第42話 保護者と居候②
シンシアは初めて見る街並みに興味津々だ。シンシア達が暮らす島は学園を中心に発展していったため、学園周辺の店屋等は古く、学園から離れた場所ほど建物が新しくなる。
アネットが行きたかった店は、木目調のタイルの外壁がオシャレなパンケーキ屋だ。
店内に入ると、壁には可愛い動物のイラストやハートや星等が貼ってあり、幼稚園や小児科の内装みたいだ。こういうかわいらしさがアネット好みである。
客は学生や親子で賑わっている。よく見ると、客も店員も女の子ばかりだ。
シンシア達は店員の案内で席に着いた。4人がけの木のテーブルと椅子のセットで、アネットとルカが隣同士で座り、シンシアが向かい合う席だ。メニューを開くなりルカが、呆れながらボソッと呟いた。
「何なんだよ、この店」
「どうよ? 可愛いでしょ? パンケーキ専門店なんだよ。どのメニュー見ても可愛いし、アタシ来たかったの!!わかる? 寮とかクラスのはアタシのキャラじゃないとか言って聞かないし。とにかく癒しが欲しいの! 可愛い店には可愛いコと来るに限るの!」
帰りたそうにしている不機嫌なルカに、アネットがキャピキャピとハイテンションで力説した。
「あっそ」
興味ゼロで右から左に聞き流しているルカに、アネットが顔を引き攣らせながら、日頃の不満を爆発させた。
「ただでさえアンタのせいで鬼軍曹に毎朝走らされんのに。この間、アンタの寝坊のおかげで、連帯責任だとかでウチの寮の1年全員走らされてんの、わかってる?! 」
「あ~、でも……鬼軍曹、寮長に雷落とされてたからもう終わったんじゃね?」
アネットがルカに不満を垂らしている間、話に入れないシンシアは
『鬼軍曹……確か黄色の副寮長とかアルが言っていたかな?』
と、思い出していた。
「それはウチらに関係無い子達もやらされてたからでしょうが。アタシは、アンタの監視出来てないって言われたら何も言えないし。もうアンタが反省しないからでしょ。土日も走らなきゃとか最悪、アンタのとばっちりとか勘弁してよね」
まだまだアネットの愚痴は続きそうなので、シンシアは可愛らしい写真の並ぶメニューを眺めた。
うさぎさんのおもてなしキャロットパンケーキ、くまさんが隠したのハニーポットパンケーキ、リスさんも頬張るナッツたっぷりパンケーキ、大人の休日ティラミスパンケーキ、ネズミも盗んじゃうたっぷりチーズのパンケーキ、小鳥の啄むブルーベリーのパンケーキといったメニューが並んでいる。
注文を決めながらシンシアは、『アルはこういうお店に来るイメージないかな?アルに教えたら一緒に来てくれるかな?嫌がるかな?一緒に来たかったな』と、アレックスと出掛けることを想像し少しションボリした。
シンシアが注文を決めた頃、アネットがグイグイ迫って、メニュー表の写真を指差した。
「シンシアは何頼む?アタシはこれにする!」
「オレはこれでいいよ」
可愛いメニューの写真に目をキラッキラ輝やかせたアネットは前のめりだ。アネットにチクチク小言で責められたルカは投げやりになっていた。
注文を終えパンケーキを待つ間、3人は雑談を繰り広げていた。
「そういえば、見本の写真無いがないのあったよね」
話題に悩んだシンシアはこの店のメニューで気になったことを、話題にしてみた。
「それ今度アレックス先輩と来たら注文してみれば? ラブラブパンケーキセットでしょ?恋人同士限定だし、アレックス先輩となら行けるでしょ?」
「アルは恋人じゃないよ?」
同室のオードリーにも言われたことだが、シンシアは全くそのつもりはない。当たり前のように言うアネットに、シンシアはきょとんと返した。
よく一緒にいるから勘違いをされているのかな? アルも私が恋人とか思われて迷惑かな?気を付けていかないと。よし、頑張る。
シンシアは両拳にギュッと握り、気合いを入れた。
謎の気合いを入れるシンシアに、アネットは戸惑いながら訊いた。
「じゃあ何? どんな仲なの?」
どんなと訊かれてシンシアは腕を組んで考えた。アレックスと出会ってから何をしてきたか、何をしてもらったかを。
暗い牢屋から保護してくれたし、アルの家に住まわせて貰っているし、色々と教えてくれるし、ダメことはちゃんと叱ってくれるし、学校にも通わせてくれたし。やっぱりちゃんとお礼しないとね。
「アルとは何だろう……保護者と居候かな?」
「「はあ??」」
学校卒業するまでに、一人で生活出来るようになって、色んなことを勉強して、ちゃんと職に就かないと。
呆気に取られる二人を他所に、シンシアは改めてアレックスに感謝し、独り立ちの意を固めた。
「ええっと、シンシア……」
「ご注文の品をお持ち致しました」
アネットが何か言おうとしたタイミングで、店員がパンケーキを運んで来た。
「くまさん可愛い。頂きます」
シンシアはクマの形のパンケーキに蜂蜜をかけ、ウマウマと頬張った。アネットとルカはジト目でシンシアを眺め、アレックスを憐れんだ。
*
シンシアがパンケーキを堪能している頃、アレックスはローブを脱いで、寮長室でロイと執務をこなしていた。
「歓迎会の予算足りるのか? もっと肉とかコストダウン出来ないか?去年の資料見るとアシ出てるぞ。年度末まで予算足りるのか?」
アレックスは意外にも真面目に寮内会議の決定事項の確認をして、棚の書類を整理しているロイに話しかけた。
「アレックス、君が、仮に独自のルートがあって使うのはいいけど来年どうするの?君以外が使えないのとか困るでしょ?」
説明がややこしくなると手間になるなと、アレックスは納得し、ロイに同意した。
「確かにな」
「そこの肉屋は去年もその前の年もお世話になったし、毎年ウチの寮が使うからって、この時期に合わせてバーベキュウ用に狩りとかしてくれてるんだよ。君は毎回いないから知らないと思うけどさぁ~」
「まぁ、いいだろ。サインしたからな。エド先生に提出するわ」
嫌味ったらしく言い返すロイを無視して、アレックスは書類にサインし、立ち上がった。
「アレックス、君……何処へ?」
「先生のトコだよ」
「それはオレがやるから。アレックス、君はまだ仕事が残っているよ」
さり気なく逃げようとしたアレックスを机に戻して、ロイは追加の書類を舌打ちするアレックスに投げた。
渡した資料よりも、時計と窓に視線が行くアレックスにロイが、
「姫サンが心配なの?」
と静かに訊いた。
「当たり前だろ?」
イライラを隠すことなく低い声でアレックスがぶつけた。
「まあ、わからなくはないよ。あのお姫様、ほわほわして、危険なこととかわかってなさそうな感じだしね。でもさぁ、彼女の友達付き合い束縛したら嫌われるよ」
ロイはカウンセラーのようにアレックスを諭した。
「そうなんだよなあ。解っているけど、俺と一緒にいてくれていいのに。友達ができたら、そっちに流れるのは分かるよ。でも、俺から離れるのが早いよ。放課後ラブラブ制服デートの夢が……あぁ俺の大切な、愛しい愛しい最愛のお姫様が……」
机に突っ伏して落ち込むアレックス。その情けない泣き声に、ロイは思った。
こんな残念な奴だったのか、と。
「シ〜シ〜、早く帰って来て〜」




