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百鬼夜行(1)

雛菊、雪菜、塵鬼の三体は、渡し屋の刹那と天神の依頼の元、空亡へと接触するべく動いていた。

空亡は百鬼夜行を取り仕切る怪異であり、百鬼夜行は百年に一度決められた日に実施することが掟となっている。

掟を破ることは大罪であるが、空亡がこれを破った恐れがあるとして、天神が渡し屋へと調査を依頼したのだった。

その依頼を刹那から雛菊が受け、空亡の所在を突き止めているところだ。

しかし、空亡は百鬼夜行が実施される時を除き、どこに潜んでいるかわからない怪異の中でも異質な存在だった。

三体は、空亡が百鬼夜行を行うことを見据えて、姿を現した空亡を捕らえる作戦を立てていた。


「先日行われた百鬼夜行は空亡自ら怪異を集めて行っていたようだな。通常の百鬼夜行は実施される時に集まった怪異から百体を選別して連れて行くものだ。空亡自らが募るというのはおかしい。やはり何か企んでいるな。」


雛菊が雪菜と塵鬼に言った。


「僕は空亡ってやつに会ったことないんだけど、どんな怪異なの?」


塵鬼が雛菊に問いかける。


「空亡は百鬼夜行を取り仕切る怪異でな、黒い太陽のような怪異だ。だがそれは本体ではなく、あくまで百鬼夜行を行う上での道しるべとなるようにそういった分体を作っているんだ。

私は空亡に因縁があってな、昔、親しくしていた怪異と共に空亡の本体と相まみえたことがある。それは空亡にとっては都合の悪いことだったようでな、その怪異は私を逃がすために空亡に殺され、私も刹那の助けがなければ死んでいたかもしれない。だから今回私は何としても空亡を見つけ出さなければならない。」


