百鬼夜行(6)
空亡は周りを囲むように黒炎を広げ、塵鬼と雪菜の退路を塞いだ。
「我の目的のためには多くの怪異が必要だ、できれば殺したくはない。もう一度だけ問おう、ここから出たいのであれば百鬼夜行に参加するか怪異を十体殺してこい。」
空亡は二体を見つめて言った。
塵鬼と雪菜は空亡の圧に気圧されていたが、塵鬼が言葉を振り絞る。
「嫌だね、百鬼夜行にも参加しないし怪異も殺さない。お前を倒してここから出る。」
塵鬼は手のひらに火球を起こし、それを空亡めがけて放った
火球は黒い物体に阻まれ、空亡へは至らなかった。
黒い物体は形を変え、球体のようになった。
その球体が高速で塵鬼へと襲い掛かる。
塵鬼はそれを何とか避けた。
黒い球体は地面にめり込み、その威力の高さを見せつけていた。
「残念だ、極力殺したくはなかったが、目的を邪魔されるのも困る。ここで死んでもらおうか。」
空亡は黒炎を刀のような形状へと変化させた。
その切っ先を雪菜へ向けて言った。
「雪女、お前が結界を探っているようだな、まずはお前を処理させてもらおう。」
空亡が黒炎の刃を雪菜へと向けて振る。
黒炎の刃から黒い斬撃が雪菜へ向けて飛んでいく。
燃え盛る斬撃は地面を燃やしながら進んで行った。
雪菜は即座に結界を前面に展開し、それを防いだ。
結界は黒炎によって破壊され、その反動で雪菜が後方へと吹き飛んだ。
「雪菜のお姉ちゃん!大丈夫!」
塵鬼が倒れた雪菜へ駆け寄った。
「だ、大丈夫、何とか防げたみたい。だけど一瞬で結界が破壊されちゃった。私じゃ防ぐのは難しいかも・・・」
「雪菜のお姉ちゃん、僕が何とかあいつを抑えておくから、急いで管理人さんのところへ逃げて!」
「そんなことしたら塵鬼君が殺されちゃう!できないよ!」
「このままだと雪菜のお姉ちゃんも死んじゃう!だから早く!」
塵鬼が雪菜に向かって言った。
雪菜は躊躇したが、言葉を詰まらせた。
「逃がすと思うか?」
空亡は二人の会話を遮り、地面に埋まったままの黒い球体を操り、雪菜の元へと放った。
その球体を塵鬼が両手で受け止め、雪菜の盾となった。
「雪菜お姉ちゃん!大丈夫、僕は負けないよ・・・だから!」
球体を受け止めながら塵鬼は雪菜へと言った。
「必ず戻ってくるから!それまで無事でいて!」
雪菜は感情を押し殺し、そのまま森の奥へと走っていった。
塵鬼は受け止めた球体を吹き飛ばし、体制を立て直した。
「ここは絶対に通さない!僕が命に代えても!」
塵鬼は両手に炎を纏わせ、一気に距離を詰めて空亡の懐めがけて飛び込んだ。
拳を空亡へと向けて放つが、空亡はそれを難なく回避し、膝蹴りを塵鬼の腹部へと繰り出す。
それを受けた塵鬼はそのまま後方へ吹き飛ばされた。
「その程度の力で我を止めようとは、驕りが過ぎるぞ鬼の小僧。お前はここで我に殺され、逃がした雪女も守れぬよ。」
空亡は吹き飛んだ塵鬼へとゆっくり近づいて行った。
塵鬼は衝撃からまだしっかりと立ち上がれないでいた。
視界が霞み、空亡の姿をとらえることができていない。
空亡はそんな塵鬼めがけ、黒い球体を放った。
球体は塵鬼の右足に直撃し、再起不能へと導いた。
塵鬼はその場に倒れこんだ。
「くそぉ・・・足が動かない・・・折れちゃったかな・・・」
塵鬼は足をさすりながら言った。
塵鬼の右足は折れ曲がり、立ち上がることはできなかった。
「その程度の力しか持たないという事だ。すぐに楽にしてやろう。」
空亡は黒炎の刃を振り上げ、塵鬼の首をめがけて振り下ろそうとした。
しかし、空亡はそれを躊躇し、後方へと飛び退いた。
「なんだ、今の殺気は・・・小僧のものではない・・・誰だ?」
塵鬼はすでに気を失っていた。
塵鬼はその場に倒れこみピクリとも動いていなかった。
だが空亡は塵鬼から殺気を感じ取っていた。
(お前本当に俺様か?恥ずかしすぎて見てられないぞ。いったん体を預けろ、ここで死なれちゃ困る。)
塵鬼はどこからか響く声を聴いた。
「誰?体を預ける?」
塵鬼は見えない相手へと答えた。
