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野良犬と宝石のお姫様  作者: 鶴野江
第1章 絵本の続き
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第6話 たくさんのはじめて①

初めてのデート会

ヒロイン視点

 少女の牢で一騒動があった翌朝、キュリウスはそわそわしていた。しきりに少女の手を引っ張り外へ連れ出そうとしていた。

「私はここから出られないよ。お外出るなら、キューちゃん行っていいよ?」

 いつもならキュリウスは少女の知らない間に牢を行ったり来たりしているのに、今日はやけに少女を連れ出したがる。まるで雨の日に外で一緒に遊びたがる子供とたしなめる親の様だ。


 ──キューちゃん、どうしたのかな?



少女はいつもと様子の違うキュリウスが心配になった。


 少女が外へ出られないのは鉄格子があるからだと、キュリウスは日ごろの不満をぶつけるように尻尾を振り回し鉄格子を切断した。



 ──キューちゃん…スゴイ、あれ斬れるんだね。



 少女が口をポカンと開け感心している間に、キュリウスは少女の手足の枷も切断し牢から連れ出した。

 



 少女がキュリウスに連れて行かれたのがベランダだ。

「ここから外に出るの?二階から飛び降りたら危ないよ」

 少女は近くにいるキュリウスに話かけたが、キュリウスは見あたらなかった。

「あれ?キューちゃんどこ?」

少女はキョロキョロと見渡し、透明な手乗りサイズのドラゴンを探すが見つからない。

 バサバサッ

 下から翼をはためかす音がした。音の方に目を向けるとキュリウスが本で見る巨大なドラゴンの姿になっていた。

「キューキュー」

キュリウスは少女に呼びかけた。

「私?乗るの?」

「キュー」

乗って欲しいことが伝わると、キュリウスは嬉しそうに鳴いた。少女はそんなキュリウスに乗り、薄曇りの冬の空へ飛んで行った。



 初めて見る景色。空から見るのも初めてだが、少女の見たこと無い建物や動いているものが沢山あった。少女はぼんやりと風景を眺めているが、キュリウスは何か目的のものを探そうとしている。キョロキョロしてはがっかりし、またキョロキョロするを繰り返しているキュリウスに少女は気づいた。

「キューちゃん?何探してるの?」


 ──キューちゃんが探しているものが分からないけどお手伝いしたい。



「キューちゃん、あれ教会かな?あそこ行こう?キューちゃんの探しものが見つかるようにお祈りするね」

 キュリウスの目的がわからないが、とりあえず、人気の無い場所でみつからないように着地して空から見えた教会へ向かった。


 *


 平日の午前ということもあり、教会の礼拝堂には人が少ない。そんな中で祈りを捧げる少女がいた。帽子で髪を隠し、ボロボロでブカブカの服にサイズの合っていない靴。いかにも、親から相手にされていない風貌の訳あり少女だ。


 そんな少女がふいに連れの透明なドラゴンに押し倒された。ドラゴンの姿は簡単には見えない為、少女がよろけたと周りは思うだろう。


 どこからか男性の焦り声が聞こえた。

「危ない!」

 よろけた少女は通りすがりの青年の胸に倒れてしまい抱きしめられた。すぐに離れたかったが、青年の力強い抱擁から逃げられなかった。

「だ、大丈夫か?怪我はないか?」

 少女の頭の上から声が聞こえた。何を言われたか判らないが、少しぎこちなく緊張している様子は気のせいだろうか?


