第38.5話 第1回寮内会議
第35話でロイに連れて行かれたアレックス。
寮内会議の様子です。
全員着席している寮内の会議室にロイとアレックスが到着した。ぐるぐる巻にされモガモガ言いながら暴れている寮長と、それを担ぎ上げている副寮長に、会議室のメンバーは度肝を抜かれたり、呆れたり、馬鹿笑いしたりと様々な反応をした。
「アレックス寮長、着いたよ」
「痛ぇだろうが、ロイ!!」
ロイにドスンと雑に降ろされたアレックスは不満たらたらだ。立ち上がりすでに集合していたメンバーと目が合うと、アレックスは気まずい空気の中、席に付いた。そしてキリッと真面目な寮長の顔になり、進行を始めた。
「よし、皆いるな。では第一回寮内会議を始めよう。先ずメンバー紹介だ」
アレックスの切り替えの早さにざわつく会議室で、一抹の不安を感じながらもロイは着席した。
学園ではどの寮も学生が主体となり、寮長を中心に寮の学内イベントや寮内イベントの企画運営など寮生活の向上を図っている。寮内会議のメンバーは各学年から男女一人ずつ選ばれる。
三年女子からは、ショートヘアで笑い方が豪快でボーイッシュなアレックスの同郷テッサ。副寮長、第一印象朗らか王子様なロイ。
二年女子からは黒髪な眼鏡の副寮長ナナコと、斜に構える生意気な男子リュート。
1年女子は猪突猛進お嬢様のオードリーと学園イチ地味なんじゃないかと忘れがちなジミー。
「本日の議題。まずは今年1年間のスローガン的なのを決めて行く。意見のある人はどんどん発言して貰おう」
アレックスが発言を促すと、冗談交じりでテッサがデカい声で言い、アレックスが突っぱねた。
「質実剛健とかどう?無難な感じで」
「堅苦しい、却下だ」
次に、オードリーが思いつくままに言い出し、アレックスが突っぱねる。
「明るく楽しく元気よく!」
「幼稚園じゃねえんだ! 却下だ!」
「炎の熱血ハウス、ルースノー」
「スポ根漫画じゃねえんだ。却下だ、却下!」
眉間に皺が寄ってきたアレックスに、ロイが呆れながら切り出した。
「アレックス、君……さっきから却下ばかりだけど……もっと言い方ないの?」
「じゃあ何だ?ロイ、お前はさっきの中に候補があるとでも?」
「流石にそれは…ね…」
「だろ?」
「それで、君の意見は?」
アレックスが進行しているのは良いが、殺伐としたオーラをどうにかして欲しいロイはアレックスにも意見を出させた。
「俺か?俺は決まっている。そう、今年は俺と俺の愛しい愛しい最愛のお姫様との幸せな学園生活、それ一択だ!!」
自信満々に言い切ったアレックスに、会議室の空気が固まった。
「は??」
全員の目が点になっていた。一呼吸し、アレックスの言葉を理解し始め、声に出さないが、こう思った。
何言っているんだ、こいつは?
私情入りまくりじゃ?
真顔で言い切った……
お姫様って誰?
恋愛とは無縁に思えた、孤高の一匹狼として有名なアレックスから、まさかの発言に会議室のメンバーは動揺した。そんなことに構うことなく、アレックスは真面目に語り出した。
「シシィが入学するんだ。初めての学園生活で不安だろうから、ちゃんと支えていかないといけない。もし俺の愛するシシィに危害を加える輩がいたら進言してくれ。容赦しない。ヤき入れて二度と近づかせないからな。場合によっては退学させるからな」
アレックスの語り出した内容に、不穏な空気が漂い出した。
「寮長は職員に退学の進言可能だ。こんな面倒な役職についた理由は権力があるからだ。寮内、学内である程度の権限が得られる。あの子を守れるなら面倒な寮長も悪くない」
一向に終わる気配のないアレックスの語りに、周りからアレどうにかしろよ、と目線で訴えてくるのをロイはひしひしと感じていた。
『ああなるとどうしようもないんだけど……アレックスが寮長やる理由って姫サンなのね』
ロイは、アレックスが語りだしたら終わらないことを、身を持って経験しているのだ。
「俺はあの子を守る為なら何だってやる。俺は全てを愛しい最愛の彼女に捧げているからな。これからの学園生活は彼女といかにしてラブラブするか、そこに注力して行く。決まったな。では次の議題に入る」
「アレックス、決まったの? 君、それでいいの?」
しれっと次の議題へ行くアレックスに、ロイが思わずツッコんだ。
書記を兼任してるナナコはポニーテールを揺らしながら、淡々と決定事項をホワイトボードに書いた。
「次は新入生歓迎会についてだ」
アレックスは、意見を出させることなく次の話し合いを始めた。
「マジで次に行ったよ……」
「どこの寮もだいたい立食パーティーかお茶会か
バーベキュウだ。どうするか話し合ってくれ。ウチの寮は例年バーベキュウだ。以上、後は任せる」
頭を抱えるロイを他所に、アレックスは席を立とうとした。
