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神の子(2)

一休みした僕たちは、穢れ沼に向かうため小屋を後にした。

穢れ沼へ向かうには、本来たたりもっけの案内を得て正しい道を進む必要があるらしい。

行き方について士郎さんが説明してくれた。


「本来、たたりもっけの案内通り、正しい道を進まなければ穢れ沼にたどり着くことはできない。少しでも道を間違えれば、森から出ることができなくなってしまう。これは僕が別天神から聞かされていたから間違いないと思う。」


「でも、抜け道がある。だろう?」


横から刹那さんが言う。


「その通り。森を抜ける方法は二つ、一つ目はさっき話した、たたりもっけに案内をうけて進む方法。それからもう一つは、迷いの呪いによって森を変えている怪異を捕らえる事。その怪異を捕らえてしまえば、森は本来の姿へと戻り、穢れ沼まで行くことができる。今回はその怪異を捕らえるという方法で穢れ沼に至ろうとおもう。森は広大だけど、これだけの数が居れば大丈夫だろうと思っている。」


そう言うと、士郎さんは一つの絵を見せてくれた。

そこにはその怪異と思わしきものが描かれていた。


子供くらいの背丈に、赤い体毛をした猿のような風貌だった。


魔神仔(もしな)という怪異で、森に来たものを迷わせている。この怪異を捕まえて迷いの呪いを解かせる。ここから二手に分かれよう、魔神仔は木の上に居ることが多い、赤い葉に紛れているからよく見ないと分からないけど、呪いをかけるためにその場から動くことはないから、見つけられさえすれば捕らえるのは簡単だと思う。」


士郎さんが作戦の説明をしてくれた。

迷いの呪いは、森の出口以外を複数の空間に分断し、ルービックキューブのようにランダムに位置が入れ替わるというものらしい。位置の入れ替えが起きるタイミングは魔神仔の気まぐれらしく、出口からも隔絶されていることから、迷いの呪いがかかった森を抜け出すには魔神仔を捕まえる以外に脱出する方法はないという事だった。


僕と夜刀神、士郎さんと天樂さんのチームと、刹那さんと黒縄さんのチームの二手に分かれる。

各チーム別々の方向へと進み、確認した木に傷をつけていく。

傷がつけられた木がある場所は確認が済んでいるため、その場を後にして次の空間を確認する。

空間の切れ目などはわからないらしいので、数でどうにかしようという事のようだ。


作戦会議を済ませ、僕たちは刹那さんたちとは反対の方向へと進んで行った。


進みながら士郎さんが天樂さんへ言った。


「まさか天樂君が亜咲さんの弟子だとはね。亜咲さんとは何度かあったことがあるけど、あれだけの力を持った怪異はそうそういないね。そんな怪異の弟子という事は天樂君も相当な力があるんだろう?」


そう言われた天樂さんは照れ笑いを浮かべていた。

どうやら相当嬉しかったらしく、上機嫌で言葉を返した。


「師匠はすごいお方だ、そんな方に弟子入りできた俺は幸せ者だよ。天狗の中でも特に力のある方でな、天狗の長を除いてはあの方が一番強いだろうな。いつか俺も師匠のように山一つを任されるようになりたいものだな。」


「そういえば、他に天狗の怪異ってどれくらいいるんですか?」


僕が天樂さんに問いかける。


「天狗は怪異の中でも特に多くてな、すべて把握できているわけじゃないが数十体は存在すると思うぞ。皆各地で山を守る仕事をしている。ほとんどが自分の守護する山に居るからな、普段は顔を合わせることはない。俺も師匠以外の天狗は、天狗の長しか見たことがないな。」


