第41話 保護者と居候①
日常回
「シンシア、キューちゃん抱っこさせて」
「キューちゃんが良ければいいけど」
「キューッ!」
「なんか嫌がっているみたい」
「え〜」
朝、シンシアはキュリウスを胸に抱っこして、オードリー、ドロシアと寮の食堂へ向かっていた。
ルームメイトと打ち解けたかは、まだあやふやだが、他愛ない会話が出来るようになったとシンシアはホッとしている。手乗りサイズのキュリウスはマスコット的な存在で、いつもオードリーが触りたかがっている。寮の上級生や学内の生徒達とはこれから仲良くなれるだろうと、シンシアはのんびりとしていた。
一方で、初めて見る赤い髪の女子と、その女の子に破顔するアレックスに、寮生達はまだ慣れずにいた。見かける度に、二人の関係が噂になっていく。
「シシィ、お早う。今日も可愛いね。いい匂いだよ」
「アル、お早う。シャンプー? キャシーさんが用意してくれたのだけど。アルはこの匂い、好きなんだね」
この二人とってはギュッと抱き合っての挨拶は日常だが、周りはそうでもない。数日も経てば日常になるかもしれない。因みにオードリーは、尊い推しのカップルが出来たと、拝んでいた。
こんな二人に割って入ったのはアレックスの弟、ケントだ。
「義姉さん、お早う。兄貴、義姉さん放してあげようよ」
「ケントか、お早う」
「ケント君もお早う」
ほのぼのとした朝の挨拶で、赤い髪の女子が姉さんと呼ばれたことに周りの生徒達は気がついた。
姉さん? 兄妹? 姉弟?
赤い髪の女子は妹で、アレックスは過保護なシスコンなのではないかという結論で、落ち着いたようだ。
朝食の配膳が終わり、席に付くと、寮長の挨拶で皆の食事が始まる。
シンシアは定位置になり出した席で、オードリーとドロシアと朝食を食べている。
「シンシアは勉強出来る?」
「学校で勉強出来るよ?」
「勉強出来るからAクラスなんだよね?」
「学校にいて勉強出来ないはないよね?学校は勉強する場所だし」
シンシアとオードリーの噛み合わない会話に、ドロシアが口を挟んだ。
「勉強出来る出来ないって、成績が良いか悪いかだから」
「成績? 分かんない」
シンシアは自分が勉強出来るか分かっていないようだ。
「じゃあ、アレックス先輩に訊いてみるわ」
アレックスに話しかける口実が出来たオードリーはウハウハだ。楽しそうなオードリーにシンシアは、きょとんとしている。
毎日色んなことがあり、友達とこんな何気ない会話が出来る日々を、シンシアは大切にしたいと思うのであった。
*
朝の支度が済み、シンシアはアレックスにネクタイを結んで貰っている時、
「そうだ、アル。今日の放課後はね、アネットが私と行きたいお店があるって言うから、アネットとルカと3人で行くね」
と、忘れない内に伝えた。
「そうなんだ。俺も一緒に行くね」
楽しそうに伝えてくれたシンシアに、アレックスも嬉しくなった。
「アルは今日、ロイさんがお仕事あるって言ってたよ?」
付いてくる気満々のアレックスに、シンシアがきょとんと聞き返した。
「仕事?ってか、ロイ、おい」
アレックスは自分の知らない間に、シンシアに接触したロイにご立腹だ。
「オレはただオードリーに伝言頼んだだけだから。本当は姫サンに直接言いたかったんだよ」
降りかかる火の粉をヒラリと躱して、ロイがやって来た。
「そんな睨まないでよ。仕事の出来ない男は嫌われるよ」
飄々としたロイの流れに、ショートヘアの女子も乗ってきた。彼女はテッサ、3年生でアレックスに絡んで行く数少ない生徒である。
「アレックス、仕事の出来る男は女の子にモテるぞ。お姫様の為にもちゃんとやりな」
「まぁ、確かにそうだな」
愉快に笑いながらやって来たテッサに、アレックスは渋々応えた。それからシンシアに向き合い、窮地に向うかのような気迫の表情で抱きしめた。
「シシィ、俺仕事やるから。無事に帰って来てね。それから色々聞かせてね」
女の子にモテるの一言で態度が変わるチョロいアレックスに、テッサは大受けである。テッサは大爆笑しながら、
「ガキの頃から変わんなんなさ過ぎだろ」
と寮を出た。
テッサはアレックスと出身が同じで、昔こんなやり取りしてたなと懐かしく思った。シンシアの前だとバツが悪いのか、アレックスはテッサをジト目で追い、余計なこと言うなと圧をかけた。
テッサが去った後、アレックスはシンシアの両肩を掴んで、初めてお使いに行く子供に言い聞かせるようにシンシアの目を見た。
「シシィ、スカート、脚寒くない?教科書持った?忘れ物無い?近寄ってくる野郎共の相手なんかしないでいいからね。ルーカスの野郎がやらかしたらぶん殴っていいからね。暗くなる前に寮に帰ってくるんだよ」
「うん」
「じゃあ、教室まで送るね」
その様子に周りは、過保護だなと引いていた。
*
そして、放課後。
アレックスはシンシアの元へと駆け寄り、両手でシンシアの手を握りしめた。
「シシィ、行くんだよね。気を付けてね」
「うん、大丈夫だよ? じゃあね、アル。行ってきます。お仕事頑張ってね」
アレックスはアネットとルカに向き直り、鬼気迫る表情で上官が命令する様に言った。
「アネット、シシィを頼んだぞ。ルーカス、シシィに何かあったら分かるな?」
「「はい、わかりました」」
その圧に怖気付いたアネットとルカは、シンクロさせながら反射的に返事をした。
「シンシア、行こう。ルカも来な」
シンシアとルカを連れて出かけるアネットは、大袈裟だなと思いながらも、シンシアを大切に想っているんだなとほっこりした。ルカは何もあるはず無いだろ、本当あの人怖すぎるとうんざりしていた。
「シシィ……」
「アレックス、用件は済んだよね?」
情けない声でシンシアの後ろ姿を見送ったアレックスの肩に、ポンと手が置かれた。アレックスが振り向くとロイがいたのだ。ロイは見つからない様に、コウモリに変身してアレックスの後にいたのだ。ロイは朗らかな表情だが、逃がすまいと肩に力が入っている。
「ロイ?」
アレックスが何か言おうしていたが、問答無用でロイは制服の上着を縄に変化させ、アレックスを縛り上げた。
「じゃあ、行こうか」
仕上がりに満足したロイは、モガモガ暴れるアレックスのぐるぐる巻を引き摺りながら、寮へ帰った。
アレックスの小さい頃、よくテッサに
「強い男の子は女の子にモテるよ」
「ピアノが出来る男の子は女の子にモテるよ」
「料理が出来る男の子は女の子にモテるよ」
「エスコートが出来る男の子は女の子にモテるよ」
等々と言われて、
「俺、出来るように頑張る」
と赤い髪のお姫様の為にあらゆることをやっていた。




