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百鬼夜行(3)

「さて、誰から殺してやろうか?先に逝きたい奴はいるかい?」


鬼の怪異は四体を眺めながら言った。

かなりの力を持っていることが容易にわかるほどの殺気が四体を襲う。


「ここは僕と塵鬼が前線に出よう。塵鬼、君の好きなように戦ってくれていい、僕はそれに合わせるよ。」


黒点坊が塵鬼に言った。

塵鬼は小さく頷き、臨戦態勢をとる。


「雛菊は雪菜を守ってくれ。さすがにそちらまで面倒をみることができる余裕はなさそうだ。よろしく頼むよ。」


「わかった、私の結界でこちらの身はどうにかして守ろう。よろしく頼んだ。」


雛菊は黒点坊に言われた通り、自身と雪菜を囲うように結界を展開した。


「決まったかい?それじゃ殺させてくれよ!」


鬼の怪異は持っていた出刃包丁を振り上げ、塵鬼に向かって勢いよく振り下ろした。

塵鬼はなんとかそれを回避し、後方に飛び退いた。

地面へと叩きつけられた出刃包丁は轟音を響かせながら大きな亀裂を走らせた。


「あっぶな、体が大きい割に素早いね。それじゃこっちも反撃!」


塵鬼はすかさず手のひらに火球を作り出し、それを鬼の怪異めがけて放った。

しかし火球は出刃包丁ではじかれ、空高く舞い上がり消えてしまった。


「へぇ、餓鬼は火を操るんだな。君も鬼だろう?鬼の怪異はよく知ってるけど、火を操る鬼は見たことがないな。珍しいものを見せてもらったよ。」


鬼の怪異は不敵な笑みを浮かべ、塵鬼を見た。

その一瞬を見逃さず、黒点坊が鬼の怪異めがけ、蜘蛛糸を放った。

鬼の怪異の左足を絡めた糸は、黒点坊の半身からのびており、鬼の怪異の動きを止めた。


「なんだこれ、べとべとしてて気持ち悪いな。君は土蜘蛛だな?土蜘蛛の糸は強度に優れていると聞いている。参ったね。」


鬼の怪異は頭をポリポリかいて言った。

しかしその表情には余裕が見て取れた。


「塵鬼、今のうちに!」


黒点坊の掛け声に反応し、動けなくなった鬼の怪異めがけ、先ほどよりもさらに大きな火球を作り出して放った。

火球が直撃した鬼の怪異はよろけた。


「いまのはさすがに効いたな。だけどこんな火力じゃ全然物足りないよ。もう少し本気を見せてくれよ。鬼ならもっと力をつかえるだろ?」


火球をものともせず、鬼の怪異は塵鬼に言った。


「今のが最大火力だったんだけどな、どうしようか。」


塵鬼は黒点坊の方を見て言った。


「なるほど、わかった。塵鬼はこれから僕が出す糸に向かって火を放ってくれ。」


そう言うと、黒点坊は再び糸を鬼の怪異に向けて放った。

今度は先ほどとは違い、すこし湿った糸だった。

その糸を鬼の怪異が出刃包丁で受け止めた。

出刃包丁に糸が絡まり、黒点坊と鬼の怪異の引き合いとなった。


「こんな糸で何するつもりだい?武器を抑えたところで君たちの攻撃は私には通用しないようだけど。」


余裕の表情を見せる鬼の怪異を尻目に、黒点坊は塵鬼に言った。


「塵鬼、いまだ!」


塵鬼が指示の通り、火球を糸へと向かって放った。

糸を伝い、炎が激しく燃え上がった。

糸は可燃性の液体を内包しており、塵鬼の火を大きく燃え上がらせた。

出刃包丁は瞬く間に炎に包まれ、その炎は鬼の怪異にまで燃え移った。


鬼の怪異はたまらず武器を手放し、腕に引火した炎を消そうと腕を振り回した。

その隙を逃さず、塵鬼が地面に燃え盛る腕をたたきつけた。

たたきつけられた腕から放たれた炎が火柱となり、鬼の怪異を包み込んだ。


炎に包まれながら暴れまわる鬼の怪異に、黒点坊はさらに可燃性の糸を放った。

糸を伝い炎がさらに激しく燃え上がった。

黒点坊は糸を切り、自身への引火を防いだ。


しばらく燃え盛った炎は静まり、鬼の怪異はひどいやけどを負った。


「なんだ・・・やるじゃないか・・・まさか・・・私がここまでの傷を受けるとはね。正直びっくりしてるよ。何百年ぶりだろうね・・・ここまで殺したくなったのは。」


鬼の怪異は地面に落ちた出刃包丁を拾い上げながら言った。


「まさか、あれほどの火力で焼かれてなお動けるとは・・・こちらの方こそ驚いているよ。塵鬼の火は決して弱くない。そこに僕の糸を組み合わせれば立ち上がるのは難しいと踏んだんだが・・・ずいぶん頑丈だね。」