どうやら天狗は各地に居るようで、幽世の山々を守っているようだ。

いずれ天樂さんもどこかの山を守ることになるのだろうかと考えていた。


「天狗の怪異を初めて見たときは驚いたな、確かそれが天狗の長だと別天神に聞かされたっけ。下手なことをしたら殺されるからおとなしくしてろと釘を刺されたものだ。」


士郎さんが笑いながら話していた。

天狗の長・・・相当恐ろしいモノのようだ。

いつか僕も合うことがあるだろうか。


僕たちは他愛もない話をしながら、確認した木々に傷をつけていった。

途中既に傷のついた木があり、刹那さんたちが確認済みだという事が分かった。


すこし歩き、ふと気になることがあり士郎さんに聞いた。


「そういえば、結構歩いてますけど不浄を見ませんね。」


「そうだね、今日は数がすくないのかな。普段ならそこかしこに居るんだけど、珍しいこともあるものだね。まぁ居ないに越したことはないよ。」


士郎さんが笑いながら言った。

僕たちは魔神仔を探すべく、赤い木々の上をくまなく見て周った。




ー刹那と黒縄ー


「ひとついいかい?」


刹那が黒縄へと問いかける。

黒縄は頷き、刹那へと視線を向ける。


「少し気になったことがあってね、あの士郎という青年、何かおかしいとおもわないかい?ここは不浄がはびこる忌地(いみち)だ、怪異だってめったなことがなければ近寄らない。ましてや森の中に住み続けるなど正気とは思えない。それに別天神がこのような場所に人間を置いていくなど考え難い。なにか裏があると思うんだが、どうかな?」


刹那の問いかけに黒縄が答える。


「そうだな、我もあの青年が言っていることに偽りが混じっていると思っている。人柱を得た怪異がそれを放っておくとは思えん、それにあの青年からは穢れが全く感じられなかった。この森に長く留まっているのであれば、不浄にならずとも多少の穢れはあるだろう。それがないというのはどうもおかしい。別天神の呪いという可能性もあるがな。」


黒縄と刹那は士郎という少年を危険視していた。

二体は木に傷をつけながら進んで行く。

どれくらい進んだか、ふと刹那が言った。


「不浄が出てこない、ここまで出会わないものだろうか。黒縄はここへは何度か来ているかい?」


「いや、正規な形で森を抜けたことしかないな。そもそも正規な道とこの森は全く別のものと言っていいだろう。入り口は同じだが異なる場所となっているようだ。天童も正規な道を不浄のために開けるとは思えないからな、こちらに集まってきているはずだが、こまで見ないとなると、何かありそうだな。」


黒縄が静かに言った。


「不浄が居なくなっているか、あるいは大きな力によって出てくることができないのか、どちらにしても正常ではないという事かな。これは厄介なことになった。真君のところには天樂が居るから大丈夫だとは思うが、士郎という青年は警戒しておいた方がよさそうだね。」


刹那の言葉に黒縄も同意した。

しばらく進むと、腐臭が強くなってきた。

不浄が集まっているらしく、付近に不浄が見られなかったのはこのためだった。

不浄達はみるみると重なり、大きな一つの個として完成した。


餓舎髑髏(がしゃどくろ)か、厄介だね。」


刹那が眼前の怪異を見て言った。


「餓舎髑髏の出現は、凶兆と聞く。やはりこの森で何かあったか。渡し屋殿、悪いがなんとかして人間の少年達と合流してくれ。ここは我が何とかしよう。人間の少年に危険が迫っているぞ。」


