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野良犬と宝石のお姫様  作者: 鶴野江
第2章 新しいページ
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第32話 新しいページ①

 ヒスイと再会した翌日。

 アレックスはケントを探すついでに、シンシアに町の案内していた。

 城の外では、昨夜雪が降っていたようで、雪かきに追われていた。アレックスも雪かき要員でお呼びがかかったが、お姫様の案内があるとでかわしていた。


 煉瓦や石垣の30軒程の小さな集落、シンシアは大人の背丈よりも積もった雪は初めてで、

「こんなに雪が……」とぽかんとしていた。

 そんなシンシアにアレックスは「毎年こんなもんだよ」とさらりと応えた。


 アレックスに手を引かれて歩くシンシアは忙しそうに働いている人々を眺め、アレックスにおずおずと訊いた。

「手伝わなくていいの?」

「大丈夫だよ」

 アレックスは毎年のことなので特に気にするはない。大変そうだと心配しているシンシアに安心させたくて、キョロキョロ何かを探した。

「ああ、始まった。シシィあそこ。見てみな」

シンシアはアレックスが指差す方角へ目を向ける。あちらこちらから火炎放射を放つ人々がいた。

「最初は真面目にスコップで雪かきしてたけど、やってらんねぇで火の魔法ぶっ放すんだ。よく見る光景だから」

「……」


 スゴイ、あんな簡単に火の魔法使ってる…


 シンシアは自分の諦めた火の魔法を放つ人々に目を見張る。以前なら羨ましいや悔しい、といった負けず嫌いな感情が湧き上がっただろう。しかし、今のシンシアはそこまで対抗心はない。火の魔法を必要としていないのと、火を点ける道具、マッチやライター等が沢山でてきたからだ。

代わりにシンシアが思うことは、「ホントに魔法使いが沢山いるんだ」ということだ。



 飛び交う火の間を抜け、アレックスは集落一の大通りでスコップで雪かきの手伝いをしているケントを見つけた。

「ケント、いたか。相変わらず真面目にやってんだな」

「何?兄貴。若いから体使えっていつも言われるし、それに炎で融かすと泥々になるじゃん」

汗水垂らして働いている自分に対して、呑気にお姫様とお散歩している兄に、ケントはムッと不機嫌に応えた。そんなケントに構うことなく、アレックスは要件を訊く。

「制服と教科書は?」

「今日の午後行く予定」

「じゃあ、シシィも一緒に行こうか。俺もまだだったし」

 

 アレックスはケントに新学期の準備について確認できたら、シンシアに甘く微笑んで城に戻った。その二人を見たケントは、

「兄貴、それ訊きに来ただけ?手伝わないの? 全く、お姫様に甘いんだから」

と不満をこぼしながら雪かきを再開した。




 *



 午後、アレックスはシンシアとケントを連れて、学園近くの商店街に来た。

 まず、向かったのは洋品店だ。


 アレックスは店員を見つけると声をかけた。

「彼女の高等部の制服作りたいのでお願いします。火属性耐性最大で。あと体操着とローブも」

「あいよ、色は?」

「赤です」

 アレックスの通う学園では、制服のネクタイとローブと体操着の色が所属する学生寮のシンボルカラーとなっている。シンシアはアレックスと同じ寮で、赤となる。


「わかった。今用意するよ」

 注文を受け店員が服を探しに店の奥へ行った。シンシアは自分の代わりに店員とやり取りをしてくれたアレックスに、申し訳なさを感じていた。しかし、気さくな壮年の女性店員のある部分が目につくと、その点以外目に入らなかった。

 柔らかなウェーブの金髪に羊の角があったのだ。

「アア…アル、さっきの店員さん」

「あの人がどうした?」

「頭に……」

「羊の獣人かな? たまにいるんだよ、獣の部分を隠してない獣人が」

「獣人…いるんだ。初めて見た」


 獣の特徴を有する人間、獣人と呼ばれる種族がいることを、シンシアは本で読んでいた。現実にいるとは思っていなかった。初めて、獣人を見たシンシアはお伽話の世界にいる錯覚を感じた。シンシア自身もお伽話の存在だったことは忘れていた。ここに来るまでにシンシアは、箒で空を飛んでいる人達や人語を話す猫や動く人形も見ていた。シンシアは、魔法使いしか住んでいない場所は不思議が沢山あるんだな、と感心していた。