黒点坊は鬼の怪異の耐久力に驚いていた。

並みの怪異であれば、塵鬼の炎に飲まれれば跡形もなく消し飛んでしまう。

そこに黒点坊の糸が合わさることでその威力は格段に高くなっていた。

それでも鬼の怪異を倒すことには至らなかった。


「いいね!まだまだ遊べそうだ!」


鬼の怪異は持っていた出刃包丁を地面に突き立てると、何かの呪いを唱えた。

みるみるうちに黒く焦げた皮膚が地面に落ちた。赤い皮膚のようなものは外核のようで、中からやせ細った身体が現れた。


「もう少し遊べそうだからね、すこし本気を出させてもらうよ。」


そう言った後の一瞬で、塵鬼の懐まで近づき、重く鋭い拳を塵鬼の腹に突き立てた。

塵鬼はそのまま後方へと吹き飛び、意識を失った。


「少しやりすぎたかな?炎のお礼にと張り切ってしまったようだ、すまない。だがこの姿で戦うのは数百年ぶりでね、まだ勝手がつかめていない。すぐには殺さないと思うけど、殺してしまったら許してくれ。」


鬼の怪異は、外核で自身の力を抑制しており、その枷を外すことで本来の力を取り戻したようだ。

パワーとスピードが格段に高まっており、黒点坊の目にも辛うじて攻撃の軌跡が映る程度だった。


「これは参ったね、まさか先ほどまで本気ではなかったとは恐れ入るよ。今でも本気は出していないだろうが、どうしたものか。雛菊、塵鬼と雪菜を連れて少し離れているんだ。どうにかしてこいつを足止めしておくからなるべく遠くへ。」


黒点坊は雛菊と雪菜を見て言った。


「そんなことをしたらお前ひとりになってしまうぞ、勝算はあるのか?お前がやられれば私たちではどうすることもできないぞ。」


雛菊は黒点坊へ返した。


「何、心配はいらないよ。君たちのところへこの怪異が向かうことはない。それは保証しよう。早くいくんだ。」


「その言葉、信じるぞ。」


雛菊は黒点坊に言われた通り、塵鬼を背負い、雪菜と共に森の奥へと走っていった。


「おやおや、土蜘蛛一匹で何ができるんだ?私も舐められたものだね。いままでたくさんの怪異とやりあってきたけど、土蜘蛛の怪異が強いと感じたことはないね。君の同族だったかは定かではないけど、土蜘蛛は何体も殺してきたよ。」


鬼の怪異は黒点坊へ向かって言った。


「そうだね、鬼からしたら土蜘蛛はそれほど脅威にはならないだろうね。だがここを通すわけにはいかない。約束したからね。」


そう言うと、鬼の怪異に向かい、糸を放った。

鬼の怪異はそれを難なく回避し、黒点坊へと迫った。

手に持った出刃包丁を黒点坊へ振り下ろす。

黒点坊は糸を何重にも絡め、それを防ぐ。


弾力のある糸の盾に弾かれ、鬼の怪異が大勢を崩した。

その一瞬を見逃さず、黒点坊は糸を槍のように鋭く束ね、鬼の怪異の腹めがけて突き立てた。

しかし鬼の怪異の身体は固く、先が少し刺さる程度にとどまった。


「硬いね、槍糸まで防がれてしまうとは。」


「その糸、かなりの強度だね。私の腹に傷をつけるだけじゃなく、微々たるものだが刺さってきた。これは驚くべきことだよ。私が生きてきた中でいろいろな怪異と戦ってきたが、この体に傷をつけられたのは数百年ぶりだ。楽しいね、ただ殺すだけだと思っていたけど、ここまで楽しめたのは久々だ。」


鬼の怪異はニヤリとしていった


「僕にとってはあまり喜ばしいことではないけどね。楽しんでいる暇はないんでね、どんどん攻撃させてもらうよ。」


黒点坊はそう言うと、糸を上空に数本飛ばした。

その糸を伝い、木の上へと登って行った。

生い茂る木々の中を縦横無尽に駆け、鬼の怪異をかく乱した。


「なるほど、探知が苦手なところをついているつもりだろう。だが無駄だよ、木をなぎ倒して引きずりおろしてあげよう。」


鬼の怪異はそう言うと、出刃包丁を木に向かって突き立てた。

木は大きな音を立てて倒れた。

さらに近くの木々を片っ端からなぎ倒していく。

黒点坊は木から木へと移り、何とか躱していた。


「いつまで逃げているつもりだい?そんなんじゃ私を倒すことはできないよ。それともこのまま仲間の元まで逃げ切るつもりかな?そんなことをしても仲間もろとも殺すけどね!」