(ここはお前の心象世界だ、簡単に言えば魂の中だな。俺様はお前だ、記憶を封じられる前の本物の塵鬼様よ。記憶と力を封じ込める際に、天神の野郎が俺様を心象世界の奥底へ封じこめ、代わりにお前という人格を魂から切り離して作りやがったんだ。お前は俺様の魂のカスみてぇなもんだ。だけど体をお前に渡しているせいで俺様は動くことができない。今、お前は死の淵にある、空亡とかいうやつが持っている怪異殺しの力のせいだ。まぁそのおかげで俺様がこうして表に出てこれたんだ、すこしは感謝しねぇとな。)
心象世界で話かけてきたのは、塵鬼本来の魂であった。
心象世界の奥底へと封じられていたが、塵鬼の肉体が死の淵にあったため、浮上することができていた。
「体を渡したら、僕はどうなるの?」
(知らねぇな、死なれたら俺様も死んじまうから少し手助けしてやろうと出てきたってわけだ。今の俺様じゃまだ体を取り返すことは出来ねぇからそのうちもとに戻るんじゃねぇか?死にたくなかったら体を渡せ。)
「このままじゃ空亡には絶対勝てない、でも体を渡して戻れなかったら、管理人さんや雪菜のお姉ちゃんが危ない・・・どうしたらいいんだろう。」
(お前、俺様をなんだと思ってんだ?悪いが誰彼構わず殺すわけじゃねぇぞ?殺した奴らは理由があって殺したんだ、それを天神の野郎は知らぬ存ぜぬだったがな。だからこんなことになってんだ。腹立たしいぜまったく。兎に角だ、別に信じなくてもいいがこのままじゃお前もろとも死んじまう、だから体を渡せ、俺様が何とかしてやる。)
「わかった、でも約束して、空亡をどうにかできたら、また僕と話をしてほしい。君のことをもっと知りたいんだ。」
(面倒なこと言いやがるな、まぁ気が向いたらな。)
二人は心象世界での会話を終えた。
身体は塵鬼本来の魂へと明け渡された。
心象世界での時間は現実には干渉しておらず、倒れたままの塵鬼に刃を振り下ろそうとしていた空亡が時が止まったかのように動かなくなっていた。
身体を明け渡され、空亡へと殺気を向ける。
空亡はそれに気づき、後方へと飛び退いていた。
「俺様がだれかって?俺様は塵鬼様だ。よく覚えておけよ?」
塵鬼は負傷した右足を即座に再生させて立ち上がった。
土を払うように全身を叩き、手を開いたり閉じたりして感覚を確かめているようだった。
「先ほどまでの小僧とは雰囲気が変わったな、なにが起きている?」
空亡は塵鬼へと問いかけた。
「これが俺様の本来の力だ、まぁこれでも半分ってところだがな。体まで縮んでやがるのか・・・面倒だな。まぁ戦えないこともないな。かかって来いよ、すこし遊んでやるから。」
塵鬼はそう言うと、空亡を挑発するように人差し指を上下させた。
「我も舐められたものだな、一瞬の殺気に躊躇したが、我以上の力があるわけではないだろう。さして状況は変わらん。すぐに殺してやる。」
空亡は黒い球体を塵鬼へと放った。
塵鬼はそれを片手で受け止め、粉々に握りつぶした。
黒い球体の破片が地面へと落ちていく。
「こんなもんで俺様を殺ろうってか?お前の方がなめてんじゃねぇか?てめぇでかかって来いよ!」
塵鬼はそう言うと、手のひらに火球を生み出した。
以前の塵鬼とは比べ物にならないほどの密度で生み出された火球は、火柱を上げていた。
それを空亡へと放つ。
空亡はそれを相殺しようと手から黒炎を放った。
二つの炎はぶつかり合い、互いに火柱を上げながら消滅していった。
消滅の際にすさまじい光を放ち、空亡の目を一瞬閉じさせた。
その瞬間を見逃さず、懐まで塵鬼が近づき、炎を纏った拳を空亡の顔面に浴びせた。
顔面への攻撃を受け、空亡が後方へと吹き飛ばされた。
「なんだ・・・この力は・・・これが本来の小僧の力だと?」
拳を受けた空亡はよろめきながら立ち上がった。
「まだ体が慣れてねぇな、今ので決めるつもりだったんだがな。空亡とか言ったか?けっこうやるじゃねぇか。準備運動にはもってこいの相手だな。」
塵鬼はニヤリと笑って言った。
