第31話 染まる色②
ヒスイオジさんによる説明回
「キューキュー」
「キューちゃん?」
シンシアが母の愛情に心打たれ涙ぐんでいた所に、キュリウスが真新しい羊皮紙を咥えてやってきた。シンシアはキュリウスからそれを受け取り、文面を読んだ。
第414期 入学許可証
シンシア・ルイーゼ・ファーマ
「入学許可証?私のフルネームってこれ?」
「ああ、そうだ」
シンシアがヒスイに確認して貰い、初めて自分のフルネームを知った。そしてアレックスに満面の笑顔で抱きついた。
「アルー、合格したよ。一緒に学校行けるね」
「ああ」
合格確実と確信していたアレックスも、笑顔でシンシアを抱きしめた。だが、ぎゅっと出来たのは束の間だった。
「そうだ!キューちゃん。これ、どこにあったの?」
シンシアはキュリウスと伴に羊皮紙があった場所に行ってしまった。
「行っちゃったか……」
アレックスは巨木の周りをチョロチョロ動くシンシアに溜め息をついた。もう少し抱き合っていたかったな、と。
*
アレックスはシンシアが自分の元へ帰って来ない様子なので、ヒスイに近づいた。すると、ヒスイが厭味ったらしく話しかけた。
「それにしても、アリーの野郎はここがわからなかったみたいだな。ヒントあったのにな」
「ヒント?そんなのあったか?」
アレックスは、この場所のヒントは無いだろと思い返す。
「あっただろ?この国の神話を知らないとはいわせねーぞ。聖女様と聖獣のお話だ。聖女と白銀の狼が北の山に春をもたらした。そして番となり暮らしていた神殿がこの近くにある。シンシアの髪色とあの時の狼の姿でわかんなかったか?」
ヒスイが偉ぶった態度で言う。
「当時の俺にそんなことを考える余裕なんてなかったぞ」
小馬鹿にされていると感じたアレックスは苛立ちを顕にした。
「そうかよ。せっかくアリーの日記やら手紙やら渡しそびれた贈り物の数々を城に運んだのにな。無駄骨だったな」
「はぁ!!?」
ヒスイのアレックスは声に出さなかったが、「こいつかー!!」と憤慨していた。
城で保管してある初代城主の資料、もといアリーの少女への思いの丈を綴った日記と手紙。それらは代々大切にされ、さらに研究と称し読まれていた。実際に書いたのはアレックスではないが、自分で書いたも同然だった。そんな訳でアレックスはもうシンシアへのラブレターは親も見ているからと、開き直っている。
「よくまあ読んでて赤面する文章かけるな。恥ずかしくないか?見るつもりはなかったんだけどよ、中身分かとらないと説明できないからな」
ニヤニヤされては説得力に欠ける。アレックスは「読みたかっただけじゃねーか」と言いたい所を堪えた。
「あの城の初代城主ってやっぱり……」
アレックスは分かっていたが、事実を知る人物から答えを聞きたかった。
「アリーってことにしといたぞ」
「やっぱり」
自分の全く知らない所で事が動いていた。それも全てはシンシアの為だとなると、アレックスは受け入れるしかなかった。
「初代城主の逸話で合ってるとこもあるだろ?」
「確かに」
赤い髪の乙女に恋い焦がれる白銀の狼はまさにそうだ。当時のアリーは少女への感情に明確な言葉を示せなかったが、確かに恋焦がれていた。愛していた。今も、アレックスとして愛している。
アレックスが城に纏わる逸話とヒスイの話の考察していると、ヒスイが徐ろにナイフ掲げ、陽の光にかざしながらアレックス話しかけた。
「あとアレックス、話は変わるけどよ。このナイフの色、薄っすら水色が着いていると思わないか?」
「そうか?透明にしか見えないけど」
「まあ今は透明でもこれから少しずつ濃くなるかもな。因みにディアナがこんなの創ると銀色がかった結晶になる。アルベルト、ディアナの夫、シンシアの父親な。あいつが銀髪でその色に似てたな」
「それで?」
アレックスはヒスイは話が見えずにいた。魔力で作り出された物は、人それぞれ特殊が出る為、違うのは当然だ。アレックスは母娘で違うんだな程度に思っただけだ。
「まあ、聞け。でだ、ウチの一族の長が言っていたんだ。”染める相手は選ばないが、染まる相手は選ぶ“とな。これがどんな意味か検証しようにも、今となっては確かめる方法も人間もない。まぁオレの仮説ではな、心を寄せる相手の色に染まるんじゃねーのかと思うんだ。よく言うだろ?俺色に染めたいだとか、あなたの色に染まりたいだの」
アレックスは、心寄せる相手の一言に食いついた。シンシアが心を寄せる相手がいるのか?だとしたら誰だ?