鬼の怪異は攻撃を苛烈にしていった。

周囲の木々がなぎ倒され、空から明かりが漏れていた。

黒点坊は留まる木を失い、地上へと降り立った。


「やっと降りてきたね。このあたりの木は根こそぎ倒したから逃げる場所はないよ。さて、そろそろ逃げたやつらも追いかけなきゃいけないし、死んでくれるかい?」


鬼の怪異は出刃包丁を握りなおし、黒点坊をへと刃先を向けて言った。


「やれやれ、やっと準備が整った。ただ闇雲に逃げ回っていたわけではないよ。君が逃げ出さないように糸で結界を張っていた。ここから先、何が起こったか知られるのはあまりよくなくてね、万が一取り逃がしたら情報が洩れてしまう。悪いけどここで死んでもらうからよろしくね、鬼の怪異、刀鬼(とうき)。君を邪として処理させてもらう。」


「おや?私のことを知っていたんだね。さては追跡者か。参ったね、こんなとこで見つかってしまうとは。空亡の話に乗ったのは間違いだったか?まぁいいさ、私が勝てば問題ないからね。それに私が逃げ出すとでもおもっているのかい?舐められたものだね。」


刀鬼と呼ばれた怪異は、怪異殺しを行い、邪として追われていた。

黒点坊の仕事である邪の追跡対象に刀鬼も該当していた。


刀鬼は持っていた出刃包丁を構え、黒点坊に襲い掛か駆ろうと振り上げた。

しかし、刀鬼は出刃包丁を振り上げた状態からピクリとも動かなくなった。


「なん・・・だこれは、体が動かない。何をした?」


「言ったろう?君が逃げ出さないようにしたんだ。木々を飛びながら、周りに見えない糸を張り巡らせた。探知能力に長けているものなら見えるかもしれないが、君の弱点が仇になったね。高硬度の糸が君の周りに無数に連なっている。少し動いただけでもその糸に絡められてしまうのさ。」


黒点坊は距離を置きながら、刀鬼を囲むように糸を張り巡らせていた。

硬度の高い糸であるが故、刀鬼の力をもってしても振りほどくことは難しく、簡単にからめとられてしまう。


「動きを封じたところで、君に私を貫く力はないだろう?なんの意味があるんだい?まさかこのままにしておいて援軍でも呼ぶつもりか?」


刀鬼は黒点坊を煽るように言った。

黒点坊はニヤリを笑みを浮かべて返した。


「残念ながら、君の考えは外れているよ。言ったろう?君が逃げ出して情報が洩れることを避けたいんだ。わからないかい?僕は追跡者ではない、執行者だ。

邪として罪を償うことを拒否し、逃げ出したモノを処理している、天神からの命を受けてね。意味が分かるかな?君を処理しているところを誰かに見られることも、僕が執行者だという事も、公にするわけにはいかないという事だ。だからここに糸の結界を張った。この糸は外部から内部が見えない様視覚遮断の呪いが施されている。塵鬼たちと共に君を倒すことが最も最善の策だったんだが、あの子達には難しいことが分かったからね、すこし離れてもらうことにしたんだ。」


「執行者、聞いたことないね。だがそれがどうしたって言うんだい?土蜘蛛ごときじゃ私を殺すことはできないだろう?いくら捕らえたところで・・・待てよ?土蜘蛛にこんな高度な呪いが使えるのか?私が戦ってきた怪異の中にこんなもの扱っているモノは居なかった・・・君・・・本当に土蜘蛛か?」


刀鬼は黒点坊を睨みつけて言った。


「土蜘蛛の怪異でも糸を操ることはできる。だがあくまで糸を操る力を持っているにすぎない。それでも並みの怪異よりは強いと思っているが、糸に対して呪いを施すという芸当はできないだろうね。僕は土蜘蛛でなければいけないんだ、自分の正体を知られるわけにはいかないからね。

君の思う通り、僕は土蜘蛛ではない、改めて自己紹介をしようか。

僕は大蜘蛛(おおぐも)の黒点坊。蜘蛛の怪異の中でもひときわ力を持ったモノに与えられる名だ。覚えてくれなくていいよ、君はもうすぐ死んでしまうからね。」


大蜘蛛と名乗った黒点坊は、その体を二倍以上に変化させた。

その名の通り大きな蜘蛛となった黒点坊は、刀鬼を糸で捕縛し、そのまま捕食してしまった。

刀鬼はなすすべなくそのまま取り込まれ、持っていた出刃包丁のみが地面へと転がり落ちた。


「これで仕事は終わりだね。さてと、あの子達と合流しなければ。それに空亡を早く探し出さないとね。君が一体何を考えているのか、しっかり聞かせてもらうとしよう。」


黒点坊は落ちた出刃包丁をへし折り、その場を後にした。

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