右の拳へと炎を纏わせ、そのまま空亡へとゆっくり近づいていく。
「なるほど、先ほどまでとは相手が違うという事はわかった。我も少し本気を出さなければならないようだ。」
空亡も自身の両拳に黒炎を纏わせ、臨戦態勢をとる。
一気に距離を詰めた塵鬼の拳を弾き、左の拳を空亡の腹めがけて振りぬく。
塵鬼はそれを腕で防いだ。
空亡はそれを見逃さず、防がれた腕から黒炎を立ち昇らせた。
黒炎は塵鬼の身体を包み込んだ。
黒炎に焼かれた空亡はそのまま後ろへと飛び退いた。
すぐさま自身を炎で包み、黒炎を相殺した。
「黒い炎、厄介だな。それは地獄の炎じゃねぇのか?なんでお前が使える?」
本来黒い炎は黒縄が扱っているものだった。
刹那達が黒縄から授かろうとしている通り、黒縄の許可なくしては使えない代物だ。
しかし空亡が扱っているものも、奈落の黒炎に酷似していた。
「この黒炎は我が作り出したものだ。黒縄が扱う炎とは厳密には違っている。だが性能自体は遜色ないだろう。黒縄の炎をもとに作り出しているからな。」
空亡はそう言うと、黒炎で翼を作り出し、右手に黒い炎の刃を握りしめ、左肩まで登る黒炎を靡かせながらそのまま宙へと浮かんでいく。
「そろそろ遊びは終わりにしよう。我も時間があるわけではないからな。」
空亡は手に持った刃を天に掲げ、何かを唱える。
すると刃から黒炎が立ち上り、複数の黒炎でできた刃を作り出した。
その数は百に及び、切っ先はすべて塵鬼へと向いていた。
「百景、黒炎ノ刃、これらすべてを捉えることができるか?」
百の黒刃が一斉に塵鬼へと向かって高速で向かっていった。
塵鬼は炎で両の拳を覆い刃を防ぐように構えた。
刃は容赦なく塵鬼を襲い、弾かれたものは地面へと突き刺さり、消え去った。
塵鬼へと刺さった刃は黒炎を燃え盛らせ、その体を焼いていた。
「これは・・・すべて防ぐのは難しいな・・・やりやがる・・・」
塵鬼は刃を受けながらニヤリと笑っていた。
すべての刃が塵鬼へとむかった後、数十の刃を受けた塵鬼はその場へ倒れこんだ。
皮膚は黒炎で焼け爛れ、無数の刺し傷から煙を上げている。
「これを受けてなお原型を保っていられるとは、恐れ入った。だがその傷では立ち上がることはできまい。我は逃げた雪女を追うことにしよう。己の無力を悔いながら朽ち果てるがよい。」
空亡は雪菜が逃げていった方向を向き、先へと進もうとした。
しかし、背後に倒れているはずの塵鬼から妙な気配を感じ取り、振り返る。
「久しぶりにいい攻撃をうけた。こんなに傷ついたのは何千年ぶりだぁ?わからねぇな!楽しくなってきやがった・・・」
見ると塵鬼の傷がみるみるふさがっていき、まるで何事もなかったかのように立ち上がった。
「どうなっている?先ほどまでの傷が一瞬で?そこまでの超再生、何が起きている・・・」
「俺様は取り込んだ命をストックできるんだよ。今ので二百くらいのストックが減っちまった。怪異殺しの力がこもった黒炎だ・・・ただじゃすまないのはわかっていたが・・・やれやれ、あんなもん何度も喰らってたら命がいくつあっても足らねぇな!」
塵鬼は、己の中に取り込んだ命をストックとして保管することが可能で、自身が負った傷を肩代わりさせることで超回復を可能にしていた。欠損した部分なども命のストックを消費することで回復を行うという離れ業だった。
この力は塵鬼特有のものであり、他の怪異には見られない特異なものだった。
「なるほど、我の攻撃を受けていたのもそのためか。ならお前が死ぬまで何度も殺してやればいいという事だろう?」
空亡は手に持った刃を塵鬼に投げつけた。
塵鬼はそれを片手で受け止めた。受け止めた場所から黒炎が立ち上り、瞬く間に塵鬼の身体を焼き尽くしていった。しかし塵鬼はすぐさま再生をし、そのまま空亡へと近寄り、炎の拳を叩きこんだ。
空亡はそれを防いだが、威力を殺しきることができず、そのまま後方へと後ずさった。
「さて、ここから二回戦目と行こうか!」
塵鬼は高らかに言った。




