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野良犬と宝石のお姫様  作者: 鶴野江
第3章 アルバム
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第35話 初めての友達②

 オリエンテーションを終えたシンシアは、アレックスに案内され学生食堂にきた。

 新学期が始まり、生徒達の賑わいが戻ってきた昼食の時間。きっちり制服を着ている生徒やローブを着ていなかったり、制服の上着を着ていなかったりする生徒など様々である。


 アレックスに教わりながら、シンシアはブュッフェスタイルで提供されるおかずやパンなどを取り、席についた。


 シンシアの昼食は豆のサラダ、チキンソテー、パンと野菜スープ。アレックスはタルタルソースを大量にかけたフィッシュアンドチップスにトマトのパスタにサラダだ。「頂きます」の声で食べ始めたシンシアは、自分よりも量が多いのに皿の料理の減る速さが同じアレックスに、なんだかんだ男の人なんだなと自分との違いを感じていた。


 アレックスは隣に座るシンシアと他愛ない会話をしている。

「アル、ソース多くない?」

「こいつはソースがメインだから、これでいいの」

「それでいいんだ……」

 しれっとした顔でもくもくと食べるアレックスに、食べ方は人それぞれだからと、シンシアは聞き流すことにした。


「シシィは?」

「美味しいよ。食堂ってこんな感じなんだね」

「ああ、ビュッフェだと量が少ないだのいちゃもんつけたり、盛り付けとかにうるさいヤツも関係ないしな」

「そんな人いるんだね」


 世の中色んな人がいると、まだまだ世間慣れしていないシンシアも実感している。クラスメイトや食堂にいる生徒達に、シンシアは今まで自分が触れてきたお嬢様とあの先生が特殊過ぎたと思うのであった。


 楽しそうに会話をしているグループや、一人で黙々と食べている人、男女で仲良く食事をするペア、忙しそうにかき込んで席を離れる人などなどを見たシンシアは、これがこれからの日常なんだとなんとなく思った。



「そういえばシシィはAクラスだよな。どうだった?」

 アレックスから不意を突かれた質問にシンシアは固まってしまった。新年度初日の会話としてはありふれた物だが、シンシアにはかなり痛い内容であった。 

「えぇと……部外者的な?」

 あれこれ考えたシンシアは気まずい表情でアレックスに答えた。

「まあ、そんな感じにもなるか?」

 アレックスは腑に落ちた様子だが、シンシアは不安でいっぱいだ。 

「他のクラスはクラス替えがあるけど、Aクラスはそれが無いからな。基本的にから中学からずっと同じメンツだ。クセのあるヤツが多いけど、まあその内に馴染んでくると思うよ」 

 アレックスは俯くシンシアを励ました。


 シンシアはアレックスの説明に馴染み難い理由がわかった気がした。既に出来上がったコミュニティに入れずにいるのだ。

「あと他のクラスから人外クラスとか化け物扱いされがちだけど、気にしないでね」

「人外クラス?」

 スゴイ言われようだなとシンシアは思ったが、400年眠っていた自身も大概だなと納得した。


 *


 アレックスとシンシアは他愛ない会話をしながら、昼食を終えた。

「シシィ、食べ終わった? 食器片付けようか」

「うん」

 アレックスの後ろに付いてシンシアは食器を下げた。食堂を出て暫く歩くとアレックスがシンシアに、

「そうだ! シシィ、校舎案内しようか?」

 と微笑んだ。

「いいの? 忙しくないの?」

「初日の午後は授業とかないから大丈夫だよ」

「そう?」

「さぁ、行こうか」


 シンシアはアレックスに用事がなければ大丈夫だろうと、学園の案内をしてもらうことにした。アレックスは声に出さないが、「校内デート、校内デート♪」と、夢に見た憧れの校内デートにウッキウキで手を繋ぎシンシアと歩き出した。浮かれているアレックスをシンシアは、何か嬉しい事ごあったのかな?ときょとんと見ていた。


 *


 まず最初にシンシアがアレックスに案内されたのは、普段の授業で使う教室棟だ。朝は教室へ急いでいたため、ゆっくり見ていなかった場所だ。そこは吹き抜けのエントランスで、入ってすぐ目につくステンドグラスには学園のシンボルの不死鳥が描かれていた。更にその下には色の抜けた4頭の獣のステンドグラスがあった。

「スゴイ、キレイだね」

 ステンドグラスに魅入っているシンシアにアレックスは説明した。

「不死鳥は学園のシンボルで、下にあるのが各寮のシンボルだ」



 ここはダグラス学園。現在では幼稚園から高等部まであり、中等部からは寮制である。学生寮には、かつて存在したとされている聖獣がそれぞれの寮のシンボルとして掲げられている。シンシアは、学園に入学する前にアレックスの祖父ヒューゴに教わった事を思い出した。



