第48話 ルーカス①
日曜日の朝、ルースノー寮の各階にある小さな共同キッチンで、シンシアとオードリーとドロシアの三人組が揉めていた。
休日は朝食の出ないルースノー寮。いつもの三人は朝食の支度をどうするか、若干揉めていた。
「シンシアって、料理何か出来るの?」
オードリーがシンシアにさり気なく確認した。
「ちょっと出来るよ?」
少し自信無さげにシンシアが答えた。
「ちょっとって?」
そのシンシアに怪しさを感じたドロシアが問う。
「肉と野菜を切って茹でる!!」
自信満々にシンシアが言うが、不穏な空気がオードリーとドロシアに漂う。
「因みに味つけとかは?」
恐る恐るドロシアがまたシンシアに訊いた。
「あじつけ……? 塩?」
首を傾げるシンシアに、オードリーが叫んだ。
「塩以外もあるでしょ?!!」
「でも、この国の料理ってそんなんだし……」
ドロシアが諦めた表情で、右手で顔を覆っていた。
「だから嫌なのよ!!」
地団駄を踏むオードリーにドロシアは思った。
『まともな料理の出来ないメンバーだったのね』
結局パンとベーコンを焼いただけの朝食になった三人だったが、まったり会話をしている。
「アレックス先輩は?」
「アルなら魔法演習場でルーカス鍛えるとかいってたよ」
「シンシア、行こうよ。アレックス先輩に会いたいよね?」
推しのアレックスが気になるオードリーに、ドロシアが口を挟んだ。
「会いたがってるのはオードリーの方でしょ?今日予定あるの忘れたの?」
「そうだった。ジュリちゃん!!」
今日の予定を思い出したオードリーは、いつもの猪の如く突っ走って行った。因みにジュリちゃんとは、オードリーの姪だ。今日はそのジュリちゃん1歳の誕生日会なのだ。
「待って、待ってオードリー!!」
シンシアはオードリーを追いかけるドロシアを見送り、ふと考えた。アレックスの邪魔になるからと遠慮していたが、しなくてもいいのかと。
「キューちゃん、今日どうする?」
「キュうん?」
キュリウスがポリポリ結晶を食べながら、首を傾げた。
*
ここは魔法演習場。
アレックスの、シンシアには見せたことのない鋭い目付きで、芥子色のジャージ姿のルカとアネットは威圧されていた。
例のお姫様が現れてからの甘々デレッデレなアレックスで、ルカは忘れていたが以前はこの冷たさが通常だった。
アネットは何を言われるか検討がついていた為、覚悟は出来ていたが、アレックスの冷酷な怒気に逃げ腰になっていた。
ルカは骨の髄まで刻まれた恐怖心から、ただただアレックスのオーラにビビり散らしていた。
緊張感の漂う中、アレックスの淡々と叱責する声が静かに響いた。
「お前等、この間ケルベロス捕獲補助でポイント貰ったみたいだな」
「「はっはい」」
反射的にした返事がシンクロした。
「シシィが襲われたらしいが?」
予想通りの場所を突かれた二人は口ごもった。
「「あ、その……ええっと……」」
「あんな犬っころ一匹押さえられないとか情けない」
アレックスが射抜くような視線で苦言を呈す。それが自分達の見下しているようで、ルカはイラッとした。
「じゃあ、アレですか? 先輩なら出来るんですか?」
「俺が言いたいのは、あの場面では捕獲完了まで気を抜くなって話だ。現場の経験はこれからだな」
アレックスは先輩としてアドバイスするが、その態度がルカの神経を逆撫でしていたようだ。
アレックスの尊大という訳かはないが、質問をはぐらかし、上から相手の気持ちを汲む気の無い態度が、ルカには小馬鹿にされているようでムカついた。
「オレ様をコケにしてんすか?」
ルカがアネットに叫んだ。
「アネット!! やるぞ! あのヤローをギャフンと言わせてやる!!」
「はあ?! なんでそうなんのよ?! ってか、アタシは関係ないでしょ!!」
二人掛かりなら倒せると意気込んでいるルカに
巻き込まれたアネットは、ご立腹だ。アレックスの言うことに反論できないでいるから、尚更食いかかるルカが嘆かわしい。
「丁度いい。二人とも鍛える予定だったからな」
予定調和なアレックスは、右の掌から指をクイッと動かし、期待を込めにやりと挑発した。
「ほら、来いよ」




