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野良犬と宝石のお姫様  作者: 鶴野江
第3章 アルバム
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第49話 ルーカス②

 挑発されたルカは黙っていられない。

 アレックスを左拳で殴りに行く。

「アネット、加速だ」

「大丈夫なの?」 

 アネットはルカが言わんすることが解った。ルカを“加速させる”だ。

「速くしろ!! 早く!!」

「はいはい」

 ルカに催促されたアネットがルカに杖を向け、渋々魔法を放った。


 ”アクセル“


 加速の魔法を受けたルカの動きが速度を増した。

 急加速したルカにアレックスは、『強化系の何かか? 良いの持ってんな』と口角を上げた。

 初撃に驚いたものの、二撃目からアレックスは難なく避ける。

 ルカはアレックスに向かうのを止めない。何度躱されても、ルカアレックスに突っ込んでいく。


 アレックスが獣人だと知っているルカは、アレックスの身体能力が普通の人間より上とわかっていた。しかし、いつもの2倍の疾さで殴りかかっている筈なのに、マタドールのように華麗に裁かれるルカは、『なんで当たんねーんだっ!』と、どんどん頭に血が昇っていく。そのせいで攻撃がより直線的になり、躱されているとは気づいていなかった。更にアネットの加速魔法で負荷もあり、疲労から動きが単調になっていた。



 焦りと苛立ちから足がもつれ、倒れそうになったルカは、アレックスから距離を取りアネットの隣に戻った。


 汗だくで息の上がるルカとは対照的に、汗一つかいていないアレックス。そんなアレックスがルカに、拍子抜けしたように呟いた。

 「息切れか? 案外体力ないな」

 






 ルカがギャーギャー喚いていたおかげで、アレックスの先ほどの呟いきは聞こえてなかったようだ。獣人化していなくても、並の人間の数倍感覚の鋭いアレックスには、揉めている二人の会話が筒抜けだった。

「アネット、お前も何かやれよ!!」

「アンタ巻き込むけど、いいの?」

「オレ様には当てんなよ!!」

「はいはい、わかった、わかった。やればいいんでしょ」



 アレックスは右手首のブレスレットをいじりながら二人を観察していた。 

『作戦決まったか? 血の気の多いルーカスはともかく、常識人なアネットはどうだか。乗り気じゃなさそうだからな……』

 アレックスが性格の大分違う双子の出方を考えていた時、早まるルーカスに観念したアネットが、アレックスに向けて杖を振りかざした。

 


 ヤケクソになったアネットがアレックスを中心に重力魔法陣を展開させてきた。

 アレックスは上からの圧力を感じ蹲った。下に目線を向けると魔法陣が描かれていることに気がついた。


 『これか? 何だ?』


 並の人間なら動きが制限されるだろうが、この程度の重圧は何ともないアレックスは立ち上がり、双子に目を向けた。

 すると、目の前には無数のルカが放った雷弾と、アネットが放った水の矢が迫っていた。

「足止めしてからか」

 簡単に払いながら、新しい能力を見せる二人に期待が高まっていた。


 『鍛え甲斐のある奴らだ。そうでないと安心してシシィを任せられない。俺が安心して卒業できないしな』

 

 アレックスはアネットとルカの実力を見極めたかった。シンシアを任せていいのかを。鍛える価値があるのかを。今はアレックスの奥に引き籠もっているが、アレがいつ表に出るかわからない。シンシアに執着しているアレは、外に出たらシンシアに危害を及ぼすのは目に見えていた。アレックスは自分の卒業後、シンシアを任せられるようにしたいのだ。


 ――あの義伯父さんも似たようなことを……

 

 アレックスとしてヒスイに始めて会った時を思い出した。

 

 大切なあの子を護りたい。だからこそ、自分の信じられる奴に託したい。

 その同じ感情にアレックスは同調出来た。が、やっぱりあの義伯父さんはいけ好かない、としかめっ面になった。

 

 アレックスはヒスイのことから切り替え、アネットとルカに意識を向けた。

 