 シンシアが本の一コマにありそうな場面の回想をしていると、先程の羊の獣人が試着用の服を運んで来た。シンシアは店員から体操着を受け取り、試着室に案内された。


 

 シンシアが試着から戻った。体操着に着替えたシンシアを目の当たりにしたアレックスが固まり、うわ言の様に呟いた。

「ケント、分かるか? 俺は今、奇跡を目の当たりにしている……」

「奇跡って何?」

ケントは意味が分からず、アレックスに聞き返した。

「あれ見てわかんないのか!!あのダッサイ芋ジャーであんなに可愛いんだぞ!!奇跡以外の何物でもないだろうが!!」

アレックスが言う芋ジャーとは、アレックス達の寮指定のさつま芋の皮色のようなジャージである。アレックスはそれを着たシンシアの可愛さを力説するが、ケントには理解に苦しむものであった。


 確かに、義姉さんは可愛い系だけど。童顔で背も小さいし……

 

 隣で壊れた警報器の様に、かわいいかわいいかわいいと呟いているアレックスにケントは、惚れた相手だとこうも変わるのかとドン引きしながら思った。

 

「もう少し小さいのありますか?」

「これは?」

「ありがとうございます。着てみます」

 シンシアは着ているジャージが大き過ぎたようだ。裾は床を擦っていて、袖は完全に指先が隠れる長さだ。店員から別のジャージを受け取り、試着に戻った。

 そんなシンシアをみたアレックスがまた、何やらケントに力説した。


「ケント、今のが萌え袖というやつか?! 俺は今、初めて萌を理解できた気がする。そうだ!今度俺のシャツ着てもらう!」


 兄貴、そういうの知ってるんだ……


 ケントはアレックスが寮やクラスで聞くような年相応の一面を垣間見て、遠い存在だった兄との距離感が近くなったように感じられた。がしかし、今までの人と馴れ合わないクールで孤高なイメージが崩壊し、残念になった。


「なぁケント、袖萌は袖の長さに比例するのか?それとも俺のを着るから萌なのか?どう思う」

「兄貴の解釈で良くね?」

 ケントはどう思うと訊かれたが、何を言っても残念な方向にしか行かないと思い投げやりになってきた。


 「俺のシャツを着たシシィ……シシィが着たシャツを俺が着るとシシィの匂いが付いたシャツを着ることになるのか? 最高じゃないか!」

「兄貴、女の子に匂いとか言わない方がいいよ」

「えっ!ダメ!!?俺、シシィの匂い大好きなのに、いい匂いなのに!」


 興奮気味なアレックスにケントは、黙ってくれないかと内心思った。




「サイズどうだった?」

「ちょっと袖が長い位であとは大丈夫です」

「ジャージは終わったから、次は制服だね。取り敢えずこれ着てみて」

「はい」

シンシアは体格にあった体操着が決まると、制服の試着に向かった。



 試着室から出てきたシンシアにアレックスがまたも壊れた。

「美しい、キレイだ……今まで女子の制服姿見て何も思わなかったけど、シシィが、愛する人が着るとこうも尊いものになるなんて……これが制服萌か!?」


 ケントは恍惚感に浸るアレックスを遠い目で見ていた。ケントは兄がお姫様に夢中なことを昔から知っていた。毎日森の中に消えて行くのを見ていた。お姫様が森から出てきたことで、家族の会話が増えて、使用人や町の人と話すアレックスの姿も見るようになった。思い詰めた表情も見なくなった。兄の新しい一面に、父の言う通りいい方向へ向かって行っているかも知れない。例えそれが残念な方であっても。



「あの膝下丈のスカートが清楚さを際立たせているな。ブカブカな上着もいいよな。待てよ、俺が制服着たらペアルックか!?」

「俺も同じ制服だし、学校行けば皆ペアルックだよ」

 何を言い出すかと思えばこれだ。口をあんぐり開け固まったアレックスに、ケントはこんな残念な兄は見たくなかったとつくづく思った。


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