雛菊は恨みのこもった眼差しでまっすぐ前を見て答えた。

雛菊は過去に空亡と相まみえ、命の危機にさらされた。

大事な友を失い、失意に落ちていたところを刹那によって助け出されていた。

空亡は自身の本体を隠すことで幽世での身の安全を確保していた。

空亡の世を渡る力を狙って、様々な怪異がその力を利用しようとしていたからだ。

だからこそ、本来の姿を見た怪異をことごとく消し去っていた。

それゆえに、空亡の所在はほとんどの怪異が知らなかった。

百鬼夜行を行う際は、自身の分身である黒い太陽を発現させ、怪異達を現世へ導いていた。

そして、夜明けとともに怪異を幽世へと渡し、百鬼夜行を終わらせる。

空亡の力は並みの怪異とは一線を画すほど強力であるが、その慎重さ故に本当の力を推し量ることが難しい。天神でさえ全貌を把握しきれていないのだった。

三体は、百鬼夜行を行う際に必ず怪異達が集まる場所として定められている百鬼の森を目指して進んでいた。


百鬼の森は大きな木々に覆われており、日の光が差し込むことがない暗闇となっている。

黒い太陽がその森を照らし出し、百鬼夜行の開始を告げるのだ。


森の入り口に差し掛かろうとした時、三体に近づく気配があった。


「管理人さん、何か近づいてきてるよ。気をつけたほうがいい。」


塵鬼が辺りを警戒する。それを見て雛菊と雪菜も周囲を見渡す。

三体の目の前に一人の人間が現れた。


「おや?怪異がこんなところに、百鬼夜行はまだまだ先のはずでは?道にでも迷ったかな?」


顔立ちの整った青年で、紺色の和服を身にまとい、片目は傷付き開くことが困難な様子だった。


「そちらこそ、人間がこの森に居るとは思わなかったぞ。ここで暮らしているのか?」


雛菊はその人間に言った。

本来百鬼の森は怪異が最寄り着かない場所だ。

訪れる怪異が人間に害をなす怪異ばかりではないが、安全とは言えない。

幽世に長く留まっているところから察するに、何かしらの要因があってこちらに来た人間で、迷い人ではないことがわかる。


「僕がここに住んで五百年ほど経っているかな。幽世は時の流れがないから分かりにくいがだいたいそんなものだね。君たちは太陽に会いに来たのかい?」


この男の言う太陽とは、空亡のことを指していた。

百鬼夜行の出発地は必ずこの森になり、帰世もまたこの森へと至る。

百鬼夜行を目的としてこの森を訪れる怪異が多いため、そう質問したようだった。


「そうだ、私たちはお前の言う太陽、空亡という怪異を探してここに来た。何か心当たりはあるか?」


雛菊が男に問いかける。


「うーん、僕も太陽が居る時は外に出ないようにしているからね、あまり役に立つ情報はないな。太陽が居るといろいろな怪異がやってくるからね、面倒事は避けたいんだ。ごめんね。」


男が雛菊に返した。


「そうか、ありがとう。ところでお前はなぜここで暮らしているんだ?なにかしらあってやって来た人間だろう?目的があってのことだと思うが。」


雛菊が男に再び問いかけた。


「僕はただ死にたくなかっただけだよ。死にたくなくてここに来たんだ。死の淵にあった僕を救ってくれた怪異が居てね、幽世へ行けば生き延びることができるからと、ここへ連れてこられたんだ。その後僕はこの森に置いてけぼりになってね、死ぬことはなかったけど帰ることもできないからここで暮らしているんだ。」


死の淵にあった男を、幽世へ連れてきて生き永らえさせた怪異が居る。

本来怪異が縁の無い人間に干渉することはない。

それをする意味もなければ、基本は干渉をしないと決まっているからだ。

だがその怪異はこの男を生かすために幽世へと連れてきていた。奇妙なことだった。


「その怪異はお前を置いてどこかへ消えたと、ますますわからないな。そんなことをする意味がない。まぁ、気まぐれな怪異が居たという事だな。時間をとってすまなかったな。最近ここで太陽が頻繁に現れていると思うから気をつけろよ。」


雛菊がそう言うと、男が口を開いた。


「そうなのかい?最近は太陽を見ていないが。最後に見たのはどのくらい前だったかなぁ・・・数十年は前だと思ったけど。」


その男が放った言葉に雛菊は驚愕していた。

少なくともここ最近で二回、百鬼夜行が行われているはずだった。百鬼夜行の始まりは必ずこの森に開かれた扉から現世へと赴いてく。

直近で百鬼夜行が行われた可能性があると天神が言っていたが間違いだったのだろうか?そう雛菊は考えていた。


「おかしい、空亡が百鬼夜行を行う際は必ずこの森からの出発となるはずだ、ここ以外から現世に行くには渡し屋を使うか天童の扉を使うかしかない。幽世へ引き込む力を持っているモノは他にもいるが、あくまで幽世へ引きこむことが前提だ。空亡は一体どうやって幽世から現世へ怪異達を渡したんだ。」


雛菊はここで何かに気づいた。


「まさか本体か・・・分体である太陽ではなく、本体で百鬼夜行を行っていたわけだな。あくまで百鬼夜行を取り仕切っているのは太陽である分体の方であり、掟に縛られているのも太陽という事か。なんで気づかなかった。」


空亡は分体である太陽を百鬼夜行の軸としていた。

絶対的な掟を破ることをいとわなかったのは、本体である空亡と分体である太陽は別の怪異として成り立っているからだった。

分体が罪を犯したところで本体である空亡にはなんの影響もない。

それを利用すればある程度のリスクを回避することができたのだ。


「本体がここに居たことは間違いない。本体であろうが分体であろうが、百鬼夜行はここでしか行えないはずだ。この森をくまなく探そう。」


雛菊は、塵鬼と雪菜に言った。


「森の中に入るなら気を付けた方がいいよ、いままで強い怪異はあまり見かけなかったが、最近は危ない奴らが頻繁に出入りしている。この森に住んで長いけど、こんなことは初めてだ。みんな殺気立っているようだったからね。それじゃ僕はこれで。」


