表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/32

百鬼夜行(4)

刃鬼との戦いを終え、黒点坊は雛菊たちと合流を果たした。


「黒点坊!無事だったか。あれだけの怪異を一人で退けたのか?」


雛菊が黒点坊へと問いかける。

雛菊にも刃鬼の強さは理解できていた。

元々鬼の怪異は力の強い者が多く、土蜘蛛では到底かなわないことをわかっていたのだ。


「問題ないよ、倒すには至らなかったが、しばらくは追ってくることはない。僕も必死だったけどね。」


黒点坊は苦笑いを浮かべながら嘘を吐いた。

自身の正体を明かすわけにはいかないためだ。

合流した四体は、ひとまず塵鬼の回復を待ってから先に進むことにした。


刃鬼との一戦で負傷し、意識の戻らない塵鬼を見て雪菜が言った。


「塵鬼君、大丈夫かしら。意識がずっと戻らないのが心配だわ。」


「塵鬼の身体はそこらの怪異よりずっと頑丈だ。力を封じられているとはいえ、あの程度でくたばるとは思えない。そのうち目を覚ますさ。」


雛菊は雪菜の肩をポンと叩いて言った。


「そういえば、塵鬼は力を封じられているという事だけど、一体なにがあったんだい?よかったら少し話を聞かせてくれないか?僕の仕事にもかかわることかもしれないからね。」


黒点坊は雛菊に塵鬼の事を尋ねた。


「黒点坊の仕事がどんなものかは知らんが、まぁ、話しておくべきかもしれんな。雪菜にも詳しく話していなかったからな、いい機会だ。

塵鬼は、邪だ、本来であれば奈落へと落とされるほどの罪を犯している。しかし、あまりに強力は力を持っていたため、閻魔でも御しきれないと天神自らが塵鬼に呪いを施し、力と記憶を封じたうえで岩牢に幽閉したんだ。塵鬼の犯した罪は、千体の怪異の殺害および千人の人間の殺害。最悪の残虐だったと当時を知る怪異が語っていたそうだ。私も直接話を聞いたわけではなく、天神から聞いた話だ。なぜ塵鬼がそのようなことをしでかしたのか、それは本人以外の知るところではないだろう。だが大罪を犯したことは事実だ。記憶もないまま悠久の時を岩牢で過ごした塵鬼は、己の事も、犯した罪の事もわからないままなんだ。塵鬼のしたことは決して許されることではない、だが何もわからないままの塵鬼を見捨てることはどうしてもできなくてな、私が長屋の管理人になった際に、長屋の用心棒として塵鬼を引き取ったんだ。」


雛菊は、塵鬼を哀れみ、自身の長屋へと招き入れていた。

大罪を犯したモノを引き取ることはリスクもあるだろう。

だが雛菊は見捨てることができなかったのだ。


「なるほどね、天神もよく許したね、そこまでの大罪者であれば永遠に岩牢に封じておくべきだと思うけど。」


黒点坊が雛菊へと問いかけた。


「そうだろうな。本来、塵鬼は奈落に落ち、長い時を贖罪に費やすことが必要だ。だが塵鬼は奈落ですらも至らないほどの力を持っている。それは岩牢も同じ、いくら閉じ込めておいても意味はない。だからこそ記憶を奪い、力を奪い、岩牢へと封じた。だが記憶を失った塵鬼は、塵鬼であって塵鬼ではないのさ。罪を犯した記憶がなければ贖罪には成りえない。それでも形式として贖罪が必要だった。それだけの話だ。今の塵鬼には罪を犯した記憶がない、だから無意味だと判断された。

その力を幽世のために利用できるならと、天神も承諾したという訳さ。

わかっていて塵鬼も私たちに協力してくれている。」


雛菊は下唇をかみしめながら話した。


「概ね理解できたよ、ありがとう。雛菊、君は優しいんだな。塵鬼の境遇は自身が招いたものだ。決して許されることではないだろう。それでも彼を救おうとした君の行動は、いつか記憶を取り戻した塵鬼へと届くだろう。

そこまでの力を持っていてなぜそんなことをしたのかわからないが、塵鬼には塵鬼なりの正義があったんだろう。気を付けなければならないのは、塵鬼の力を利用しようとするものが現れるかもしれないという事だ。空亡のように、特別な力を持ってしまったものはそういった境遇に陥りやすいからね。しっかりと見守ってあげてくれ。」