 すぐに解放されると思っていたが、青年は少女を抱きしめたまま離さない。

 漸く解放された少女は青年を見上げた。黒髪長身で、美醜に興味無い少女でも美形に分類される顔立ちだと思った。

 少女に怪我はないが、精神的に大丈夫ではなかった。青年の視線が気になって仕方ない。こんな距離で人と接することを想定してないので頭がパンクしそうだった。


 ──この人、私に用無いよね?早くこの場所からこの人から離れたい。こういう時は何すればいいの?言葉がわからないよ。


 少女はジッと見られているその視線から逃げたかった。青年が何を考えているかわからず、どうすることも出来ずに俯いていた。

 早く帰ってくれないかなと泣きそうになっていると

「今日何も予定が無ければ俺とデートに付き合ってくれないか?」

青年が何か話かけた。言葉のわからない少女でも、たどたどしさや緊張からの早口になっていることが伝わってきた。

 見上げると少女を誘う手が青年から伸びていた。この時、少女は青年と目が合うのを恐れ、手にしか目線が向いていなかった。

 自分に恋い焦がれて懇願している青年の赤らんだ顔など知らない。


 ──この手を取っていいのかな?断り方が分からない。悪い人ではないとは思う。何か言わないと、でもどうすれば…


 結局少女は断り方がわからず青年の手を取ってしまった。


「ありがとう。さぁ、行こうか」


 ドキッ!


 春の日差しのようなキラキラした笑顔、宝物を愛でるような視線に、心の中の何かが引きつけられた。


 ──あのお兄さん、どこかで会ったかな?


 少女にある記憶で、覚えている限りで初めてであった。こんなに愛おしむような柔らかい声とキラキラした眩しい笑顔を向けられたのは。心臓が速いのは知らない人がいるからだろう。心音が大きくなるのは警戒心からだろう。



 ──なんだろう…このお兄さんの手があたたかくて、私の心があたたかく感じたのは気のせいかな?




 *


 指を絡めて手を繋いだ2人が街中を歩いている。少女が見上げると、何故だか浮かれている青年がいる。目が合うとキラキラした笑顔を少女に向けた。


 少女は初めて見るものが沢山ありすぎて何が何だかわからない。


 走っているのは?

 あの人達が持っているのは?

 何階建てなんだろう?

 看板が光った?

 道が舗装してある!

 お店?ガラスドア?


 目に映る全ての物が未知なる物で、仰天していた。ポカンと口を開け、キョロキョロと辺りを見渡しては、パチパチと瞬きを繰り返している。そんな少女を見かねた青年が、幼児に話すような優しい口調で説明した。

「道路走っているのは車、自動車。危ないから行かないように。今通ったのがバスで、ここの縞々が横断歩道ね。あれが信号機で赤い時は車が来るから待ってね。今青にかわったから渡るよ」

 

 進む方向を指差して、少女の手を繋いで横断歩道を渡る姿は、恋人同士よりむしろ迷子の案内かもしれない。



 ──親切な人なのかな?私が一言も発してないの気にならないのかな?

 初めて会うのに、懐かしいような…何だろ?


 少女は青年に懐かしさや親しみを感じていた。そんな青年に手を引かれたどり着いたのは、本屋であった。


「ここ本屋なんだ。覗いてみる?」




 ──本屋さん?!スゴイ!本がいっぱいだ!


 本を読むのが大好きな少女は、ご馳走を前にした子供のように目を輝かせた。青年はそんな少女を、慈しむように見つめていた。


 「傷つけたり汚さなければパラパラみていいよ」

 本棚の前で動かない少女の肩を軽く叩き、青年は好きに見ていいと促すと、自身も本を探し始めた。

 肩を叩かれた少女は、ハッと我に返ると辺りを見渡した。天井まで届く本棚が沢山並んだ本屋は初めてだ。そこから本を取り、パラパラ捲る客がいる。少女も、少しなら中を見てよさそうだろうと、手にしたのは植物図鑑だ。

 何気なく本の中を見た少女は、目を皿のようにして固まってしまった。


 この葉っぱ、枝も本物そっくり?

 絵なの?

 文字にも色がある!

 紙質も立派で、これ絶対に高い!

 王室御用達だ!すっごい貴族階級の奴だ!

 そっと戻しておこう。

 私が来てはいけないお店だった…

 ヨシ、ささっと出よう。


 貴族の店だと思った少女は冷や汗をかきながら、カクカク動く挙動不審な動きで店を出て行った。それに気づいた青年が慌てて追いかける。

「待て!!」 

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