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野良犬と宝石のお姫様  作者: 鶴野江
第3章 アルバム
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第40話 ルームメイト②

 シンシアが酢でむせ返っていた頃、アネットとルカの姉弟は、慌ただしく学食に到着した。全体を見渡し、シンシアを探していた。鮮やかな赤い髪は目立つ為、思いの外、早く見つかった。

「ルカ、シンシアいた! アレックス先輩と一緒」

「いたのか!?」

「ほら、あそこ!」


 ひときわ目立つ赤い髪の少女の隣に、ひときわ目立つ学園一二を争う美形が並んで座っていた。そこには機嫌良くフライドポテトを雛鳥に餌付する様に与えるアレックスと、困りながらもあむあむ食べるシンシアがいた。イチャイチャする姿に安堵したアネットとルカは、

「無事でよかった〜」

「助かった……消し炭にされるかと思った」

と声を零した。

 シンシアの身の上を案じていたアネットと、アレックスの制裁を免れホッとしたルカだ。


 安心から力が抜けていったルカから、ぐぅ〜と腹の虫が鳴った。


「アネット、飯食おうぜ?」

「ルカ、ご飯にしようか?」

その音を聞いて、顔を合わさせて見事にハモる二人であった。




「シシィ、もっと食べていいよ」

「私ばっかり貰うと悪いから、アルはこれ。はい、どうぞ」


 アレックスはポテトをシンシアはブルーベリーをお互いに食べさせ合っている。オードリーは二人の世界に割って入り、おずおずと素朴な疑問をぶつけた。

「お二人は付き合ってるのですか?」

その疑問に当然だといった表情で、アレックスがシンシアに笑顔を向けて答えた。

「もちろんだよ。ね、シシィ」

「アルとよく筋トレとか格闘技の練習とか、あと勉強ね。一緒にやってるよ」

 シンシアも特に気にする事なく、あっけらかんと相槌を打った。

 オードリーの言う“付き合う”は男女の付き合いで、シンシアが思うのとは違うと、アレックスは頭を抱えた。


「そうだ、アル。学校いる時は武術の稽古とかどうしるの?」

シンシアはモヤモヤしているアレックスに気づくこと無く、頭に浮かんだことを訊いた。シンシアに訊かれたことには答えてあげたいアレックスは、溜息をつきながら応じた。

「朝早くにその辺で自主トレ的な感じで」

「朝早くって何時?」

「いつも朝4時からだけど……」

「朝4時!? 起きられるかな?」

「無理に付き合わないで大丈夫だから」

 学校が始まる前の起床時刻が昼近いこともあったシンシアは、不安がいっぱいだ。アレックスは悩みだしたシンシアを落ち着かせようとしている。


 アレックスと普通に会話しているシンシアにオードリーは、また同じことを訊いてしまった。

「あのシンシアはアレックス先輩の恋人なの?」


 シンシアは自分は誰かの恋人だとかという発想がないため、他の人と間違えられていると考え、アレックスに恐る恐る訊いた。

「アル、恋人いたの?」

「えー……あー……い、いませんけど……」

「そうなんだね。意外」

シンシアとこの手の会話をしたくなかったアレックスは、居心地悪くなってきた。女子は好きそうな話題ではあるが、アレックスとしては早く終わって欲しい。アレックスの願い虚しく、オードリーは益々テンションが上がっていった。

 「何このわたしがハマってるラノベのヒロインみたいの!! ラノベの世界の恋愛がここに!!」

「はあ??」


 突然ラノベが出てきてアレックスはポカンとなった。

 それからオードリーは思い立ったようで、お行儀悪く残りのオカズを書き込むと、猪のように突っ走っていった。

「ちょっと、わたし行ってくるから」

「オードリー、待ちなさいよ」


 急にいなくなったオードリーとそれを追いかけるドロシアに、シンシアはラノベって何だろう?と思いながらも、次の授業の為、席を立った。

「じゃあ、私も行くね」

「え? いや、待っ……あ…」

 シンシアには行って欲しくなくて、アレックスは引き留めるが、アレックスの言うことを聞くシンシアてはなかった。



「はぁあ……」

 アレックスが何だが疲れたと深い溜息を着いた所に、目敏くロイが来た。

「アレックス、君……フられたの?」

「うるせー、フられてねーし」

 アレックスが女子達に逃げられた所をバッチリ見て、冷やかしにきた。わざわざフられたを強調するロイに、アレックスはイラっとしながら返した。




 *


 「シンシア!! いたー!」


 放課後シンシアがアネットとルカと校舎から出てきた時、オードリーが突撃してきた。後からドロシアが必死に追いかけている。


「シンシア、あの子は?」

「オードリー、私のルームメイト」

 昼休みのこともあり、アネットは警戒しているようだ。シンシアはちょっと怯えながら答えた。

「ああ、ルームメイトだったのか」

昼休みにシンシアを攫っていった生徒だと思い出したルカが、呟いた。


 また誘拐されては困ると3人が身構えている所へ、オードリーは一冊の本を見せた。

「これ、わたしイチオシのラノベ。参考になるから読んで。部屋の机に置いてくれればいいから。借りパクとか、すぐ分かるからね。気に入ったからって取らないことよ!」

「ありがと?」

 オードリーが息を切らせながら差し出した小説を、シンシアは戸惑いながら受け取った。


「結婚式は友人として呼ぶのよ!!じゃあ、また寮でアレックス先輩について聞かせてもらうからね!」

オードリーはハイテンションで言い切ると、また何処へ走り去っていった。

シンシアはオードリーの結婚式はさて置き、”友人“という言葉に、少し嬉しくなった。


 友達なのかな?友達になってくれるのかな?


「シンシア! ゴメンね、オードリーが」

シンシアが感傷にひたっていると、ドロシアがすれ違い際に謝った。それからまたオードリーを追いかけている。

 

「オードリーって言ったけ、さっきの子? ルカ程じゃないけど、あの子と付き合うの大変そう」

「はあ?! オレ様をあんな猪みたいなのと一緒にすんな!」

「そうね。猪が可哀想ね」


 アネットとルカの小競り合いを横目に、あの猪突猛進お嬢様オードリーと仲良くなれるかもしれないと思うお姫様であった。


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