そう言うと、黒縄は餓舎髑髏と向かい合った。

刹那は、真達と合流すべく駆けだした。



ー真と夜刀神天樂と士郎ー


地面が大きく揺れ、僕たちはバランスを崩して倒れこんだ。


「なんだこれは!ずいぶんとでかいな。真、士郎、大丈夫か?」


天樂さんが僕たちの安否を確認する。

僕と士郎さんは大丈夫だと伝える。

しばらくすると揺れは収まり、森は静寂を取り戻した。


「あんな大きな揺れは初めてだな、何かあったんだろうか。」


士郎さんは驚いた様子で言った。

どうやらただ事ではないようだ。

少しして、僕たちは魔神仔を探すために歩き出した。

しばらく進んでいると、腐臭が強くなっていることに気が付いた。

鼻につく匂いはどんどん強くなり、吐き気と頭痛がひどくなっていった。


先へ進むと、真っ赤な色をした池があり、腐臭の原因がここだという事が分かった。

池の中央が浮島のようになっており、一本の大木が生えていた。

浮島までは少し距離があったが、その木の上に赤いモノが居ることが分かった。


「居たね、あれが魔神仔だ。なるほど一筋縄ではいかないか。」


小さな声で士郎さんが言った。

僕たちは気取られぬように身を引くし、様子をうかがった。

士郎さんの言った通り、その場からは動く気配がなかった。


「池の中に入れば全く間に不浄と化してしまう。幸いなことにこちらには天樂君が居る。飛んで魔神仔を捕らえよう。天樂君、頼める?」


士郎さんがそう言うと、天樂さんは頷き、羽根を広げた。

空中へと舞い上がり、浮島へと向かって飛んで行った。

もう少しで浮島に到達しようという時だった、池から巨大な手が出現し、天樂さんを掴もうとしていた。

それを何とか回避した天樂さんは身を翻した。


「なんだこいつ!」


天樂さんが距離を取りながら言った。

その巨大な手は浮島を守るようにしており、近づけばすぐにでも捕らえられてしまうと思われるほど機敏な動きを見せていた。

一旦天樂さんはこちらに戻ってきて作戦を練り直すことにした。


「どうしたものかな、あの手が浮島を守っている以上空から近づくのは危険だ、かといって池を渡るのも難しいだろうし・・・」


士郎さんは首をかしげながら考えていた。

ふいに先ほどまで眠っていた夜刀神が目を覚まし、話し始めた。


「あれは手だけの怪異だな。どうやってこちらの位置を把握しているのかわかるか?」


夜刀神の問いに誰も答えることができなかった。

夜刀神はやれやれといった表情をしながら首を横に振った。


「あれは明確に天樂を狙ていただろう?それは天樂を魔神仔が見ていたからだ。意味が分かるか?あれは魔神仔が操っているとみて間違いないだろう。ではどうするか?魔神仔の気をそらすだけのことだ。天樂、浮島に近づけるだけ近づき、我を放り投げろ。どちらかしかあの手は対応はできないだろうから、残った方が魔神仔を捕らえる、いいな?」


天樂さんはわかったと言い、夜刀神を肩に乗せて飛んで行った。

しばらくすると天樂さんに気づいたのか、巨大な手が浮島を守るように近づいてきた。

それを寸前で避け、浮島めがけて夜刀神を放り投げた。


しかしそれを魔神仔は見逃さず、夜刀神の方へと手を向けた。

夜刀神はその手に捕まってしまった。

思った以上に素早い動きだったため、天樂さんも対応できず、距離をとることしかできなかった。

作戦失敗かと思われたが、その手が握るこぶしが徐々に膨らみを帯び、ついには開かれた。中からは元の大きさになった夜刀神が出てきて浮島へと降り立った。

夜刀神は木に巻き付いたかと思うと、そのまま締め上げていく。


しかし巨大な手はそれを許すことはなく、夜刀神を木から離そうと掴みかかった。

瞬間、夜刀神が大きな声で言った。


「天樂!今のうちに魔神仔を捕らえろ!」


天樂さんはハッとした様子で浮島へと全速力で飛んでいき、木の上に居る魔神仔へと迫った。

強大な手は夜刀神を掴んでおり、どうすることもできないでいた。

そのすきを逃さず、天樂さんが魔神仔を捕らえた。

捕らえられた魔神仔は抵抗することなくぐったりとしていた。


捕らえられたことにより観念したのか、強大な手もそのまま動かなくなり、夜刀神は解放された。

しばらくすると、強大な手は池の中へと戻っていった。


いつの間にか元のサイズに戻った夜刀神と魔神仔を天樂さんが連れてきた。


「お疲れ様。一時はどうなるかと思ったけど、捕らえることができてよかった。」


安堵の表情を浮かべて士郎さんが言った。


「夜刀神のおかげだ、感謝する!さて、これからどうするんだ?」


天樂さんは小さくなった夜刀神を僕の肩に乗せながら言った。


「魔神仔、迷いの呪いを解いてくれ。」


士郎さんが魔神仔に言った。

魔神仔は観念した様子で何かを唱えると、地面が揺れ始めた。

揺れが収まると、魔神仔はどこかへと姿を消してしまった。


一旦刹那さんたちと合流しようという事になり、僕たちは来た道を戻った。


しばらく歩いていると、小屋の方まで戻ってきた。


「おや?おかしいな、刹那さん達と合わなかったね。来た道を戻ってきたはずだから途中で会わなかったという事は先に進んでしまっているのかもしれないね。魔神仔の呪いは解いたから、あとは穢れ沼に向けて進んで行くだけ。待ってもいいけど、どうする?」


士郎さんが僕と天樂さんに問いかけた。


「俺たちも進んだ方がよさそうだな。もしかしたら途中引き返してきて合流できるかもしれない。」


天樂さんの言葉に二人して頷き、穢れ沼まで向かうことになった。




この時、僕たちは取り返しのつかないことをしてしまったことに気づいていなかった。

物事には意味があり、それを捻じ曲げるとどこかに歪が生じる。


生じた歪がまた別の歪を生む。

そのことを思い知らされるのであった。






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