「アレックス。君、どこへ行く気?」
ロイはこめかみに血管を浮かばせながら、地を這う様な声をアレックスに向けた。
「愛する姫君の元へだ!」
覚悟を決め死地へ赴く兵士のような言い方だが、ようは会議を抜けてシンシアの元へ行く。当然、ロイはそんなことはさせない。
「待て、まだ会議中だぞ!終わってから行けよ!」
「あっ?!んなの時間が勿体ないだろうが!俺はラブラっ…だ!!」
ロイは得意の変化魔法でアレックスのズボンの裾を縄に変え、両足を縛った。アレックスは歩けなくなってゴツンとドアにぶつかり転んだ。
「ロイ、解け」
「解いたらさあ、逃げるでしょ?あのさあ、アレックス。姫サンに君が会議サボったって伝えたらどう思う?」
真面目なシンシアのことだ、きっとアレックスを叱るだろう。可愛く叱ってくれるなら大歓迎だ。
『アル、会議サボったの?なんで?』
キョトンとした顔で純粋に気になるから質問するシンシアに、
『シシィとの時間の方が大事だからね』
『ちゃんとお仕事しないと。皆に迷惑かけちゃダメだよ』
ほんわかした口調から、殺意が溢れる透明なナイフが首元に突き付けられる所まで妄想出来た。
縛られた両足でぴょんぴょん跳ねながら席に戻るアレックスはキリッとした寮長の顔に戻り、進行具合を確認した。
「話し合いはどこまで進んだ?ナナコ」
アレックスとロイが争っている裏で話し合いは進んでいたようだ。
「はい、まず歓迎会はバーベキューになりました」
「そうか」
ナナコに相槌を打つアレックスに、ロイは、姫サン効果ってスゴいね、としみじみと痛感した。
*
「シシィってどんな子ですか?」
「余計なこと言わないで」
会議が順調に進む中、オードリーが誰もが気になったことを訊いてしまった。ロイがなんにも知らないオードリーに釘を刺すが、後の祭りだ。
アレックスはフッと笑い、右手首を眺め愛おしそうに目を細め、また語り出した。
「シンシア……シシィはな、可愛いんだ、綺麗で……あの子より尊い存在を俺は知らない。赤い髪は陽の光に当たると宝石のルビーの様に煌めいて美しく、風に靡く髪からふわりと鼻腔をくすぐる香りは芳しく、森の木々を思わせる緑の瞳は雨に濡れた葉のように麗しく、好奇心で目を輝かせた瞳は木漏れ日のように輝いて美しく、いつも俺を惹きつけて魅了していて、白い肌は誰も触れたことのない新雪のように冷たさがあり肌触りは心地よく、この肌に跡を残すのは俺だけだと思うと熱くなって、唇は朝露に濡れた薔薇のように瑞々しく、そこから紡がれる声は小鳥のさえずりのように心が癒されて、抱きしめたら折れてしまいそうな華奢な身体、ほっそりと手足はいつか肉付きがよくなり健康的になって行くんだろな。今は少女だがこれから大人になって益々美しくなるんだ。俺の胸にすっぽりと収まる小さい身体からはいつも花の香りがして俺の全てを癒して、俺の心を落ち着かなくさせて、もう彼女の全てが愛おしいんだ。愛してるんだ。性格だって可愛いんだぞ……」
アレックスが照れたり慌てたりすれば、面白いしからかい甲斐があるが、嬉々として長々語り出すからタチが悪い。ロイは最近、そう思っている。
アレックスがシンシアへの想いを溢れさせている時、アレックスの左耳のイヤリングが振動し、耳鳴りの様な音が響いた。アレックスがイヤリングを押さえると、落ち着いた男性からの連絡であった。
「アレックス、今時間ある?」
「何だ、トールか? 俺なら問題無い」
アレックスは極めて冷静に応答した。相手の名前はトール。同じクラスのスウォーレン寮の寮長だ。
「ウチの1年が、おたくの1年生かな?赤い髪の女の子と一騒動起こしてさぁ。アレックス、行ける?」
赤い髪の女の子はあの子しかいない。アレックスの空気が変わった。恐ろしく冷たく研ぎ澄まされていった。
「場所は?」
「ウチの寮の近く。ミモザ通り」
「わかった」
アレックスは場所を確認すると、転移魔法ですぐに向かった。
事情は定かては無いがアレックスの纏う空気から、何かあったとロイは理解出来た。が、何処か腑に落ちない。
そこへトールの相棒である、女性の姿をした雷の精霊エレクトラから伝言が届いた。ロイが受け取った小さな紙切れにはこう書かれていた。
『アレックスに現場に行って貰ったよ♪』
「現場?」
さっきトールとの通信を聞いていたロイは、アレックスが血相変えて行く程の現場とは何だと、唸りながら考えた。エレクトラがロイに弱い静電気を当て、注意を向けさせた。それからエレクトラは壁に件の現場の様子を映し出した。
赤い髪の女の子が金髪の男子と戦っている映像だ。それ見てロイは、察した。
『あぁー……アレックス、帰って来ないな』
ロイは、アレックス不在でも滞り無く進行している会議を、遠い目で眺めていた。




