表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野良犬と宝石のお姫様  作者: 鶴野江
第2章 新しいページ
34/51

第33話 新しいページ②

 アレックスがケントに萌がどうのこうのと繰り広げているとは、微塵も思っていないシンシアはかつての妹との記憶を振り返る。


 あの兄弟の様に、言いたいことを言い合える仲の良い姉妹になりたかった。昔のことを悔やんでも仕方ない。もう存在しない妹より、これから家族になる人を考えることにした。シンシアが家族で浮かんだのが夫婦と子供達だった。そして自分の隣にいる夫が誰になるか想像すると、浮かんでくる人物がアレックスで顔が赤くなった。


 シンシアはこれ以上考えていたらダメだと頭を振り、制服姿の自分を鏡で見た。その姿にシンシアは思った。


 学校……行っていいんだ。行ってみたかった。今まで見ていただけの世界を、経験している。これから経験する。アルはいつだって私の初めてをくれる。



 そんなことを想うとアレックスに、シンシアは制服姿を見てもらいたくなった。

「アル、どうかな?」

「似合うよ、可愛いよ、最高だよ」

「大きくない?」

「シシィはこれから背が伸びるから大きくていいんだよ」

 ご機嫌なアレックスに、制服はこれでいいとして羊の店員を呼んだ。店員が巻き尺でシンシアの袖など数か所測定し、メモを取り終えると

「じゃあ、あとでウエストとスカート丈とか袖丈とか調整するから制服脱いで終わり」

 と言ってシンシアを着替えさせた。



 制服のサイズ合わせが終わり、元の服に着替えたシンシアはアレックスにぎゅうっと抱きつかれた。

「シシィの私服も可愛いよ〜」


 いつもメイドさん達は可愛い服を選んでくれるからそれかな? とシンシアは、よくわからない余韻に浸り、しみじみしているアレックスの好きにさせていた。

「至福の一時、幸せだ〜」

 シンシアの頭に顎を乗せ何時までも離さないアレックスに、シンシアは店を出るように促した。

「アル、他のお客さん来ると邪魔になるからお店出よう?」

「そうだね。じゃあ行こうかシシィ。ほらケント、行くぞ」


 アレックスは愛しのお姫様には甘い声で呼びかけ手を引いて、弟にはぶっきらぼうな声で促し店を出た。


 *


 次に来た店は本屋である。二階に上がりアレックスとシンシアは教科書を購入した。ケントは恋人同士な二人の世界に割り込むことはせず、距離をとっている。


 用事が済んだシンシアは本棚の本を眺めていた。初めてみる魔法と科学が並んだタイトルに興味津々だ。


 魔法陣幾何学

 現代科学は魔法に追いついたのか

 魔法数学理論

 科学的怪奇現象は魔法学解明できる

 魔法生物図鑑

 毒の魔女の薬草栽培秘術




 シンシアはアレックスと出会ってから色々な本を読んでいたが、ここにあるような本は読んでいない。

 魔法使いしかいない場所は、本のジャンルも魔法なんだなと、これこらこんな本で勉強するんだとシンシアはワクワクした。本の題名から判断は難しいが、『未知の究明、生活を豊かにしたい、理論の追求、現象の言語化、医学薬学の発展』などなど、科学と魔法は今の国では相容れないものだが、魔法と科学の目指す所は同じかも知れない、とシンシアは思った。



 店の本をパラパラ捲りながらシンシアは思う。本の中には新しいことが沢山ある。本を書く時、自伝や取材記でもない限り、過去を思い返しながら書かないだろう。今の自分の記憶は、ページの無い落丁本のような物だ。アレックスと出会う以前は、失くした記憶のページを内容を埋めようとしていた。でも今は新しい本の真っ白なページを埋めて行こうとしている。これらアレックスと、これから会うみんなと作り上げていく新しいページに何が書かれるか、どんな物語になるか楽しみだ。




 *


 シンシアは学園入学まで礼拝堂て祈りを捧げ、城の周りの雪かきをしたり、初めて体験する格闘技を習ったり、城の図書室で本を読んだり、ギャラリーに案内されたり、子供達と遊んだりと穏やかな日々を過ごしていた。


 そしてやってきた学園入学の日。アレックスは寮のシンボルマーク、白銀の狼が背中にあるエンジ色のローブを纏い、シンシアは真新しいダボダボな制服にエンジ色のローブを着てアレックスにエスコートされている。シンシアはアレックスに整えて貰ったビシッとした赤いネクタイで、アレックスのネクタイはシンシアの練習用でいびつな締りのない状態だった。


「アル、ちょっと待ってて」

 ふいにシンシアはアレックスを振り切り、桜の木の下へ駆け出した。

「え?ああ」

 アレックスはシンシアが何かを見つけたのかと気になり、ゆっくりと歩く。何をしているかと見れば、シンシアは青い小鳥を両手で包み治癒魔法を掛けていた。アレックスはその様子を穏やかな気持ちで眺めていた。


「もう治ったよ。痛くない?大丈夫かな? じゃあね、行っておいで」

 シンシアは小鳥の怪我が治ったか確認し、小鳥を空に放った。


 その慈愛に満ちた眼差しで青い小鳥を放つ少女が女神のようでアレックスはまた恋に落ちた。


 シンシアは何事もなかったかのように戻って来た。

「シシィ花びら付いてるよ」

「ありがと」

 白い薔薇の髪留めの側についた桜の花弁を、アレックスがクリスタルのブレスレットをはめた右手で払った。

 それからふたりは端から見れば恋人のように見つめ合い、手を繋いで歩き出した。



 *


 お姫様の学園生活が始まります。これからお姫様の新しい本の新しいページにどんな物語が記されていくか。それは誰も知らない。

第2章はこれで終わりで、次の第3章から学園編になます。

感想、レビュー、ブクマ、評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