第2話 宝石のお姫様①
世界観は現代風異世界ヨーロッパ
宝石のお姫様は作中絵本の題名です。
むかしむかし、あるところに
宝石を生み出し、なんでも宝石に変えるお姫様がいました。
お姫様の宝石は王様だけでなく街のひとたちにも大人気でした。
みんなお姫様をみると宝石を欲しがりました。
ある日、そんなお姫様にとなりの国から王子様が会いに来ました。
お姫様は王子様に挨拶をして沢山お話しました。でも王子様は喜びませんでした。
そこでお姫様は王子様に魔法で宝石を作りました。その宝石に王子様はとても喜びました。
それを見てお姫様は考えました。
みんなは私ではなく私の宝石が好きなのかもしれないと。
ある夜、お姫様は沢山の宝石を作り
お城と街を宝石に変えて森の奥へ隠れました。
朝になって街中が宝石になってみんな喜びました。
しばらくの間、街のみんなはその宝石で浮かれていました。でもまたお姫様に新しい宝石を作ってほしくなりました。
この時、初めてお姫様がいないことにみんな気がつきました。
お城の中、街の中どこを探してもお姫様はいません。お姫様がいないと新しい宝石はできません。やがて街のみんなは人の宝石を奪うようになりました。
そして争いが始まり、キラキラしていた宝石のお城や街は壊れていきました。
その頃お姫様は大きな宝石の中へ閉じ籠もり、誰が探してくれるのを待っていました。
暫くして街の人が森の中でお姫様を見つけてこう叫びました。
宝石のつくれ
宝石をだせ
くつを宝石に変えてくれ
そう、お姫様を心配する人はいませんでした。
お姫様はやって来た人たちに何もしませんでした。
何もしてくれないとわかった人たちは、お姫様のまわりの宝石を壊そうします。
しかし宝石はびくともしませんでした。
やがて疲れた人たちは帰りました。
その後また同じような人たちが来て、何も得られず帰っていきます。何度も同じことが起こると誰も来なくなりました。
私ではなく宝石が欲しいだけなんだ
私には興味がない
お姫様は悲しくなりました。
いつしかお姫様は永い眠りにつきました。
それから街から宝石が消え、人が消え、宝石のお姫様は忘れられてしまいました。
おしまい
「“宝石のお姫様”の絵本はここで終わりだ」
*
ここは国の北部国境線の山脈沿い、豪雪地帯の山の中腹の小さな町。かつてのウォルフワルト辺境伯の居城だ。
現在はウォルフワルト家が管理の為に暮らしている。領主であった時代は終わり、城はただの公民館扱いだ。ほとんどが住民の憩いの場であり、託児所、宿泊所、避難所になっている。
特に長い冬場は吹雪く前に町民がここに集まり、厳しい冬を越すようになっている。食料問題や安否確認作業がし易く、住民達も仕事がしやすく好評である。
2月半ば、今日も外は雪が降っている。遊びに行けない子供たちにせがまれたアレックスは、読み聞かせていた“宝石のお姫様”の絵本を閉じた。アレックスは城主の家系で、寮制魔法学校の高等部2年生だ。彼は学期中間休みに一時的に帰ってきただけである。子守りの手伝いに来たわけでは無いが、子供たちに捕まって絵本を読んでいた。
「お姫様どうなったの?」
「王子様は?来ないの?なんで?」
「お姫様は王子様のキスがないから起きられないじゃん」
「お姫様かわいそう」
「使えない王子様だな」
子供たちが口々に絵本の結末に文句を言っている。そのひとつひとつがアレックスの心に突き刺さる。子供相手なので堪えているが、子供向けの笑顔の裏でピキッと苛立ちが見え隠れしている。うるせーガキ共だな、と声に出したいところ我慢している。
「ほら、この本の話はもう終わりだ!終わり!」
相手にしていられないと、アレックスが絵本を棚に戻しに行った時
「アレックス、ここにいたか!」
勢いよく姿勢の良い元気な老人が入ってきた。手にはスコップ、アレックスは言わんとすることが判った。
「雪かきだ。この晴れを逃すと暫くは出来んぞ」
声高に熱苦しく呼びかけるこの老人は現城主ヒューゴ、アレックスの祖父である。そんな祖父に冷めた態度で答えた。
「じーちゃん、だからさあ。俺は家の手伝いに帰ってきた訳じゃないんだけど…手の空いてる人達いないの?」
「人手はあるが、ここにいるからには手伝ってもらうぞ!」
「俺は従順な犬でも崇高な人間でもないんでね、他あたって?」
アレックスの台詞の裏にある言葉を察して、祖父はたじろぐ。本人の意向を無視した村人からの勝手な跡取りとして、城主としての期待と圧力。そこから距離を置きたいアレックスは村人達が集まる場所を嫌う。
ヒューゴがそんなアレックスに反論しようとした時、
「お外行けるの?」
「雪合戦、雪だるまやる」
「お外、お外!」
子供達がなだれ込んできた。
「おし、じゃあ皆は外で雪遊びだ!」
子供向けの顔になったアレックスは、子供達の勢いに便乗して、いつの間にか晴れた外へ出て行った。
*
城内の庭で子供達の元気な声が響きわたる。アレックスは近くにいたメイドに、子供達を任せると城を出た。
向かった先は城近くの森。この森は地元では狼の森と呼ばれ、アレックスの祖先から守り続けている森である。その森には結界が張られている為、奥まで辿り着いた人間はいない。しかし、アレックスは子供頃に結界を抜けて奥まで辿り着いたのである。この結界の内側は外側比べて積雪が殆ど無い為、雪をかき分け進むことは無い。そうではあるが、結界の入り口付近までは雪が深い。普通に行くのは困難だかアレックスは転移魔法で移動している。
アレックスはいつものように結界の内側に転移魔法で移動し、森の奥へ進んだ。毎日通っていたせいか、いつからか地面が固まり道となった。そんな道の、僅かな積雪を踏みながら辿り着いた場所には、大きな洞が目につく老木があった。
ここには“宝石のお姫様”のお姫様がいた。絵本の挿絵と同じ、宝石の中で眠るお姫様がいたのだ。絵本のお姫様なら10代半ばの年頃だろうか?絵本の挿絵のようにガラスの棺で眠る赤い髪の少女は、手は荒れていて痩せ細っていて背も低い。お姫様には程遠い薄汚れた服であったが、顔立ちは愛らしくお姫様のようだった。
絵本の中では眠り続けていたが、現実の宝石のお姫様は王子様を待つことなく目覚め、何処かへ消えてしまった。
──あのお姫様は今何をしている?
新しい家族と幸せに暮らしていたら…
その隣に俺以外の男がいたら…
俺はあの子を諦められるのか?
無理だな…あの子は俺が幸せにしたい
先程の子供達の言葉がアレックスに突き刺さる。
大抵の物語の王子様ならお姫様を迎えに行けた。お姫様を幸せに出来たはずだ。
それが出来ない自分は
「ホント使えない王子様だな…」
お姫様が消えた場所で、アレックスは不甲斐なく呟いた。