雛菊は少し照れくさそうに笑った。

一行はしばしの休憩を取りながら塵鬼の回復を待った。

しばらくして塵鬼が目を覚ます。


「あれ・・・ここは・・・鬼の怪異は?管理人さん達大丈夫?」


塵鬼は目を覚ますなり飛び上がって周囲を警戒した。

しばらく辺りを見回し、危険がないことを察して口を開く。


「よかった、僕やられちゃったんだね。ごめんね。」


塵鬼は申し訳なさそうに言った。

それを聞いた雛菊が塵鬼の頭を撫でながら言った。


「安心しろ、黒点坊が鬼の怪異を退けてくれた。しばらくは追ってこないようだ。塵鬼もよく頑張ってくれた、ありがとうな。」


その言葉を聞いて塵鬼は安心したのか、にっこりと笑った。


「さて、塵鬼も目を覚ましたことだし、この後のことを話そうか。現状僕たちはこの森を出ることができなくなっている。それは空亡の結界のせいであり、抜け出すには条件を達成する必要がある。

・百鬼夜行に参加する

・怪異を十体殺す

これがこの森を出る条件だったね。現実問題として怪異を十体殺すというのは難しいだろう。この森に何体の怪異が居るかわからないのと、おそらく集められている大半が邪だ。それに僕たちが脱出するためには四十体の怪異の殺害が必要だが、そんなことをすれば僕達も邪の仲間入り、それは避けたい。ではもう一つの条件である百鬼夜行に参加するか、これも避けたいね。空亡が何を目的として百鬼夜行を実施しているのかわからない以上、安易な参加は危険だ。ここで僕から提案がある、おそらくこの森で結界を張っているのは本体の空亡だと思う。それほどまでに強力な結界だ。雪菜の感知でもわかっていると思うけど、条件の達成が脱出に必要不可欠、だが条件を達成せずに脱出する方法はある、なんだと思う?」


黒点坊が雛菊、雪菜、塵鬼へと問いかけた。


「結界の呪いを張っている主が解除すること、ですよね?」


雪菜が黒点坊へと答えた。


「その通り、結界は呪いをかけた本人が解くことでその効力を失う。条件が絶対的な縛りを課しているのであれば、本来その条件を満たさなければならない。だが呪い自体が崩壊すればそもそも条件など達成する必要がない。だがこれが一番難しい。呪いの主が強力であればあるほど解かせることは困難になっていくだろう。強力な呪いを施せるだけの力があるという事だからね。

なので別の方法で結界を突破しようと思う。呪いの主に解かせるのではなく、その呪いと同等の力をぶつけて結界自体を破壊する。同じだけの力をぶつけてやれば呪いを相殺することができるからね、そうすれば強制的に結界を解除できるというわけだ。」


黒点坊は誇らしげに言った。


「しかし空亡ほどの力を持った怪異はここには居ないだろう?結界を破るほどの呪いとなればそれこそ空亡と同程度の力がなければ難しいんじゃないか?」


雛菊が黒点坊へ言った。


「そうだね、確かに力だけでは空亡に遠く及ばないだろう。だが、方法がないわけではないんだ。僕は結界の呪いには少し明るくてね、呪いの全貌が見えてくれば何とかできると思っている。それに空亡は結界にすべての力を注いでいるわけではないだろうからね。」


黒点坊は雛菊を見て言った。

雛菊は少し考えてから言葉を発した。


「つまりどのような結界の呪いが施されているかを解明することができれば、呪いを解除できるという事だな?それなら雪菜、結界の呪いを解析できるか?」


「できると思うけど、すこし時間が必要だと思う。それに結界は核となる場所が必ず存在していて、その場所を見つけ出さないと完全には理解できないかな。多分結界の核となっている場所はこの森の中心だと思う。でもそこには空亡も居るかもしれないのよね?そこに辿りつけても解析をしている間にやられてしまうと思うのだけれど・・・」


雪菜の言う通り、森の中心に空亡が居る可能性が高く、仮にたどり着けたとしても空亡からの攻撃を受けることは明白だった。

黒点坊は雪菜の言葉を聞き、ある提案をした。


「確かに中心には空亡が居るだろう。だがそれはあくまで推測の域を出ない。もしかしたら中心にたどり着く前に空亡と相まみえるかもしれない。だけど、この森には多くの怪異が捕らわれているとみている。森を抜け出すために条件を必死になって達成しようとしているものも居るだろう。そういったものたちをうまく取り込んでいけば空亡を抑え込むことも可能かもしれないと考えているんだが、どうかな?それに完全に解読をしてくれなくても大丈夫だ、どのような呪いかわかればそれで十分だよ。これなら中心にいかずとも可能だろう?後は僕が何とかしよう。」


黒点坊の言葉に雪菜が安堵の表情を浮かべた。

それを聞いた雛菊が口を開く。


「怪異の協力を得ることは可能な限り避けるべきだろうな。私たちはここにきて二度、命を狙われている。それに黒点坊も私たちと会ったときは傷ついていた。友好的な怪異はそう多くないだろうと思っているし、私たちの言っていることを信じるようなものがどれほどいるのか未知数だな。お互い腹を割って協力できないのであれば命に係わる、それならばもとより協力などしない方が身のためではないか?」


