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野良犬と宝石のお姫様  作者: 鶴野江
第2章 新しいページ
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第23話 観察者

 「帰りたい」

「アレックス、まだ始業前だよ。あと今日から定期試験だから帰らないで」

学校の教室で、アレックスが窓の外を見ながら不満げだ。そんなアレックスにロイが「また始まったよ」と呆れながら返した。


 アレックスはロイに目線だけで「黙れ」と

訴え、また外を眺める。そして今朝の一幕を思い返した。



 「シシィ……また、ひとりにさせてゴメン。俺も離れたくないんだ。ずっと一緒に居たい。ずっとこうして……」

「アル、私なら大丈夫だよ。アルが沢山教えてくれたから」

「でも、シシィに何かあったら……俺は耐えられない」

「そんな心配しないでいいのに」

アレックスとシンシアが抱き合い、別れの挨拶を交わす。アレックスはシンシアが心配で不安で、泣きそうだ。シンシアはそんなアレックスを安心させようと声をかける。


 こんな二人をキャシーは、「アレックス様の心中お察しします。でも、ご安心下さい。シンシアお嬢様は私にお任せ下さい!……ああ、イケメンと美少女の別れ際の抱擁……何と美しい光景なんでしょう」と感動している。


 「今生の別れじゃないんだから」

「早く学校行け、遅刻すんぞ」

とセスとジェフは呆れている。


 いつまで抱き合っていたか。シンシアの「遅刻はダメだよ」の一言で、アレックスはやっと離れた。

「アル、いってらっしゃい、頑張ってね」と手を振るシンシア、「アレックス様、いってらっしゃいませ」ハンカチで目元を抑えるキャシー、白けるセスと呆れるジェフに見送られ、アレックスは後ろ髪を引かれる思いで玄関を出た。



 アレックスは右手首の水晶のブレスレットを眺め、シンシアに想いを馳せる。


 ──可愛いかったな……。放課後すぐ帰るから。今日何するのかな?本読んでいるかな?今日の服も可愛いかったな。なんであんなに可愛いんだろう……。


 ロイは、右手首を見てニヤニヤとご機嫌なアレックスにを気味悪さを感じながらも、伝えるべきことを伝えた。

「アレックス、君。今日の放課後エド先生が話があるって……ええと、聞いてる?」

「ああ……あー……あっ!!」

ロイに生返事したアレックスは放課後の呼び出しに、何かしたかと思い当たる節を探していた。そして話の内容を察して、「あれか!?」と焦りを見せが、「まあ、どうにかなる」と明後日の方角を見つめた。



 放課後、アレックスはエド=ウィンドの居室転移魔法で向かった。エドの居室は、担当科目が占星術ということもあり、学園のプラネタリウム室だ。半円の天井には星々が映し出されている。部屋の中央には太陽を模した明かりを中心に太陽系の惑星が並び、各々の軌道上を移動している。その中で宙に浮きながら、学生のレポートの採点をしているローブを纏った小柄なエルフがエド=ウィンドである。

 アレックスに気がついたエドは、レポートを抱え降りてきた。

「アレックス?来たね。ちょっと待って。このレポートしまうついでに隣に行こうか」

「はい」

エドがレポートを片付けに行った先は、机と本棚ひしめく作業部屋だ。アレックスは威圧感の籠もった眼光に黙って従うしかない。



 エドがレポートをクラス別、採点済、未済点と仕分けしている間、アレックスは言い訳考えている。

 エドはデスクに座り、アレックスと向き合った。

「アレックス、マイナス100点」

「ま、マイナス?」


 マイナスされたのは、アレックスの在籍している寮のポイントだ。この学園は4つの学生寮があり、寮のポイントを1年間競っている。自分だけのポイントではないため、プレッシャーが違うのだ。


 「君の行動は表彰物だけど、過程がね」

「か…過程…?」

エドは諭す。しかしアレックスは冷や汗ダラダラであまり。聞こえていない

「まず、報告してね。あと暴れるはいいけど、姿ね。君のぼさぼさ頭でケモ耳はバレてないかもしれない、尻尾は、いいけど。君の動きを追えた人間がいないとは思う、それはいいけど。急な事態でも、学校いたよね君?なら相談位できなかった?こっちでも、あっちでも警察沙汰確定、退学ものだよ?あのおじさんがいて助かったね」

「はい、申し訳ありませんでした」

アレックスは弁明の余地がなかった。学外で魔法や能力を許可なく使用禁止、魔法に準ずる事象の存在を表に出してはいけない。アレックスはかなりの違反をしていた。

「今回は彼女がいたから、罰則はハウスポイントだけで許されたよ」

「ありがとうございます」


 アレックスは何も関係の無い寮の皆に悪いことしたな、と謝りつつそれだけで済んだことに安堵した。


「この言い方を嫌っていることはよく理解しているけど、彼女は観察対象だ。更に言うとアレックスもだけど」

シンシアが観察対象なのはその血筋にある。かつて存在したとされる聖女の一族の唯一の末裔。しかも血筋が正確に遡れるとなれば、研究対象としての価値が高い。アレックスはシンシアの扱いが気に入らないが変えがいないのも事実。


「引き続き観察任せたよ」




 それから、アレックスはネチネチと成績や報告書の内容をいわれた。アレックスは腑に落ちない部分もあったが、エドの居室を後にした。



 アレックス退室後、エドはアレックスの残した古い羊皮紙に賛辞を送る。

「それにしても、よく見つけたね」


 羊皮紙に書かれた内容。

第一期入学許可証

シンシア・ルイーゼ・ファーマ


シンシアの入学許可証だった。




 「アレックス、君。何したら−100ポイントになんの?」

 アレックスがエドと話をしている間に、ハウスポイントの減点が伝わっていた。ロイに責められると

「俺は関係無い」

アレックスは白を切ろうとした。

「先生に呼ばれてたし、朝のあの表情はさあ、あるでしょ?」

「……」

更に追求してくるロイにアレックスは無言を決め込んだ。


 この日から暫く、アレックスは寮生からもチクチク言われた。

 自分ひとりの勝手な行動が後々、皆から後ろ指差される事態になる。皆を巻き込む事態にもなる。アレックスは改めて、反省した。



おまけ


 その日帰れなかったアレックスは、夜にお風呂上がりのシンシアと通話していた。通話と言っても携帯電話では無い。鏡を使った通信魔法である。

 アレックスとシンシアは手元に鏡を置いて通信している。最初、シンシアは戸惑っていたが、アレックスと話をしている内に鏡を意識しなくなった。

「シシィ、今日何してた?」

「今日はお散歩して、それから人体解剖図鑑と動物の解剖図鑑読んでた。もっと早くからあれば狩りの時に捌くの楽だったなって」

「まあ、確かに。でもあの時代にカラー印刷は無いからな」

「そうだけど…」

「あとシシィ。今着てるの何?」

「これ?キャシーさんが用意してくれたの。アニマル着ぐるみパジャマシリーズの猫ちゃんだって」

ちなみにシンシアが着ているのは三毛猫だ。

「シリーズって他にもあんの?」

「うん。猫、犬、羊、牛、兎、狼、虎、熊、蛙、鹿…」

「随分あるな」

「うん。じゃあ、アル、私眠くなったきたからお休みなさい」

「ああ、お休みなさい。良い夢を」


 シンシアとの通信を切ったアレックスは、着ぐるみシンシアの姿を反芻している。


ー子猫なシンシア可愛いかったな。子兎もいいな!子羊も可愛いよな~。しまった!ニャンニャンって言って貰えばよかった!!言えばやってくれたか?


 今日一番反省したアレックスであった。


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