人間はそう言うと、三体に手を振って森の中へと入っていった。

三体も顔を見合わせ、作戦を立てながら森の中へと入っていった。


「ど、どうしましょう。私たちのなかでまともに戦えるのは塵鬼君だけ。私と雛菊ちゃんじゃすぐやられてしまうかも・・・」


雪菜は不安そうに雛菊に言った。


「そうだな、私と雪菜じゃ塵鬼の足手まといになりかねない。いったん天神に判断を仰ぐか。」


雛菊が来た道を戻ろうと提案した。

しかし、すでに一体の怪異が三体の眼前に現れていた。


「なんだよ、雑魚ばっかじゃねぇか。こんなやつ取り込んだって力の足しにもならねぇ。」


三体の前に姿を現したのは、巨大な鼠の怪異だった。

薄汚れた灰色の体毛からは腐臭を放ち、大きな前歯を見せながら近づいてきていた。

鼻をひくひくさせ、三体を値踏みするように見ている。


「餓鬼は食い甲斐がありそうじゃないか。」


そう言うと鼠の怪異は塵鬼に向かって突進した。

塵鬼は鼠の怪異を片手で受け止めると、そのまま鼻を握りつぶした。

握りつぶされた鼻から血を流し、鼠の怪異が後退していった。


「痛てぇ!!なにすんだ餓鬼!俺様の鼻を!!!」


鼠の怪異は喚き散らかしながら後ずさりをしていく。


「なにって、お前が襲い掛かってきたんじゃないか、だからやりかえしただけだよ。」


塵鬼はベロベロバーと舌を出しながら言った。

鼠の怪異はそれを見て激昂して言った。


「ふざけやがって・・・骨一本残さず食ってやるよ!」


鼠の怪異はそう言うと、大きな声で鳴き出した。

森の木々がざわめきはじめ、奥からぞろぞろと小さな鼠が現れた。

数にして百匹程度は居るであろう鼠たちが、目を赤く光らせて三体を睨みつけた。


「舐めた真似したことを後悔させてやるよ。お前ら!こいつら残らず食っちまえ!!」


鼠の怪異の号令の元、小さな鼠達が一斉に三体に襲い掛かろうとしていた。


「管理人さん、雪女の姉ちゃんと結界の中に入ってて。」


そう言うと、塵鬼は二体の前を陣取った。

雛菊は、持っていた札を地面に置き、呪いを唱えた。

二体の身体を包み込むように淡い光が立ち込め、六角形の光の壁が出来上がった。

それを見て塵鬼が前へ出る。


「これで管理人さん達を巻き込まずに済むね。さてと、害獣は駆除しろって言われてるもんね。」


塵鬼の右腕が大きく燃え盛った。右腕を大きく振り上げると、そのまま地面へと叩きつけた。

衝撃と共に、周囲に炎柱が散る。

無数の鼠たちは炎に包まれ、すべて消し炭になった。一瞬のことで何が何だかわかっていない様子の鼠の怪異に塵鬼が言った。


「なんだ、ちっこい奴らは怪異じゃないのか。お前を燃えカスにして取り込むこともできるけどどうする?」


塵鬼が鋭い眼光を鼠の怪異に向けた。


「そんなことでビビるとおもってんのか?ぶっ殺してやるよ!」


鼠の怪異が大きく息を吸い込むと、背中から無数の針が飛び出した。

鋭い針が塵鬼に向かって飛んでいく。

塵鬼はそれをすべて回避し、手のひらに火を起こした。


「ただの鼠かと思ったら、針鼠だったんだ。面白いね!」


そう言うと、手のひらから鼠の怪異を凌ぐ大きさの火の玉を作り、それを鼠の怪異に向かって放つ。

鼠の怪異は瞬く間に炎に包まれ、悲鳴を上げながら燃え尽きた。

後には黒く消し炭となった死体が残り、その灰をすくい上げ、塵鬼が取り込んだ。


「なんだ、そんなに強くなかったね、大きいから期待してたけど。管理人さん、もう大丈夫だよ。」


雛菊と雪菜に向かって塵鬼が言った。


「相変わらずの火力だな、これで力のほんとどを封じられているというのだから恐ろしい。助かったぞ塵鬼。」


