第34話 初めての友達①
学園編始まります。
新学期初日の3年Aクラスの教室。ロイが一人で席に座っていると、黒縁眼鏡の緑のネクタイをきっちりと締めた男子生徒から声をかけられた。
「ロイ君、一人なの?」
「ああ」
いつも一緒にいる筈の人物がいないと、普段のよくあるやり取りだ。しかし、今日は理由がいつもとかなり異なっていた。
「アレックスならお姫様のエスコートだからね」
「??」
お姫様が何ことかさっぱりわからない男子生徒はきょとんとなった。
素知らぬ顔でロイがそろそろ来るだろかと、教室のドアに目線を向ければ、アレックスが入ってきた。
「噂をすれば王子様のお出ましだ」
とロイは茶化しながらアレックスを迎えた。
「何の話だ?」
アレックスは怪訝な表情を浮かべたが、いつもの戯言だと無視した。
「おはよう、アレックス。君はお姫様の王子様じゃなかった?」
アレックスがお姫様で浮かべるのは、愛しい愛しい最愛のお姫様シンシアだ。
「ふっ、確かにな」
先ほどのシンシアの桜の花もピンクに染める満開の笑顔を思い出し、満更でもない顔を浮かべアレックスは席についた。
窓を眺め愛するお姫様に想いを馳せる。
*
ここはダグラス魔法学園高等部1年Aクラスの教室だ。着席順は決まっていないようだ。後ろの席では、いくつかのグループが談笑している。アレックスに連れられやって来たシンシアは、空いている前の席につくなり男子生徒に絡まれた。男子生徒は黄色のネクタイをゆるく結んでいた。着崩した制服の長袖シャツの左袖からリストバンドが見えた。ニットのベージュのベストに右眼が榛色で左眼が鳶色のオッドアイの男子は、縄張りに来た不審者に威嚇するかのようだ。
「見ない顔だな?凡人クラスから上がってきたクチか?」
「えーっと、あの」
初対面で威圧されたシンシアはかなり困惑している。
シンシアは今まで比較対象がいなかったため、自分は凡人かもしれないと思うが、自分の事を何も知らないのに言われたくなかった。
「このクラスは選ばれたエリートだぞ。凡人クラスで上になれたからってノコノコ来るトコじゃねーって、このオレ様が教えてやろーか?」
自分が凡人かどうかはさておき、初対面で見下されていると理解したシンシアはムッとした。
喧嘩腰の相手にどう反論すべきか考えていると、
「はぁ?何言ってんの。ペーパーテストの成績、下から数えた方が早いクセに」
後ろから青いネクタイの青い髪に白いメッシュのポニーテールの女子が冷やかしを入れた。
「うるせーな、セレン。オレは魔法の実力でこのクラスに来たんだよ。テストの成績はどうでもいいんだよ」
噛みつくように大声で反論していたが、かなりバツが悪そうだった。セレンと呼ばれた女子の参戦で、更に戸惑うシンシアの上からまた別の女子がやって来た。
「ルカ、やめなさいよ! 困ってんじゃん、その子」
「いてーよ、引っ張んなよ! アネット」
先程から絡んでいた男子の名前はルカ。そのルカに呆れたように止めに入ったのは金髪の女子だ。アネットと呼ばれた女子がルカの肩を掴みシンシアの席から引き離した。
色んな方向からガヤが入るのが初めてのシンシアは混乱していたが、ルカがアネットに引き摺らていくのを眺め安堵した。
改めて見るとアネットはルカによく似ていた。アネットは男子並みに背が高くスレンダーで、右眼が鳶色で左眼が榛色のオッドアイだ。そしてルカと同じように黄色のネクタイで制服を着崩していた。
「ほら、席付きなさいっ」
子供を叱るような言い方でアネットはルカを席に座らせると、杖を取り出しルカに何の魔法をかけた。するとルカが「グエッ」っと悲鳴を上げ潰されたよう机に突っ伏した。それからアネットは申し訳なさそうに、シンシアの元に謝りに来た。
「ゴメンね、ウチの弟が。そうそうアタシはアネット。アンタ、名前は?」
「えっ、あ…シンシアです」
「シンシアは赤いトコなんだ。ウチら黄色」
赤と黄色はネクタイの色だ。アレックスが学園についてあまり説明してくれなかったシンシアは、色が何を意味しているか分かっていなかった。
「あと、ルカ、あれはカスみたいなヤツだから無視していいよ」
「カスって何だよ。つっーかお前のが下だろーが!」
取ってつけたようなアネットの一言が聞こえたようだ。ルカは突っ伏しているが威勢は良いようで、アネットを睨みつけた。
この姉弟は喧嘩する程仲が良いのか、本当に仲が悪いのかわからないシンシアはあたふたするだけだった。だが周りは「またやってる」と、呆れていたり無関心な様子だ。
「兄さんが言うならしかない」
誰と話していたのかルカが急に大人しくなった。
アネットも
「あんまりルカ甘やかさないでよ、兄さん」
と、ため息をついきながらルカの隣に座った。
―にいさん? 誰かいたかな?
シンシアは独り言のように見えたが、誰かと話しているのは確かだと感じた。不思議だなと思っていると、クラス担任のコクランが恐る恐る来た。挨拶をして出席確認して、これからのスケジュールの説明が始まり、時間が過ぎて行った。
その間、シンシアはクラスの中で浮いているのをひしひしと感じていた。
初めての教室で縮こまってしまったシンシアは、二人の視線の違いに気づくことはなかった。
アネットが送る小動物を愛でるようなそわそわした視線に。
ルカの威嚇するようなギラギラした視線に。
連載再開します。
更新は不定期になるかと思いますが、よろしくお願いいたします。




