第22話 おねだり②
風呂上がり、寝間着のアレックスとシンシアが暖炉の前で寄り添い、毛布に包まっている。ふぁ~と欠伸をして、シンシアは眠そうだ。アレックスは昔よくこうしてたなと、感慨深く浸っていると、
「アル、あのね。前から訊きたかったの。この体制、こんなに引っ付く必要ある?邪魔じゃないかな?」
シンシアが最近疑問だったことを訊いてきたた。アレックスがシンシアを膝に乗せ抱っこして座ったいる姿勢について。アリーの時は、肩を寄せる程度だったが、今はがっちりと腕の中だ。
「シシィを邪魔に思う訳ないだろ?俺がこうしたいから、してるの。シシィももっとぎゅっとしていいのに」
「ええと、遠慮します」
困った表情のシンシアに、アレックスは遠慮しないで抱きついて欲しいが、それを言うとさらに困らせると断念した。
「そうだ、シシィ。好きなものとか、欲しいのある?」
自分の小遣いに限度はあるが、プレゼントするならシンシアの好きなものがいい。アレックスは欲の無いシンシアに訊いた。するとシンシアはキッパリと、「無い」と答えた。
「無いの?」
その答えも想定していたが、余りの即答に、乾いた笑いがこぼれた。そんなアレックスの心中を察してか、シンシアは暫く考えた。それから、“無い”の理由を言葉にする。
「好きになったものとか気に入ったものは捨てられてたし、壊されたりで……そういうのが最初からなければ辛くないかな?って」
シンシアはアレックスの引き攣った表情を戻そうと、それとなく言っていたが、後半から虚しくなっていた。
アレックスはシンシアの置かれていた環境を思い返す。家族から愛される、当たり前のことを当たり前にもらえなかった少女のことを。
アレックスはシンシアがふさぎ込んでしまう前に、話題を変えた。
「シシィは、あの……俺、ってか昔、騎士学校行っている間、会いたかった?俺は会いたかったよ」
「……私も…会いたかった」
目を合わそうしない赤らんだシンシアに、アレックスは“お互い想い合っていたんだな”と心が温まる。今なら、今までの想いが伝えられるかもしれない。アレックスがそう思っていると、シンシアが続けた。
「会って話して、キッチリ別れたかったから。お礼して、独りで前に進めるように。心残りが無いようにって」
「わかれる?」
──あれ?なんか思っていたのと違うぞ?
雲行きが怪しくなったアレックスは、思考力が低下していった。
「街で一人で働ける位に勉強してたし、おじいちゃんに紹介状書いて貰うつもりだったし。今までのお礼と、これから独り立ちして頑張るからって、言いたかったの」
──ああ……独り立ちどうのこうのって言ったな。あの時とは違うんだ。でも、独り立ちしようとする心意気は良い。非常に良いことだ。でも……
アレックスは前世の自分の発言に後悔した。シンシアの努力と心意気を否定したくない。独り立ちしないでいいよとは言いにくい。アレックスはあの日伝えたかったことをシンシアに伝えてみた。
「俺は一緒に暮らそうって」
「住み込みのお手伝いさん?」
「働き手としてではなくて……ええと、あの、迎えに行くの意味わかって……」
「アルの伝手でも仕事は探せるかなって。それに、アルのお嫁さんの邪魔になるから、家出て行くよ。あんまり迷惑かけるの嫌だから」
シンシアはアリーと王都で仕事を探す予定だったらしい。仕事をすることに反対しないしないが、嫁については話が違う。
「今、また環境が違うから勉強しないといけないことが沢山だから、独り立ち出来るまでご厄介になるのいいかな?」
──あの、俺の嫁は……
シンシアの“会いたかった”は、文字通り会いたかっただけかもしれない。自分に恋焦がれることはなかったかもしれない。
「いつまでもいていいんだよ。って寝たの?」
寝付きの良いシンシアに落胆しつつも、しっとりになってきた赤い髪を、白い肌を愛でる。
──頼って欲しい……
わがまま言って欲しい……
これから沢山色々な所に連れて行くよ?
色んなものを、色んな景色を見せてあげる。色んなものに触れ、色んな音を聴いて……
シシィの好きなものを探そう。一緒に見つけよう。
それから、俺のこと好きになって。
勘違いと思い込みと先入観ですれ違う二人。
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