれだけやっておけば餓鬼でも負けることはねぇだろう。じゃあな空亡、殺しきれなかったのは残念だったが楽しめたぜ?」
そう言うと、塵鬼はもとの体へ戻った。
本来の塵鬼は魂の奥へと再び戻ることとなった。
空亡は負った傷からその場を動けずにいた。
しばらくして塵鬼が意識を取り戻した。
「あれ・・・僕は・・・そうだ!本当の塵鬼に体を渡して、それで・・・・」
塵鬼は空亡を見て言葉を詰まらせた。
自身が手も足もでなかった相手が眼前で倒れ、身動きが取れずにいたのだった。
「空亡、これは僕がやったの?」
塵鬼は空亡へと言った。
「その通りだ・・・まさか、ここまでの力を持っていたとは驚いた・・・お前の中にはとんでもない化け物が潜んでいるらしいな・・・我では手も足も出なかった。殺すなら殺すがいい。我を殺せば森の結界も解ける。」
そう言うと空亡は気絶した。
塵鬼は少し考え、空亡にとどめを刺すことをやめた。
「僕には空亡が何をしたかったのかわからない、たくさんの怪異が犠牲になったことも許すことはできない、それでも殺すことはできない。空亡と会いたがっている怪異が居るんだ、それまで死んじゃだめだよ。」
返答の無い空亡に塵鬼が言った。
塵鬼は空亡の近くに持っていた傷薬を置いた。
それは雛菊から預かっていたもので、有事の際に使うようにと言われていた。
塵鬼は空亡の傍を離れず、目を覚ますのを待っていた。
しばらくして空亡が目を覚ました。
「小僧、ここで我を殺さなかったことを後悔するぞ?慈悲など受けぬよ。」
「それでも僕は殺さないよ。この森の結界を解いてくれない?空亡が何をしようとしてるのか知らないけど、僕たちは空亡を探し出すように天神から言われてきたんだ。一緒に来てくれない?」
塵鬼が空亡へと語った。
雛菊たちは、秘密裏に行われた百鬼夜行について調査をし、天神へと報告する任があった。
空亡を天神のところへ連れて行けば何かがわかると塵鬼は思ったのだった。
「天神か、あいつの元へ行くくらいなら自ら死を選ぶさ。我には目的がある。なんと言われようと今それを止めるわけにはいかない。たとえ外道になり果てても、成しえなければならないことがある。だが、こうなってしまっては目的を達することは難しいだろう、森の結界は解いてやる、ここを去れ。」
そう言うと、空亡は森に施された結界を解いた。
「ありがとう空亡、ちょっとここで待っててくれない?空亡に会いたがっている怪異が居るんだよ。黒点坊って言う怪異なんだけど知ってるでしょ?」
黒点坊の名を聞いて空亡が驚いた。
自身が黒点坊を招いてはいたが、森へと赴いてくることはないと思っていたのだった。
「黒点坊、来ていたのか。馬鹿なやつだ・・・」
空亡は静かに言った。
塵鬼は雪菜が向かった方へと走っていった。
それを見た空亡は少し微笑みを浮かべた。
塵鬼は戦いで疲弊した体を懸命に動かし、皆を探していた。
しばらく進むと、雪菜と合流を果たし、こちらに向かってきている雛菊と黒点坊の姿があった。
「塵鬼!無事か?」
雛菊が塵鬼を見て言った。
目だった外傷こそなかったが、疲れ切った様子から塵鬼へと雛菊が駆け寄った。
「管理人さん、僕は大丈夫、それより空亡が結界を解いてくれたんだ、森からは出られるよ。それからこの先に空亡が居る、いろいろあって今は動けないでいる。黒点坊、行ってあげて!」
塵鬼は黒点坊へと向けて言った。
黒点坊は塵鬼が指さした方向を見て言った。
「あの先に居るんだね、ありがとう。まずは塵鬼、無事でよかった。何があったかは後で聞くとしよう。雛菊、雪菜、塵鬼を頼む。僕は空亡のところへ。」
そう言って黒点坊は森の奥へと向かっていった。
黒点坊は焼け野原となった森を見つめていた。
見渡しても空亡の姿はなく、どうやらその場を離れた後のようだった。
黒点坊は少し残念がりながらも、笑みを浮かべた。
「やっぱり、僕がここに来るとは思っていなかったんだろうね。君らしいよ空亡。助けが欲しかったんだろう?わざわざ隠さなければならない理由があったんだろう?なぜ姿を隠しているんだい?僕にも言えないことがあるってことかい?呼び出しておいてそれはないだろう。こんなものまで残して、かくれんぼのつもりか。」
黒点坊は誰も居ない焼け野原を見つめて言った。
空亡が倒れていた場所には、小さな木の枝と石ころが無造作に置かれていた。
それは空亡と黒点坊だけが分かる秘密の暗号だった。
古くからの友にだけわかる秘密だった。
黒点坊はそれを見て笑った。
「いつか必ず君を探し出そう。その時までゆっくり休むといい。君のしたことは許されることではない、だが、友として、君を守ることができなかった僕の責任でもあるだろう。次は話を聞かせてもらうよ。」
黒点坊は焼け野原を後にし、雛菊たちの元へと戻っていった。
「黒点坊、空亡とは会えた?」
塵鬼が黒点坊へと近づき、言った。
「残念ながら逃げられたよ、まったく、昔から逃げ足だけは早かった。申し訳ないが、空亡のことは僕に任せてくれないか?必ず見つけ出して天神の元へ連れて行くと約束しよう。」
黒点坊が雛菊へと向けて言った。
「黒点坊、お前が空亡の側にあるという可能性を私たちは考慮しなければならない。お前を信じるに足るかどうかは天神が決めることだ、悪いが一緒に天神の元へ来てもらう。それと、塵鬼、空亡と何があったか天神に説明してくれ。雪菜から空亡と出会ったことは聞いている。こうして塵鬼が無事だという事は何かがあったという事だ。悪いがお前にも天神と話をしてもらう。」
黒点坊と塵鬼へと向かって雛菊が言った。
「そう思われてもおかしくはないだろう、だが時間が経てば経つだけ空亡は見つからなくなると思うが、どうする?それに天神の元へ行ったところで何も話す気はないよ。天神もそれは理解していると思う。約束しよう、必ず見つけ出すと。代わりにこれを天神に渡してくれないか?」
黒点坊が雛菊へと差し出したのは一枚の紙切れだった。
「これは?」
雛菊が黒点坊へ返す。
「これは僕の居場所を記すものだ。今どこにいるのか、それが分かるようになっている。見てくれ、この印が僕の居場所だ。この印の方角へとすすめば必ず僕に行きつく。すまないが今君たちを納得させられるものはこれしかない。」
雛菊はそれを受け取り深くため息をつく。
「わかった。お前を信じよう。空亡のことは黒点坊に任せる。何かわかったらすぐ知らせてくれ。こちらも何かわかったら伝えよう。」
「恩に着るよ。ありがとう。友として、けじめをつけさせる。それだけは約束しよう。」
そう言って黒点坊は森を去っていった。
雛菊たちは、結界の解かれた森を後にし、天神の元へと向かった。
百鬼夜行の森での出来事は大きな歪を生み出していた。
空亡という強大な怪異を前に、塵鬼の力が解放された。このことは天神の耳に入ることとなり、幽世を大きく揺るがす事件へと発展していくこととなるのであった。