「確かにすべての怪異が協力的とは限らないだろう。もちろん目的があってこの森に現れた怪異も居るだろうが、大半は言葉巧みに空亡からこの森へと誘われたもののはずだ。君たちはどうかわからないが、少なくとも僕はそうだった。共通の敵を空亡とするのであれば、協力関係になるのは悪い話ではないと思うよ。だが危険性をはらんでいることも事実だ、無理に協力者を募っていく必要はない。あくまで見定めたうえでの話だ。」


黒点坊の言葉に雛菊は納得をし、了承した。

まずは雪菜の力で結界の呪いの詳細を調べることになった。

結界の呪いは、核となる場所を中心に展開され、結界から出るための条件を設定する。

その条件が重ければ重いほど、大きな力を必要とする。

空亡のように複数の結界の呪いを施し、条件を付与する場合は、結界の呪いを二重にかけることになる。

そのため、通常の結界よりもさらに力を必要としている。

それを可能としているのは空亡の力の強大さ故であった。


空亡は、怪異を十体殺すまたは百鬼夜行に参加するという二つの条件を結界に付与していた。

怪異を殺すというのは重たい条件であり、相当な力が使われている。

一方で百鬼夜行に参加するという条件においては、ただ参加するだけという条件であるため、力の消費は少ない。雪菜は百鬼夜行に参加するという条件が付与された結界から解析を進めていた。


「一つ目の結界には百鬼夜行への参加を条件とする呪いが付与されているけれど、参加の強制力はないみたい。多分百鬼夜行を行う事自体に重きを置いていないんだと思う。それにこの結界は百鬼夜行を行う事を条件に組み込んでいないから、実際に行われるかどうかは空亡の決定にゆだねられている。だからかなり厄介な結界。結局のところ、百鬼夜行を行えるだけの怪異が集まることを想定していない、ただ閉じ込めるだけの条件と言った感じ。これを達成するのは難しいけど、結界の力事態はそこまで強くないから、突破できる可能性はあるかも。」


雪菜は一つ目の条がを付与された結界を解析した。

一つ目の結界は百鬼夜行の参加を条件としており、実施の強制力はなく、行われなければ条件が達成されない、言うなれば閉じ込めておくためだけの結界であった。力のないものはこの結界の条件が履行されるのをただひたすらに待つことしか出来ず、結果として出入りを空亡に握られる形となる。


「なるほどね、百鬼夜行の参加が条件、ただそれのみ。空亡が百鬼夜行を行わなければ条件を達成することは永遠に不可能というわけだね。ただ雛菊の話だと、空亡は百鬼夜行を秘密裏に行っていた可能性があるという事だったから、あくまで保険的な意味合いの結界という事だろう。空亡の狙いはわからないが、一定の間怪異を留めておきたい理由があったんだろう。本命は二つ目の条件、十体の怪異を殺すこと、そちらにありそうだね。」


黒点坊は雪菜の解析結果を聞き、考え込んでいた。


「もう一つの結界、こっちは十体の怪異を殺すことを条件としていて、条件の重さに比例してかなり強力な結界となっているみたい。相当な力を使っているし、これを相殺するとなるとかなり大変かもしれないわ。突破口があるとしたら一つ目の結界を相殺してその穴をついて抜け出すことじゃないかしら。結界はどちらも有効だけど、一つの結界が崩れれば条件を達成したのと同じことになるから、この森から脱出することは可能だと思うわ。」


二つの結界が重なりあっていても、どちらか一方の条件を達成すれば脱出は可能である。

一つの結界にはあくまで一つの条件しか付与することはできず、複数の条件が重なっていたとしても入り口と出口は同じ場所になる。

どれか一つでも条件を満たせば結界外への道が開かれる。

それは結界の呪いを相殺した時も同じであり、結界が破壊された場合は条件の達成と同義であり、結界外への脱出が可能となる。


「わかった、では百鬼夜行の参加を条件とした結界の相殺に動くとしよう。相殺については僕に任せてくれ。雪菜、君の探知能力は素晴らしいね。君のおかげで脱出ができそうだ、ありがとう。」


黒点坊は雪菜に深々と頭を下げ、それを見た雪菜はあたふたとしていた。

森の中で出会った黒点坊は、空亡の友として長きを共にしてきていた。

しかしその友に裏切られる形で森へと誘われた。

雛菊もかつて友を失い、失意に飲まれたことがあった。

奇しくも同じ空亡という怪異とつながりを見せ、いまもまた空亡へとつながろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