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野良犬と宝石のお姫様  作者: 鶴野江
第2章 新しいページ
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第28話 お姫様の帰還①

 「ふぁああ〜、寝てたか……」

 麗らかな春の午後、アレックスはリビングのソファーで、いつものようにシンシアを抱っこしていた。他愛ない会話の中で、いつの間にかお互い寝ていたらしい。寝起きで欠伸が出た後、腕の中のシンシアを愛でる。


 年頃を女の子と同じ手入れのされた白い肌、サラサラの赤い髪、艶やかになった爪。

「今日も可愛いね。大好きだよ。愛してるよ」

額に口づけながら、アレックスはシンシアの今後を考えた。


 来年度から同じ学校にケントが行くから紹介した方がいいよな……。今あいつは実家か?雪かき要員だろうな。実家に行かないとダメか。つーことは家族の紹介か? シシィは家族に憧れているから、ちゃんとやるべきだろうけど……


 ケントはアレックスの弟である。今度、シンシアと同じ学校に入学する同士なので、紹介したい。そうなると、他の家族も紹介することになるが、アレックスは気が乗らない。

 

 シンシアはあの城の伝承のお姫様だ。それが、伝統や伝承を代々重んじる家系に会いに行くのである。アレックスは嫌な予感しかしないが、行くしかない。何かあったら自分で対処する、このお姫様を守ると、アレックスは腹をくくった。


 アレックスがそんなことを巡らせていた時、シンシアが起きた。目が合ったアレックスは、「起きた?よく寝てたね」と微笑んだ。

「アル? おはよ?」


 寝起きのぽけ〜っとした顔も可愛いね、と言いたい所を我慢して、アレックスは話を切り出した。

「シシィ、あの、今度、俺の家族を紹介したいんだ。月末辺りに俺の実家に一緒に行こう?」

「実家?」


 この話を聞いてシンシアは思った。暫く住んでいるのに、アレックスの家族が家に帰ってこないことは、自分がいるからなのか。気を遣わせてしまっていることを、お世話になっていることを謝罪しないといけない。端から見れば怪しい存在でしかない自分の現状を説明したい。


 シンシアは大事な日になる為、失敗したくない。事前情報を訊いて、シンシアは備えようとした。

「アルの実家ってどんな感じ?」

「……城?」

 アレックスは、これから行く実家のことを訊ねられ考えたが、どう見ても城しか言えない。


「しろ?」


 *



 「お城だ……お城だ……」

「ああ、まあ見た目は普通の家じゃないけど、気負いしないで大丈夫だから」

 細雪の中、アレックスに案内された実家を見上げたシンシアは圧倒され、足がすくんでいた。城だと言っていたので、城ような豪邸を想像していたが、本物の城だった。

 

 シンシアは、アレックスがお金持ちだと思っいたが、城に住んでいるとは思わなかった。自分のいた時代でも城に住む人とは、縁の無い世界だと思っていた。しかし、今からお邪魔するのは年代を感じる立派な古城だ。


 北の雪山ということで、コートを着ているシンシアは、それなりにフォーマルな装いだと思っているが、城に入る装いか不安だ。

 そんなシンシアを他所に、ラフな服装のアレックスはシンシアをエスコートしていく。


 城に入ると、外で遊べない子供達が走り回っていた。その中の一人がアレックスと、見たことがあるような無いような女の子に気がついた。

「お姫様だ!お姉ちゃんはお姫様だね!」

「お姫様?」


 絵本で見たお姫様そっくりなシンシアに、女の子は興奮していた。何の事かサッパリ分からないシンシアは、アレックスに訊ねた。

「それは後で話すからな。とりあえず俺のじいちゃん探そう」


 はぐらかされたシンシアだが、今はアレックスの家族紹介が優先なので、挨拶をどうしようかと考える事にした。アレックスは寄って来た子供達をあしらい、城の使用人に家主を呼ぶように伝えた。




 暫くして、祖父ヒューゴがやってきた。アレックスはヒューゴに帰ったことを告げた。

「じいちゃん、帰ったよ。彼女は……」

「姫!?まさか、姫様であられますか?」

「姫??」


 珍しく帰宅の連絡を受けていたヒューゴは、アレックスと二、三やり取りをするだけだと思っていた。が、アレックスの隣にいた人物を見るなり驚愕した。暑苦しい大声が城に響く。ヒューゴはアレックスの言葉を遮り、シンシアに駆け寄った。シンシアはまたしても姫と呼ばれ困惑するばかりだ。



「伝承と違わぬその鮮やかな赤い御髪、深緑の森の瞳、愛らしいお顔。城に飾られた肖像画と瓜二つでありますな」


 伝承? 何の事?


 シンシアの分からない事がまた増えた。


「アレックス、何故黙ってた。皆の者、姫が帰って来た。盛大にもてなしの準備だ。姫にはお召し替え頂きます」

「え!?」

 ヒューゴの号令が城に響くと、使用人がテキパキと動き出す。シンシアは着替えにメイド達に連れて行かれた。


 ーこんな予感してた……


 運ばれながらシンシアは、「キャシーさんで経験しておいて良かった」と、現実逃避していた。ヒューゴに拳骨されているアレックスと、杖や指先一振りで内装が代わる様を眺めていた。




 あれよあれよと言う間に、おめかしされたシンシアは、盛大な晩餐会の中心人物となった。


 末端の使用人の位置かと思っていたが、まさかのお姫様であった。お客様でお嬢様だったアレックスの父親宅以上の立場に、いたたまれずにいた。


 席に着くと、アレックスが家族を紹介した。それから

「姫の帰還に乾杯!」

ヒューゴの乾杯で、晩餐会が始まった。

「申し訳ございません、姫様。この愚息が何も連絡してなかったため、急拵えの晩餐となってしまい……」

アレックスの母ヴィルヘルムに

「いえ、とても立派で……気にしてませんので」

と、しどろもどろに返した。



 シンシアのアレックスの祖父ヒューゴの印象は、姿勢のシャキッとした勢いのあるおじいちゃんだ。母ヴィルヘルムは、厳格でキリッとした顔立ちで、男性だったらアレックスのような容姿だろうか。アレックスは母親似なのかもしれない。


「前菜はコンソメジュレだって。美味いよ。一番外側のスプーン使って。あと、シシィのは葡萄ジュースだから」

「うん、ありがとう」

 アレックスは甘い笑顔でシンシアに甲斐甲斐しく世話を焼き、時折熱い視線を向ける。そんなアレックスを見た弟ケントは、口をあんぐり開けて目を見開いていた。

(兄貴、まさか……そうなの?え?!)

 ケントはお姫様に夢中なアレックスに衝撃を受けた。

「父さん、兄貴が…。ってか、あのお姫様はお姫様なの?」

 興奮冷めやまぬままにケントは、父スティーブに話しかけた。途中、目の前にいるお姫様は伝承のお姫様か怪しくなった。そんなケントをスティーブは優しく諭す。

「アレックスが連れて来たからお姫様だと思って間違いないと思うよ。それに、やっとアレックスが安らげる人を見つけられたから、そうっとしてあげな」

 スティーブはアレックスが自分達の家族になった経緯、地域での見方をわかっている。だからこそ、愛情に満ちたアレックスの表情を引き出せるお姫様を快く思う。




アレックスの現在の家族紹介

祖父ヒューゴ 熱血じいちゃん

母ヴィルヘルミナ 生真面目堅物教育ママ

父スティーブ 押しに弱い温和な婿養子

弟ケント  真面目なツッコミ役

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