 ルカの放った雷弾はアレックスに向かい直線的に進んでいる。アネットから繰り出される水の矢は、アネットの身長より高い位置から放たれていた。その軌道は直線的だか、アレックスを中心とした魔法陣に入ると軌道が変わった。中心に向かい放物線を描きながら、アレックス引き寄せられていった。

 その変化に気づいたアレックスは、魔法陣は重力がありアネットはそれを把握した上で攻撃していると理解し、高揚していた。

 「やるじゃねーか。アネット」



 アネットの水の矢は、アレックスの放つ熱で蒸発していて、アレックスに全くダメージはない。ルカの雷弾はアレックスに届いているが、ルカの雷弾ではピリピリパチパチ刺激がある程度で、実は全くダメージがないのであった。

 

 そんな状況がアレックスの周りの水蒸気でアネットとルカには全く伝わっていなかった。ルカはそうとは思わず、勝機だと仕掛けた。


 アレックス対して普段のルカは、自分に非があると自覚している為に刻まれ恐怖で固まっていくが、今はコケにされ、その上挑発されブチギレていた。その勢いもあり、電撃を込めた左拳を全力でアレックスに突き出した。

 「くらえっ、雷撃拳ライトニングフィスト」」


 目の前のアレックスしか目に入っていないルカは、足元が疎かになっていた。

 アネットの魔法陣にルカは強く引き寄せられ、アレックスの手前で、大の字に押しつぶされた。

「ぐぇっ」

 アレックスは潰れたルカを、幼稚園児がカエルの死骸をツンツンするように、屈んで右の人差し指でつついた。

「おーい」


 動く気配のないルカに、アレックスはがっかりした表情で一言。

 「連携するのは悪くない。やるなら相方の能力把握しな」

「はい……」

 アレックスの正論にぐうの音もでなかったルカが、消えそうな声で返事をした。



 アレックスは立ち上がり、肩を回したり、肩甲骨のストレッチをしながらアネットへ近づいた。

 「ルーカス。お前の攻撃は読みやすい。短絡的な性格そのままだな。アネット、まずお前は杖無しの魔法発動だ。いちいち出してたら手間だろ? それに杖が無いと何もできないのは困るからなー。そんなんだからシシィが危ない目に遭ったんだよな」

アレックスの独り言だったが、アネットとルカに聞こえるような声で、わざとらしさが満載だった。


「まっ、とりあえず二人とも休憩だ、休憩」



 *



 アレックスがアネットとルカに休憩だと伝えた時、バサバサと羽音が聞こえてきた。

 その音にアレックスの表情がぱぁと花咲くように明るくなった。

 そう、シンシアがキュリウスに乗ってきたのだ。




 アレックスはキュリウスから降りるシンシアを抱き留めてから着地させた。


「アル、お邪魔します?」

 アレックスを見上げ、遠慮がちに言うと、アレックスに物凄い勢いでハグされた。

 お団子に纏めた髪にジャージ姿だが、シンシアならなんでも可愛い可愛いなアレックスは、

「来てくれたの。ありがとう。邪魔してないからね。ああー今日も可愛いよ、可愛い可愛い」

 若干早口で悶えていた。


 そんなアレックスを引き剥がすと、シンシアはルカとアネットをキョロキョロと探した。

「ルカとアネットは?」

「あぁ、今は休憩だ」


「ルカ、大丈夫なの?」

 大の字で寝ていてピクリとも動かないルカを心配するシンシアの肩をポンと叩き、アレックスが安心させた。

「ルーカスはヘバッてるだけだから」


 シンシアがホッとするとアレックスは、「ちょっと待ってね」とシンシアから離れ、近くに用意していた箱の中を探しは始めた。


 目当ての物が見つかったアレックスは、

「それよりも、やる?」

 と木剣を出し、シンシアを稽古に誘った。


 久々の木剣に懐かしくなったシンシアは、両拳に力を入れ瞳を輝かせ即答した。


「やるッ!!」



 *



 木剣のぶつかる音で目覚めたルカがアネットの横に来た。

「なあ、アネット。あいつにオレ達要らないだろ?」

 ハイレベルな剣の撃ち合いを繰り広げる相手に自分達は必要かと、ルカがぼやいた。

「訓練と実戦は別だからね。現に今アレックス先輩と打ち合えてもあの時は動けなかったし。それに誘拐するなら、ああいう小さい子が狙われるでしょ? 小さいと軽くて運びやすい、隠しやすい。まあ、とにかくアレックス先輩はシンシアが心配なの。解った?」