 ダグラス学園には4つの寮がある。

 東の深碧の鷲と風をシンボルとする緑の寮、ウィグレスト寮。

 西の青藍の竜と水をシンボルとする青の寮、シャルロッテ寮。

 南の黄金の獅子と雷をシンボルとする黄色の寮、スウォーレン寮。

 北の白銀の狼と炎をシンボルとする赤の寮、ルースノー寮。

 それぞれの寮には聖獣が宿り生徒達を見守っていると。




「俺達の寮はルースノー寮。今は狼のトコの色がほとんどないけど、ハウスポイントってのが貯まると色がついてきて一枚の絵が完成する。ハウスポイントは、校内イベントとかテストの成績で加算されて、日頃の行いが悪いと減点されたりで、まあ1年間そのハウスポイントを各寮で競うって訳だ。わかった?」

「なんとなく」

「生活してればわかるよ」


 そういえば、アネットが赤いトコとか黄色とか言ってのはこれかな?


 色が所属する寮を表すと、シンシアはアレックスの説明と今までの会話から何となく理解した。


「イベントとかの行事は学内と、あと寮の掲示板に貼ってあるから見に行こうか」

 とアレックスがシンシアをエスコートしようとした。そのタイミングでアレックス達に声が届いた。



「普通に生活してればどっかの誰かさんみたいマイナス100ポイントなんてないから」

「ああ?!」

 まだ根に持っているのかとアレックスが不機嫌になるが、そんなことは関係ないと前方からアレックスと同じ長身の金髪の男性が、王子様然としたさわやかな笑顔でやって来た。

 シンシアが誰だろうと思っていると、

「アレックス……君を待ってたよ」

 金髪の男性は待ち合わせしていたのように声をかけた。


「ロイ、キモい」

 アレックスにこんな台詞を言えるのは、長年の付き合いのあるロイだ。アレックスは心底うざったい様子で睨みつけた。ロイは臆することなく更に近寄った。

「このコが姫サンだね。 初めまして、オレはロイ。アレックスのルームメイトで付き合い長いんだ。それにしても、いやぁ〜ホント小さくて可愛いお姫様だね」

「え?あ……」

 シンシアは自分は関係ないと思っていたら声をかけられ固まってしまった。ロイが興味津々にまじまじとシンシアをみるのが気に入らないアレックスは、咄嗟に、シンシアを抱き寄せてローブの中に入れた。

「寄るな!触るな!ってか姫さんって何だ!?」

「彼女、名前で呼んでいいの?」

「ダメだ!!」

「じゃあ姫サンだね」

 声を荒げるアレックスとは対照的にロイは愉しげだ。


 アレックスがロイに睨みつけでいると、シンシアが腕をタップした。

「アル、苦し……」

 アレックスは慌てて腕の中からシンシアを出すと、必死に謝った。

「ああ、シシィ。ゴメンねゴメンね」

「もう大丈夫だから……謝らなくても……」 


 そんな二人を飄々と流してロイは本題に入った。

「イチャイチャしてるトコ悪いけど、アレックス、寮内会議が午後からあるって言ったよね?」

 ロイはアレックス寮長に副寮長として仕事をさせに来たのだった。


「聞いてないぞ」

 と、寝耳に水といった反応を見せたアレックスにロイは溜息をついた。

「アレックス…君が黄昏てる時に言ったんだけど……やっぱ聞いてなかったか……」


「嫌だイヤだ、行かないぞ!念願の憧れていた校内ラブラブデートなんだぞ!!」

「これから何時でも出来るでしょ?皆会議室集まりだしてるから。それにさぁ、アレックス、君…寮長でしょ?君がいないと会議始まらないから」

 イヤイヤ期の駄々っ子になったアレックスに、ロイは嫌々ながら連れ出そうと言い聞かせる。


 そんな二人の間に埋もれていたシンシアはおずおずとアレックスに進言した。

「アル、お仕事行った方が……」

「えーと…でも…シシィは俺といたくないの?」

「お仕事あるなら、私なんかよりそっちに行かないとダメだよ」


 シンシアの声が天の声だと、瞬時に判断したロイはチャンスを逃さない。

「姫サンが言ってるから行こうか。アレックス」

 ロイはネクタイを縄に変化させ、アレックスの全身を縛り上げた。口が開けられずにもがもがと訴えているアレックスに構うことなく担ぎ上げ、制服の上着をコウモリの翼に変化させ飛んで行った。

「姫サンは夕方までに寮に戻ればいいから」

 ロイに会議に連れて行かれるアレックスを、シンシア呆気にとられ見送った。

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