第8話 貴女とはじめての①
初めてのデート会
アレックス視点
捕らわれのお姫様を助ける為、アレックスは例の先生の屋敷にやって来た。忍び込む場所を探すべく屋敷を見上げると、ベランダから透明な何かに乗って空へ飛び立つ少女の姿があった。
──あれ何だ?ドラゴン…ん?あいつか?デカくなるんだな…つーか自力で出られたんだな。まあ、だよな。えーと…あのお姫様はどこに行くんだ?
アレックスは空の彼方へ消えた透明なドラゴンを、あっけにとられながら見送る形になった。アレックスは気合い入れて侵入するはずの予定が狂った。
そもそも、あの子は自力であの鉄格子から出られる。そうしない理由があるとアレックスは思っていた。そんなことはさて置き、今日の目的はあくまでお姫様を連れて帰ること。アレックスは迷う事なく例のドラゴンを追いかける。あのお姫様の性格と行きそうな場所を予測して転移魔法で移動した。
──方角的には市街地だな。その中であのお姫様の行きそうな場所…知ってそうなものは……
*
アレックスは教会には来るだろうと読んでいた。昔からある建物で、尚且つ外観的にも判りやすいからだ。
アレックスが街中の古い教会に入ると、探し続けていたあの少女がいた。
──やっと見つけた…やっと会えた…
アレックスは再会の喜びと、少女の祈る姿の美しさに見惚れて動けずにいた。
アレックスが余韻に浸っていると、急に彼女がよろけた。
「危ない!」
アレックスの体が咄嗟に動き、少女を抱きしめた。その後ろで透明な小さいドラゴンが満足そうに笑っている。
──お前がやったのか?危ないだろうが、転んで怪我したらどうすんだ!
アレックスは伝わるか分からないが軽くドラゴンを睨んだ。そして、腕の中にすっぽり収まる小さなお姫様に目を向けた。
──こんなに小さいんだな……俺がデカくなったってのもあるか
やっと抱きしめることの出来た小さなお姫様。アレックスは、前世の記憶より背が伸びた少女の温もりや息遣いに生きていることを実感し、感動を噛み締めていた。腕の中の少女を覗き込むとが固まっていたため、名残惜しいが少女を解放した。
──今の俺は完全に赤の他人だよな…
現世の自分は少女と初対面だ。いきなり年ごろの女の子が見知らぬ男に捕まったようなものだ。混乱を招くものは仕方ない。
「だ、大丈夫か?怪我はないか?」
アレックスは怯えさせないように不自然にならないようにしたが、緊張から結局噛んでしまった。
──さあ、これからどう声かけようか?なんて言えばいいんだ?あの場所には帰したくない!連れて帰りたい!でも、せっかくだから街中でデート?
!
デート!
デートしたい!!
初対面の女の子を自分の家に連れて帰りたい。怪しい男に捕らわれているとはいえ、字面だけ見ればナンパかもしれない。アレックスの頭の中も、助けたいからデートしたいになった段階でナンパ行為になっていた。
「今日何も予定が無ければ俺とデートに付き合ってくれないか?」
アレックスは、いきなり知らない男に言われたら困るよな、と思いながらも手を差し出した。
──てか今、俺ナンパしてるよな…怪しい男じゃないか?
アレックスはようやく自分の状況に気づいた。少女に手を伸ばしたはいいが気恥ずかしさから顔が赤らむ。
──でも俺の手を取って欲しい……
目の前にいるのはずっと求めていた少女である。触れたくて、声が聴きたくて、笑顔が見たいと想い続けていた少女である。
どれ位お互い逡巡していただろうか、ついに少女の手がおずおずとアレックスの手に触れる。
少女がアレックスの手を取った。それだけでアレックスの心が踊り出す。体温が上がる。世界が輝いて見える。
「ありがとう。さぁ行こうか」
──こんな簡単に男について行ったらダメだよ。後で教えておこう。危ないからな。
可愛いな、ホントに…なんでこんなに可愛いんだ!