「へいへい」

 アレックスの心情をある程度理解しているアネットがルカを諭すも、ルカは腑に落ちないでいた。

 ベタ惚れのアレックスと、可愛い可愛いお友達のアネットと、頭が上がらない先輩に押し付けられたルカとでは、シンシアに対し思うことが違うだろう。

 

「それにしても、全然効いてねーじゃん」

「アレックス先輩って、魔法苦手とかじゃなくて肉体派?」

「まあ獣人だったしな」

「そうなの? ってか何で知ってんの」

「あ……や…その」

「アンタ、何やらかしたの?」



 *


「あっ!!」

 シンシアの焦った声が響いた。

 その声にアネットとルカの視線がシンシアに向けられた。シンシアに声をかけようとした時、シンシアの手からスッポ抜けた木剣が、綺麗な放物線を描きルカの頭に降ってきた。

「痛ってー、何だよ?!」  

 剣が頭に当たり蹲るルカに、シンシアが慌てて駆け寄った。その後をアレックスはあきれながら歩いている。


「ルカ? 大丈夫? ゴメンね?」

「ルーカス、起きたか?」

 オドオドして謝りに来たシンシアはともかく、心配する素振りのないアレックスにルカの堪忍袋が切れた。勢いで今まで言いたかったことをぶつけた。

「先輩、オレは()()()()じゃなくて()()ですから!!」

 ルカはアレックスに散々名前を間違えられていたのだ。

「ん……そうだったのか?ルカってルーカス……」

 目を見開いたアレックスは、きょとんとした。アレックスは、ルカはルーカスの愛称で、本名がルーカスだと思い込んでいたのだ。


「ああ、でもお前、カスみたいな事ばっかだし。ルーカスでよくね?」

 暫く、考えたアレックスはあっけらかんとこう結論付けた。

「カスってなんなんですか!!?」

 ルカは、名前の間違えだけでなく、カス呼ばわりで更にワナワナと震えてきた。

「お前がケンカ吹っ掛けてたのって、年下の奴しかいないだろ?俺だって魔法ができないとか噂があったからだろ?」

 アレックスは、格下相手にイキるルカを戒めるように威圧した。


「うわぁ……カスみたいじゃなくてカスだったわ」

 アネットが、貴族が小汚い平民を軽蔑するような眼差しをルカに向けた。


「ルカはカスだったんだ? ん? あれ? カスって?」

「ゴミ同然のカスだよ」

「えっ? ルカはゴミでいいの?」

 人に対しての誹謗中傷に疎い世界にいたシンシアは、話の内容がイマイチ解っていなかった。そんなシンシアにアレックスがやんわりと説明する。だが、結局はいい意味ではない為、シンシアは混乱した。

「世の中そういうカスもいるんだよ。シシィもお勉強になったね」

 混乱しているシンシアの頭をなでなでし、『可愛いなあ、可愛いよ』と、アレックスはデレデレな嫁バカ状態になっていた。



「お前等、寄ってたかってオレ様のことカス言うんじゃねー!!」

「カスだったじゃん。アタシもルーカスって呼ぼうか?」

「やめろ!!」



 こうして嫁バカが炸裂したアレックスと、イマイチ理解していないシンシアと、賑やかなルーカスとアネットの特訓が毎週の日課となったのであった。

ヒスイ義伯父さんとアレックスのくだりは第三話参照


2歳児と4歳児の世話で執筆時間か確保できない為、しばらく更新出来ません。

申し訳ありません。

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