雛菊は塵鬼の頭をなでながら言った。

三体は鼠の怪異を退けた後、一度天神のところへ戻ることを考えていた。

空亡の本体が絡んでいるとなると、想定していた以上の危険が伴う可能性が高い。

雛菊はそう判断し、二体に提案した。


「私もそれがいいとおもう。このまま進むのは危険だし、もう少し力のある怪異を頼った方が危なくないと思う。」


雪菜はすこし震えながら言った。


「そうだね、僕もそれがいいと思う。管理人さんと雪女のお姉ちゃん二人を守りながら戦うのは難しいかも。それに空亡ってやつは危ないんでしょ?僕は大丈夫かもしれないけど、お姉ちゃんたちが心配だな。」


塵鬼も雛菊の提案に賛成した。

三体は一度天神の元へと戻ることにし、森を後にしようと入り口へと進んで行った。

しかし、いくら進んでも入り口にたどり着くことができなかった。


「おかしい、もうとっくに入り口まで戻ってきてもいいはずだ。」


雛菊は首をかしげながら言った。

森の入り口までの道のりが封じられているらしく、森から出ることができなくなっていた。


「雛菊ちゃん、これ、呪いが施されてる。中には入れるけど、何か条件を達成しないと外に出られないようになってるみたい。」


雪菜が雛菊に言った。

雪菜は呪いの探知に優れており、目に見えない結界や罠を見分けることに長けている。

雪女の怪異が等しくそうではなく、雪菜固有の力だった。


「どういうこと?出られなくなっちゃった?」


塵鬼が驚いた様子で言った。


「どうやらそうらしい、条件とはいったいなんだ。この森に閉じ込めておく理由・・・先ほどの人間は森の外から戻ってきているようだった。この呪いは怪異にしか効果がないらしい。

百鬼夜行に参加する怪異を逃がさないためのものかもしれんな。空亡が自ら集めた怪異がどういった奴らだったかわからないが、少なくとも縁を目的として百鬼夜行に参加している怪異ではないことは確かだ。癖のあるやつらだったとしたら、空亡に従わない奴も居ただろう。そういったものを閉じ込め、脱出条件を達成させる目的で百鬼夜行に参加させていたとしても不思議ではないな。だとしたら厄介だ、私たちは意図せず百鬼夜行に巻き込まれた可能性がある。だが悠長にそんなものを待つ時間も義理もない。とにかく空亡を探そう。」


雛菊たちは、森から脱出すべく空亡をさがすことにした。

百鬼夜行が行われる際に、現世への入り口となる場所は、森の中央に位置しておりひとまずそこを目指すことになった。


「さっきの鼠の怪異も、ここに迷い込んだか空亡が連れてきたモノだろう。どういった方法で怪異達を集めているのかわからないが、やつのように平気でほかの怪異に襲い掛かるような連中が潜んでいる可能性が高い。気を付けて進もう。」


雛菊が雪菜と塵鬼に言った。


「私の力で周りの怪異を探知するね。でもあまり長時間はもたないから適度に休憩をさせてもらえたら助かるかも・・・」


雪菜が雛菊に言った。

雪菜は呪いの探知能力のほかに、雪の結晶を周囲に放出することにより、周囲にいる怪異などの気配を察知することができる。

その範囲は半径数百メートルにまでおよび、怪異の接近をいち早く察知することができる。


「雪女のお姉ちゃん、何か見つけたら僕に教えて。」


塵鬼も周囲を警戒しつつ、いつでも対応できるように身構えていた。


「私の力で雪菜に守りの呪いを施しておく、すまないが私の力では一体を守ることが限界だ。塵鬼には申し訳ないが自分の身を最優先にしてくれ。」


塵鬼は大きく頷いた。

三体は森の中心を目指して進んで行った。











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