アレックスは少女に言いたいことが沢山ある。でも今は、何も言わず、握った凍てついた小さな手をずっと温めてあげたい。
──お願いだから、このまま側にいて
こうして片や喜びに打ち震えながら、片や何も判っていない二人の初めてのデートか始まった。
*
アレックスは少女の指を絡めて手を繋ぎエスコートする。嫌がってないか不快感はないか、アレックスは少女の反応が気になって仕方ない。
教会から出た少女は、目を丸くしてなかなか最初の一歩が出なかった。口を半開きにして周りの見ている。アレックスは少女の視線を辿る。行き交う人々の服、手に持つタブレット、車、舗装された道路、建物、街灯などなど。
──まさか……初めて見るとか?
あの場所からいなくって10ヶ月くらいだよな?まさか……ずっとあの中?!
あの野郎……
あの少女が虐げられ、監禁されていた。その現実にあの先生に対する殺意から手に力が入ってしまった。幸いなことに、少女は新しい何かを見つけは目をクリクリさせていて、アレックスに気付いていない。
アレックスは苛立った心を落ち着かせる為、お姫様に目を向ける。
──可愛い…可愛い…可愛い!
アレックスの荒ぶった心が凪いでいく。心が癒される。
──ああ、なんでこんなに可愛いんだろうか…本当に可愛いな。
落ち着きを戻した彼の頭の中はそれしかなかった。
少女はアレックスが自分を見ていることに気づくと、ハッとして気まずそうに遠慮がちに俯く。
──そんな顔しないで。俺はずっとこうやって手を繋いで歩きたかったんだ。初めてのものがたくさんあるよね、何が気になる?どんなのが好き?
「道路走っているのは車、自動車。危ないから行かないように。今通ったのがバスで、ここの縞々が横断歩道ね。あれが信号機で赤い時は車が来るから待ってね。今青にかわったから渡るよ」
アレックスは子供でも知っていることだが、そんなことは気にせず、何もかもが初めての少女に説明した。
彼女の歩幅に合わせて彼女の速度に合わせて歩く。彼女の気になるのがあったら立ち止まって一緒に見る。アレックスは何時だって、お姫様の笑顔が見たいのだ。
*
──さて、どこに行こうか?勉強好きだし、まずは本屋だな!
読書好きな勉強家だったことを思い出したアレックスは、最初に本屋に入ることにした。
初めて見る本の数に圧倒されるも、大好きな本に目を輝かせた少女に、アレックスの心が満たされる。
「傷つけたり汚さなければパラパラみていいよ」
アレックスは少女の肩を軽く叩き、好きな本を探してもらった。少し離れた場所で、アレックスも本を探し出した。初めてのデートで浮かれているアレックスに、「彼女に好かれる方法」だの「お勧めデートスポット」といった雑誌の文字が目に付いた。
──彼女……俺の彼女…恋人…。今はまだだけど、これからなってもらうから。
二人でラブラブしながら街を歩く妄想が膨らむ。
──手を繋いで歩くのもいいけど、腰に手を添えて抱き寄せるのもいいな。 公園のベンチでクレープ食べたり、カフェでケーキを食べさせ合って、春は一緒にサクラを見よう。夏は海に行きたいな、秋は紅葉を見ながらハイキングとか、冬は手編みのマフラー。小洒落たレストランに連れて行きたいな。バーベキューとかもやりたいな。
これから二人で沢山の思い出を作っていくんだ!
アレックスはこれからの生活に胸膨らませながら少女に目をやる。キラキラした瞳で本を捲っているかなと思えば、予想に反して血の気が引いたような顔で震えながら本を棚に戻して、ロボットのようなカクカクした動きで店を出ようとしていた。
──何があった?!
先程の棚は図鑑コーナーで、少女が手にしていたのは何かわからないが一般的な図鑑だと思う。
「待て!」
ヒロインとの温度差
アリー時代から変わらない妄想




