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野良犬と宝石のお姫様  作者: 鶴野江
第2章 新しいページ
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第19話 お出かけ①

 アレックスはシンシアの朝身支度を待っている間、リビングでニュース番組を観ていた。そこでサムソン・ターナー宅が昨夜火災にあったこと、家屋の全焼、サムソンが焼死体で発見されたことを知った。


 ──ああ、忘れてたな。シシィには言わないでおこう。義伯父さんに会えたら聞くか。ってか、あの人どこで何やってんだ。


 シンシアを捕らえていた小説家に制裁を加えたかったが、未成年の自分には手出しが出来ない。そのことをアレックスは遺憾に感じていた。後始末はヒスイがやってくれたと信じて、チャンネルを変えた。天気予報が流れてきた時、キャシーがシンシアを連れて来た。シンシアをみれば、他の奴など忘れてしまう。


 「アレックス様、シンシアお嬢様の身支度が整いました」

「シシィ、今日も可愛いよ」

 今日のシンシアは白いセーターにエンジのロングスカート姿だ。アレックスはシンシアに抱きつき、髪を撫で、白薔薇の髪留め(バレッタ)に触れた。

 シンシアはアレックスを剥がしながら、この家にきてからの不満をぶつけた。

「アル、私お客様ないです。あと、お嬢様扱い要らない。働かせて欲しい」

こんな接待を受ける人間ではない。下働きでいいと。

「ダメだ。シシィは俺の大切なお姫様だから。働かなくていいの。ゆっくりしていいの」

「そうです!シンシアお嬢様はいずれここの奥様になられるのです。我々を手足のように使って構わない方です。むしろ使って下さい。それが私の仕事なのです」

「そうなの。シシィはメイドじゃないから、メイドにならなくていいの。分かった?」


 勉強中の現代語で猛烈な剣幕の早口でまくし立てられ、二人の圧力もあり、シンシアは反論出来なかった。結局負けて、お嬢様扱いをしぶしぶ受け入れた。



 アレックス達によるシンシアの至れり尽くせりの朝食後、リビングのソファーで、シンシアはアレックスの膝に乗せられている。


 「アル?これは?」

「シシィの指定席。俺の膝の上」

この状況は何なのかシンシアは訊いたが、アレックスの答えがシンシアには分からない。そんなシンシアを膝に乗せてアレックスご機嫌だ。「やっぱ赤い髪に白い薔薇が似合うね。気に入ってくれてありがとう。可愛いな」とエンドレスに呟いている。


 ──この髪留め、アルもお気に入りなのかな? 


「そういえば、これは?」

アレックスが思い出したように指差したのは、隣にちょこんと座る透明な手乗りサイズのドラゴンだ。

「この子はキュリウスでキューちゃん。なんかよく分かんないけどいたから、名前をつけたです」

「わかんないのか?」

「うん」


いつもどこかを飛んでいるキュリウス。シンシアが分かっていないものだとは、アレックスは知らなかった。


──シシィの言うこときくし、危害を加える訳ではなさそうだし……まあ、いいや。


 アレックスは釈然としないが、キュリウスを勝手に付いてきた生き物と解釈した。アレックスとシンシアが他愛ない会話をしていると、コートを手にキャシーがやってきた。


 「アレックス様、シンシアお嬢様。お出かけ準備をいたします」




 

 今日の予定は市街地での買い物だ。コートを着たシンシアをアレックスが車に案内する。シンシアは初めて乗る車に戸惑っていた。

「アル、これは大丈夫なのですか?」

「事故らなけりゃ大丈夫だよ。セス、安全運転だぞ!」

「分かってますよ。アレックス様」

おっかなびっくりなシンシアを安心されるアレックス。それに応えるセスである。


 セスは最後にキャシーが乗ったのを確認し車を走り出した。車に乗ったことの無いシンシアは、窓ガラスに張り付いて景色を眺めていた。アレックスはシンシアに町の建物など説明している。


 「アル、あの赤い筒は?」

「あれば郵便ポストだな。手紙の集積箱だ」

「あの巨大な箱は?」

「あれはスーパーマーケットだ。食品売り場」

「あれは?輪っかに人が乗ってる」

「あれか?自転車だな。自分を脚で漕いで進むんだ。今脇を通ったのが、バイク。あっちは動力で進む」

「あれは?棒が刺さっているの」

「あれは街灯。街の灯りだ」

「あれは?」


 この様子を見たセスとキャシーは、シンシアが育児放棄(ネグレクト)されていたことの改めて痛感した。特にキャシーは小さなお姫様に尽くさなければと、強く思った。


* 


 最初に降りた場所は、郊外にあるヘアサロンだ。まずはシンシアの髪を整える。


 「ここは?」

「私の実家のヘアサロンでございます。さあ、シンシアお嬢様、こちらへお掛け下さい」


 キャシーは状況の掴めていないシンシアにシャンプーから始めた。

 シンシアはキャシーのあれこれに慣れたようで、されるがままでいた。

 痛んだ髪をカットし、胸辺りの長さに揃え、前髪を整え仕上た。

 

 「シンシアお嬢様の痛んだ髪に合うトリートメントは、専門の店でないと手に入りませから。私の実家に寄らせ頂きました。どうですか?」

「キレイになった?」

「シシィ、キレイだよ。可愛いくなったよ。誰にも見せたくないくらい!!可愛い可愛い可愛い」

 


 シンシアの髪の手入れが終わるとアレックスとシンシアは車に戻った。キャシーが店からシャンプーやトリートメント、ヘアオイルなど車に乗せている間、後部座席でぼんやりしていた。

 さらさらで艶やかになった髪に、シンシアは満更でないようだ。髪に触れ、こうも変わるんだねとしみじみ感じた。


 ──自分一人でも出来るかな?やってもらうだけじゃなくて、自分で出来ないと。出来ることを増やしたい。今はこの時代のことを教わるしかないけど、いつか一人で生きるんだ。


キューちゃんも一緒にいます。

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