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野良犬と宝石のお姫様  作者: 鶴野江
第1章 絵本の続き
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第5話 捕らわれのお姫様

 アレックスがいきなり消えたことで呆然としてたが、現実に帰って「逃げられた!」と忌ま忌ましさ全開でサムソンが舌打ちした。

「私は戻らないといけないから、また後で来ます」

 扉が閉まる音、廊下を歩く音が遠くで響く。それからサムソンの気配がなくなった。主役が不在では不自然なのでパーティー会場へ戻ったのだ。


「あの人は外に出たみたい」

 誰もいないことを確認してから、捕らわれの少女は自分の周りにいるであろう透明なドラゴンのキュリウスに呟いた。

「キューちゃんどこに行ってたの?さっきの人は迷子かな?ちゃんと帰れたかな?」

 少女はここが危ない場所であると痛感している少女は、先程の訪問者を身を案じた。


 ──さっきの人の声…聞いたことあるような?誰だったのかな?私に会いに?そんな訳ないか…


 誰もいない孤独感に慣れきった少女は、あり得ないことを考えてどうすると自嘲した。




 *




 ──そもそも私に会いに来るような人っているかな?


 少女はここに至った経緯を振り返る。

 まず少女が目覚めたのは雪解けの森の中だった。少女が森の中で目が覚めて辺りをキョロキョロしながら歩いる時に小屋を見つけ、その中で一休みし、森を彷徨い、川を渡った。どこかでまた気を失ったみたいで、気付いた時は子供達が沢山居る場所に保護されたようだ。そこでサムソン・ターナーと紹介された人物に引き取られた。


 サムソンの第一印象は柔和な笑顔の青年である。そんな印象は彼の家に着くなり崩れ落ちた。

 サムソンは少女を薄暗い牢に入れたのだ。

「暫くこのままでいて貰いますよ」

 表情と口調は穏やかだが、こういうことをする人間が穏やかと言えるだろうか?

 それから、サムソンは名乗ることもなく質問してきた。

「君は何者ですか?」

 少女は過去の記憶が思い出せないが、自分が使う言語と違うことは解った。


 ──よその国にきちゃったのかな?じゃあ私の探している人には会えないね…言葉が解らないとなると、どうする?


 少女はあの場所から動かないでいればと、後悔した。少女が俯いて黙っていると、サムソンは「まあ、いいでしょう。思い出すまで待ちますよ」と言い捨てて帰った。朗らかに見せていたが苛立ちが隠せていなかった。


 牢にに入ってからの毎日は何もできることがない。少女は寝て起きて、運ばれてくる盥の湯で体を拭いて、運ばれてくる食事を取り、自分の過去を思い出す。

 こんな日が続いていたある日、ふと空中にキラキラしたものが見えた。なんだろう?手を伸ばすと、パタパタ飛んいる透明な小さなドラゴンがいたのだ。

「君は誰?名前は?キュウキュウ鳴いているからキューちゃんでいい?」

 両手で包み込むように触れて顔を見た。

「…キュリウス…君の名前はキュリウスでキューちゃんだ。私…自分の名前わかんないけど…よろしくね」


 それから少女はキュリウスとお話しして過ごした。話といっても「ここなんだろうね」「外の天気はどんなかな?」とかしかないが、キュウキュウって返事が返ってくると気が紛れた。

 サムソンはキュリウスが見えないのか気づいていないのか不明だが、キュリウスを言及したことはない。少女はキュリウスのことは気付かれない方がいいと思っている。キュリウスもサムソンを避けているからバレないだろう。



 キュリウスと過ごす日々が過ぎたある日、目が覚めると、枷はそのままで牢から出された。少女は抵抗せず、されるがままでいると磔にされた。

「これから何をするかわかりますか?」

 サムソンが何か言っているが、少女は言葉がわからない。しかし、罰を受けるのだろうことは予想できた。


 この部屋に灯りが点いたのは初めてだった。上には換気用の窓らしきものが見えたから、この部屋は地下ではないかもれない。そして床には少女の見覚えがあるような無いような武器や道具が散乱していた。処刑される自分にはもう関係ないが、目についた物は見てしまう。


 ──他国の領地に入った怪しい人間だもんね。処刑されても仕方ないね…


 少女は投獄期間は自分の処遇の判断期間だと理解し、覚悟を決めた。そんな少女にサムソンが、サーカスの司会者のように盛り上げながら語りかける。

「私は恐怖に歪んだ顔を見るのが好きでしてね、魔女狩りの文献は様々な処刑、拷問方法がありますから勉強になりますよ。そう、これは取材ですよ。」

 少女は自分の罪状を読み上げているのかと思いながら、サムソンの理解できない異国の言葉を聞いた。

「毎回私は忘れないように小説という形で残しおくんですよ。恐怖に瀕したときの顔、叫び声をね。君はどんな命乞い(うた)を聞かせてくれますか?」

 サムソンが記録用にペンと紙を取り出した。少女はそれを、処刑時の記録を残すのも仕事だよねと冷静に眺めていた。

「希代の魔女はどんな悲鳴(うたごえ)を聞かせてくれるのでしょうか?」

 長々とした口上がやっと終わり、火がつけられた。魔女の処刑と云えば火炙りだ。


 少女は自分のことが思い出せないまま死ぬことに心残りがある。もしからしたら、遠くに自分を心配している家族がいたかもしれない。何より、会いたかった人に会えなかったことが哀しい。


 ──ごめんなさい


 謝っても届かないことはわかっている。自分なんかのことは忘れて、幸せに暮らして欲しいと死を覚悟した少女は目を閉じて祈った。

 言葉のわからない異国の地で、生きる意味の見いだせない少女は、全てを焼かれ生きる絶滅から解き放たれたかった。

 しかし何かに守られている少女にその願いは届かない。少女を取り巻くキラキラ光る粒子が火を消したのだ。


 サムソンはその不可思議な現象を、最前列で手品に魅入った子供ような瞳で見つめていた。

「素晴らし…これが魔女」

 奇跡を目の当たりにしたサムソンの呟きには、どこか狂気を孕んでいた。


 それから、サムソンが読み漁った資料を参考にした“魔女狩り”が始まった。

 始めは処刑台が破壊される度に、ナイフの刃が弾かれる度に、歓喜に打ち震えていた。それが見たかったのだから。全く痛みを感じず傷つかないことは想定内だ。しかし、人形の如く無抵抗で無反応で虚無感を顕わにしていることに憤りを禁じ得ないでいた。

 一方生きる気力の無くした少女は、何かが自分を守っていることに気が付いた。何が自分を生かしているのか、こんな力は要らない。早くこんな生きている意味の無い世界から消して欲しいのにしてくれないと、嘆いている。


 そんな日々の中で少女は屋敷での生活を思い出した。


 ──ああ…思い出した、エリスティア。こういうのエリスティアが好きそう。あの人はエリスティアと似ている。でも違う気がする。





 少女は振り返ってみて思った。自分に用があるのはサムソンだけだと。あの屋敷にいた時より酷いとは感じないのは、サムソン以外の人間が来ないのと、対人関係の煩わしさがないからだろう。



 薄暗い廊の中、目を閉じれば、『必ず迎えにいくから……』と暗闇の中、誰かの聞こえた気がした。少女を迎えに来てくれる人なんていない。気のせいだ。


 「いつになったらこんな生活終わるのかな…」

 今日も捕らわれの少女が無気力に呟いた。

先生の書く小説はミステリー。殺害行為の描写、被害者の悲鳴、死体の描写に定評あり。


ヒロインの過去は、『野良犬と宝石のお姫様〜ある日の少年少女〜』をご覧ください。


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