第18話 LR
この日の夕食後、アレックスはシンシアに宛がった部屋の前でうろうろしていた。今、シンシアはキャシーに風呂で洗われている。
アレックスはシンシアがいない間、昔話の切り出し方を悩んでいた。シンシアから色々と訊かれるかと思っていたが、そんなことは無かった。新しいことの連続で積もる話も出来なかった。アレックスは「まあ、ずっと一緒だからいつでもいいや」と、シンシアが落ち着いてから話すことにした。
アレックスがあれこれ考え込んでいる時、ガチャリッと部屋のドアが開き、キャシーが出てきた。
「アレックス様!シンシアお嬢様なら、もうお休みになられましたよ。慣れない場所でお疲れのようでしたので」
キャシーはアレックスと目が合うと、部屋に入るなと叱る意も含めて報告した。
「え?もう寝た?9時前だぞ」
「はい。では失礼致します」
あっけにとられているアレックスを尻目に、キャシーは仕事に戻った。
アレックスが寝るには早い時間だったので、シンシアと過ごしたかったのだ。しかしアレックスは、“シンシアが寝てしまっては仕方ない”で引き返す男ではなかった。
*
ベッドライトが、クイーンサイズのベッドで横になる二人を照らす。最愛のお姫様と離れがたいアレックスは、当然のようにシンシアの隣で横になっている。
シンシアの深い眠りを確認したアレックスは、自分の心の中にいる存在に声をかけた。
「やっと会えたんだ。ぎゅっとするか? 俺の体貸すぞ」
「なんで?! やろーのからだはいやよ! ぼくはおんなのこなの!」
キャンキャン甲高い声がアレックスの内側から響いた。
「お前、雌だったのか?」
初耳の事実だった。それでも、アレックスの中でこの存在の印象が変わることはない。
「わからないのはさすがね。さいしょごしゅじんさま、おとことおもっただけはあるわ!」
「それ、今の俺に関係ないだろうが」
偉そうな口調に、アレックスは少しイライラしてきた。
「はあ?!だれのおかげでごしゅじんさまとあえたとおもてんのよ!かんしゃなさいよ!」
甲高い声がヒステリックに鳴り出し、アレックスはうんざりしてきた。
「ああソーデスネ」
「よろしい」
投げやりなアレックスだったが、返事に満足したようだ。それはまた、奥へ引き返して行った。
──こいつ、こんな性格だったのか?
あまり意識して接していないが、前世の時に会ったあいつはこんな性格ではなかったと、アレックスは思った。
いなくなった相手をウダウダ考えることはない。
アレックスは隣にいるシンシアの髪に触れた。
──シャンプーの匂い、俺のと違うな。ハーブっぽい感じ? ボディーソープも花の匂いかな? いい匂いだな。
アレックスはシンシアを抱き寄せ、髪に口付けた。それから、シンシアの髪を指に巻きつけて解く。
──痛んでいた髪は少し良くなったか?
シンシアの頬に触れ、唇に指先を滑らせる。今までロクな手入れがされていなかった肌が、しっとりしてきた。
──肌もこれからちゃんと手入れしてあげるから。髪も肌もキレイになって、どんどんステキな女の子になって、キレイな大人の女性になっていくんだよな。俺は……これからキレイに、美しくなっていく貴女に相応しい男になれるか?
アレックスが情欲的な眼差しをシンシアに向ける。
──俺はシシィがいるだけで幸せなんだ。でも、俺だけが幸せでは意味が無い。シシィが俺といて幸せになってくれないと。俺なんかより、ずっとずっと幸せになってくれないと。
アレックスはすり寄ってきたシンシアに、体温が上がる。心臓が早鐘を打つ。愛おしさが止まらない。
──ずっと側にいて。どこにも行かないで。もう俺は、シシィ、貴女のいない世界では生きていけない。俺の愛しい愛しい最愛のお姫様……
「お休み、シシィ。愛してるよ。良い夢を」
アレックスはシンシアの頬に口付けて、目を閉じた。
おまけ
翌朝。
「シンシアお嬢様、お早うございま……ああ!なんでまたいるんですか?アレックス様!ダメです!寝起きの気だるげなイケメンとか大好物ですけど!」
「夫婦が同じベッドなのは当然だろ?」
「なななにを。まだ夫婦では?!ええ??」
「教会で愛を誓ったんだ。もう夫婦でいいだろ?」
「いやいや、アレックス様もシンシアお嬢様も結婚できる年齢ではないでしょ?」
「ん、アル?おはようございます」
「シシィ、起きた?おはよう。今日も可愛いよ」
「ああ、ほんわか天然美少女と彼女にだけ甘い顔のクールな美形とかご馳走様です。じゃないです!兎に角、シンシアお嬢様のお着換えです。アレックス様は退室下さい」