アレックスにとっては重要な問題だ。
「アレックスの瞳の色は水色だよな?これがそうだとしたら?」
水色でアレックスは初めてのデートで買ったたマグカップを思い出す。あの時シンシアが水色を選んだ理由が自分の瞳の色だとしたら……。シンシアが自分のことを意識してるのかもしれないと想うと、アレックスの体温が上がった。普段なら制御出来ている熱が制御しきれないでいた。
「言っとくけどよ、オレはお前を認めてねーからな。卒業したらこき使ってやるから覚悟しな。まあ、精々残りの学生生活イチャコラしやがれ!」
話の終わったヒスイは、シンシアのナイフを細かく砕き、破片を自身の身体に取り込むように纏わせた。ヒスイはキュリウスに餌を食べさせているシンシアを、「早速やってんな」と微笑ましくみつめた。
次に真っ赤な顔を右手で覆い、もごもご言っているアレックスに冷ややかな目線を送った。
最後に「じゃあな」と告げて、何処かへ消えた。
*
シンシアがキュリウスと戻った時、ヒスイは帰ったようだった。シンシアはなぜだか固まっているアレックスに声を掛けた。
「伯父さん帰ったみたい。アル、私達も帰ろう?えーと、あのお城でいいんだよね?」
アレックスは完全に意識の外からのシンシアの呼びかけにビクッとなったが、そのおかげで我にかえることが出来た。
「あ、あぁそうだな。日も暮れるし帰るとするか」
冷たい空気の夕焼けの空、シンシアはアレックスにお姫様抱っこされてキュリウスに乗っている。こんな乗り方ではこのドラゴンの主がシンシアに見えないが、そんなことを気にする二人ではなかった。
「伯父さん色んなお話してくれたね」
「俺も初めて知ったのがかなりあったからな」
「そういえば、伯父さん普段何してるか話してくれなかったね」
「そうだな。あの義伯父さん何もんなんだ。謎だよな」
城にまつわるあれこれやシンシアの一族も重要な話だった。しかし、そんなことよりもアレックスはシンシアの心が自分の色に染まっている。その事実で頭がいっぱいだった。
「キューちゃん、夕焼けで赤く染まってキレイだね。赤いの食べさせたら赤いキューちゃんになるかな?」
シンシアが赤く染まるキュリウスに無邪気にはしゃいでいる。
「アルも真っ赤だね」
シンシアが顔を上げるとアレックスも赤くなっていた。赤いのは夕焼けのせいか、はたまた……
*
その日の夕食前、アレックスは城の老執事ジェバンニ・モリスをシンシアに紹介した。ヒスイからの話を切り出したが、白髪に丸眼鏡の物腰の柔らかい老執事に、その話はヒスイ同席の上でとはぐらかされた。急ぐ内容でも無いため、アレックスとシンシアは諦めて夕食を摂ることにした。
辺りが寝静まった真夜中、シンシアと抱き合って寝ていたアレックスはキャンキャン喧しい声に起こされた。アレックスは心の内側から耳をつんざく金切り声でまくしたてられ、ウンザリした。
「なんでぼくのことだれもいわないのよ!!ごしゅじんさまだってぜんぜんだし、なんなのよ!!」
「あれから何年経ったと思ってんだ?とうの昔に亡くなってる奴の話なんか蒸返して。それに話題にしても、“そうだね、もういないよね”ってごしゅじんさまを悲しませるだけだぞ」
アレックスが応えながら嫌気が差してきた。
「それにな、シシィは今、慣れないことを頑張ってんだ。学校だって始まるしな。シシィは前に進もうとしているんだ。本人から話さない限り俺はお前の話はしないことにしてるんだ」
アレックスは嫌々なからも、落ち着かせようとしてみたが、それは機嫌が悪くなる一方だった。
「いつもいつもいつもいつも……ごしゅじんさまはあんたことばかりだ!! ぼくがいないあつかいで、ぼくがいらないみたいじゃないのよ、なんでよ!!もういい、しらない」
話が噛み合わ無いまま、それはドス黒い感情を剥き出しにして奥へ消えていった。




